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 第12章 魔法学院(見学)編

1204.レイカの怒り

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 魔法学院の学院長室を出た私は、そのまま、次の授業の教室に向かっていった。

 あれ、誰もいないよ。どの教室を見ても、誰も座っていない。この魔法学院の授業は、それぞれの属性毎に教室が決まっている。だから、全部で15教室ある。今は、初級の講座しかないので、5教室しか使っていない。それらは、同じ階に揃っている。中級は3階、上級は4階となっている。

 あっ、この魔法学院は、実技演習場を持っていた。そこに居るんだな。

 私は、スピアの背に乗って、急いで、実技演習場に行った。

 「やれ、やれ、だね」

 何とか間に合って、こっそりと、後ろの列に並んだ。前に立っているのは、土魔法の上級教師ヒマリ先生だ。今日は、土魔法の授業から、スタートの様だ。

 「今日は、教室では、実習できないような大きな物を作っていきます」

 「「はい」」

 「それでは、まず、私が作ります。それを真似て、作ってください」

 ヒマリ先生は、小さな小屋を作った。どうも、犬小屋のような大きさだ。

 「それでは、初めてください」

 普通に、見たままの小さな小屋を作るのかなぁ。どうも、違うようだ。

 もう一度、ヒマリ先生の作った小屋を見てみた。確かに小さいが、細部まで、人が住めるような家になっている。そうか、普通の家を小さく作っているのだ。

 私は、少し離れてから、ヒマリ先生と同じように、実際に住める家を小さく作った。でも、まだ、初級の土魔法の講座だよね。これで、初級講座だと、中級は、城でも作るのかな。上級なら、街かな。

 「はい、よく出来ています。それでは、その小屋をそのまま、大きくしてください。新しく作り直すのではありません。よろしいですね。
 では、やってみます」

 ヒマリ先生は、犬小屋を人の家に変化させた。

 「「おぉー」」

 本当に、大きくなった。犬小屋がどんどんと大きくなっていった。そして、普通の家になった。

 ヒマリ先生は、わざとゆっくり大きくしたようだ。

 注ぐ魔力を一定にしながら、最終的に望むだけの魔力量を注ぎ込むということだ。魔法を単に起動するだけでなく、細かな制御を行わないといけない。

 私は、慎重に先ほど作った小屋を大きくしていった。何とか、制御できたようだ。

 「なるほど、まずまずの出来ですね。今度は、今の逆です。元の大きさに戻してください」

 今度は、簡単だった。先ほどの制御を身をもって経験したから、イメージし易くなっている。

 「結構です。それでは、ここにある鉱物をその小屋に混ぜてください。
 まず、私がやってみますね」

 ヒマリ先生は、足元に置いている鉱物を砂状に変形して、先ほど作った、小さな小屋の壁に貼り付けて行った。最初は、単に表面に貼り付けているのかと思っていたのだが、小さな小屋を作っている壁の粒子の間に鉱物で作った砂を更に細かな粒に変えながら、埋め込んで行った。まるで、最初から、混ぜていたように均一に埋め込んでいる。魔法の制御が半端ない。
 
 「それでは、始めてください」

 私も、見よう見まねで、やってみたが。鉱物を粒子に変形するイメージがうまく掴めない。どうやら、鉱物をしっかり見ていないからだ。どんな物質かを把握していないので、粒子にするのがうまくいかないようだ。これって、前の時と同じだ。分析力を強化しようとしている。

 私は、もう一度、鉱物をよく見て、どんな物質かを感じてから、やり直してみた。今度は、前よりうまくできたが、まだ、ヒマリ先生のようには、出来ていない。練習不足だ。

 やはり、最近、気が緩んでいたのだ。賢者の道を歩み始めたころは、レベルアップや、スキルアップに励んでいた。ところが、最近はそこそこできる魔法に満足して、いや、慢心して、何の工夫もなく同じことを繰り返していた。

 この魔法学院に入学して、正解だった。もう一度、自分を見直す時間が持てている。賢者の道に必要なのは、新しい魔法を作ることではない。いかに、自分の魔法を、自分を取り巻く世界を知るかだ。そして、魔力の制御を分子レベルまで、高めて行かないといけない。

 私の技量は、まだまだ未熟だ。この簡単な魔法一つで、打ちのめされた気分になった。
 
 最後に小屋から、鉱物を取り除いて、取り除いた鉱物を元の状態に戻して、授業は終わった。

 「テラ、何故、私を避けているのよ」

 レイカが、私に声を掛けて来た。少し離れて居るので、私は、レイカの傍に寄っていった。

 「別に避けていないよ」

 「今だって、たった4人しかいない授業で、あんなに離れて。何を一人でイジイジしているの」

 「イジイジだって、していないよ」

 「レイカこそ、何か、怒っているの」

 「何も怒っていないよ。何故、避けているのかって、聞いているだけよ」

 「でも、怒っているように見えるよ」

 「そんなことない」

 レイカは、そういうなり、私の胸を叩いてきた。でも、全く力が入っていない。形だけだ。

 「レイカ、私は、避けていないよ。少し、考え事をしていただけだよ」

 私は、レイカを抱きしめて、背中を擦ってやった。

 「だって、一言も話してくれないじゃない。この前の授業でも、私のこと放っておいて、教室を飛び出していったじゃない」

 「ごめん。あの時は、事務室に呼ばれていたんだよ」

 私は、レイカの頭を撫でながら、言い訳をしていた。全くそれどころではなかった。完全にパニクッていたのだ。今日は、レイカの相手をしてやろう。
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