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 第8章 ヤガータ国編

801.ヤガータ国へ

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 私は、以前行ったフラン連合国について、ある噂を聞いた。それは、連合国の中で、一番貧しく、特別な特産品もないヤガータ国についてだ。どうも、ヤガータ国は、借金だらけで、国王は国を捨てて逃げるのじゃないかって、信じられないような噂だ。

 しかも、この噂は、どうも、ヤガータ国の国王自ら広めているって、噂まで、流れている。

 私は、俄かには、信じられないが、面白そうなので、行ってみることにした。ヤガータ国は、フラン連合国の中でも、辺鄙な所にある国で、最も東北の位置にある。面積も、街一つだけのとても小さな国だ。その唯一の街の名は、都市デンロンだ。

 私は、転移魔法で、イーデン王国の都市ロンデンに移動した。
 
 そこから、フークシ国の都市モカオリを経由して、 ミーヤ国の都市イキシに入り、北に行った所にあるヤガータ国の都市デンロンに入れる。

 今回は、ロンデンの街には、用事がないので、そのまま、フークシ国に入った。この国は、工業が発展している国で、都市モカオリは、工場が立ち並んでいる。

 工場での生産には興味があるが、今は、ヤガータ国へ行きたいので、素通りすることにした。

 次は、ミーヤ国だが、ここは、大きな港があり、貿易船が行き来している。船に乗り、他の大陸に行ったり、他の国の港との交易が盛んに行われている。他の大陸の話など、非常に興味があるが、今は、我慢だ。

 私は、やっと、ヤガータ国に入国した。この国は、特に目立った産業もなく、観光場所も目立たない、何もない国だ。街も、デンロンという名ばかりの街しかない。

 本当に、これが街か、と疑いたくなるような街で、村と呼んだ方がぴったりする。

 私は、無駄と思いつつ、商業ギルドに向かった。商業ギルドは、小さな建物で、普通の民家と間違いそうな外観だった。

 「すみません。誰か、居ませんか?」

 商業ギルドの建物の中に入ったが、誰もいない。小さなカウンターがあるだけだ。客も店員も、誰もいない。

 私は、もう一度大きな声で、叫んだ。

 「誰か、居ませんか」

 「おぉ、少し、待ってくれんかのぉ」

 奥の方から、老人の声がした。ゆっくりと、歩いてくるようだ。

 「これは、これは、珍しい。お主は、客か?」

 「お爺さん、他に誰か、居ませんか?」

 私は、また、大きな声で、叫んだ。

 「わしだけじゃよ。何か、用か?」

 「この街で、店を開きたいの」

 「止めとけ、この国は、もうすぐ、無くなる」

 「国が潰れる事ってあるの?」

 「そりゃ、あるよ。借金が返せなくなったらな」

 「なぜ、国王は借金したの?」

 「仕方がなかったんだ。国民を救うためにはな」

 「何があったの?」

 「お主は、暇なのか?」

 「はい、暇です」

 「そうか、なら、ゆっくりと、話そうかな」

 お爺さんは、商業ギルドと冒険者ギルドの両方のギルド長で、唯一の商人兼冒険者だ、と本人が言っている。でも、かなり、痴呆が入っているので、本当かどうか、わからない。

 でも、ギルド長って言うことは本当みたいだ。IDを見せて貰ったので、多分、大丈夫だ。

 お爺さんの話では、この国は災害に見舞われ、国民の大半が生活苦に陥ったらしい。

 そこで、国王が、他国から、多額の借金をして、食べ物や生活必需品を買って、国民に無償で配ったそうだ。その後、国民が頑張って、国を立て直して貰えると思っていたが、国民の大半が他国に移住してしまった。そのため、借金だけが残ってしまったそうだ。しかも、国民は、その後も減る一方で、国の再建どころでは、無くなってしまった。

 現在は、国民が約2万人にまで、減ってしまったらしい。その国民も、いつ他国に移住するかわからないそうだ。

 私は、王宮に行って、話を聞くことにした。王宮への門の前には、兵士も、誰もいなかった。

 勝手に中に入れる状態だった。そこで、私も、何も気にせずに中に入っていった。

 暫く、歩いていると、謁見の間があった。中に入ると、王座に誰か、座っていた。

 「すみません。少し、話をしてもいいですか?」

 「もっと、近くに寄れ。聞こえにくい」

 「はい、ただいま。
 これで、いいですか?」

 「あぁ、いいよ。それで、どのような話だね」

 「王様ですか?」

 「そうだよ。私が、王のウェーリィだ」

 「これは、お初にお目にかかります。私は、商人のテラと言います」

 「そうか、テラか。どこから来たのだ」

 「私は、ヘノイ王国の商業都市ブューラナからやってきました」

 「ほう、遠路はるばる、ここまで、来たのだな」

 「はい、ヤガータ国が困っていると聞いて、やってきました」

 「確かに、ヤガータ国は、困っている」

 「どれほど、困っているのですか?」

 「そうじゃな、この国を捨てて、逃げたいほどじゃ」

 「国王が逃げるとどうなるのですか?この国は」

 「さて、わしにも分からん。どうなるのかな?」

 「どうすれは、逃げずに済むのですか?」

 「まあ、無理な話だが、借金を返せたら、逃げずにすむかな?」

 「どこに、どれほどの、借金を作ったのですか。それから、支払期限は、何時ですか?」

 「やけに、詳しく聞くな。まあ、話のついでか。話してやろう」

 ウェーリィ王の話では、元々は、この国には、10万人もの国民が居たそうだ。それが、今は、老人や子供が中心で、2万人にまで、減ってしまったそうだ。

 借金は、災害の時に他国から借りたそうだが、国民1人が半年暮らせるだけの金額をフラン連合国
の6つの国から、借りたそうだ。1人が1月生活するのに、金貨10枚あれば、ギリギリ生活できる。
 
 したがって、金貨10枚×6×10万人=金貨600万枚借りたことになる。しかし、金利が月10%と高利のため、今では、金貨約1億枚の借金になってしまったらしい。

 いくつかの国は、もう暫く待ってくれると言っているが、ミヤーコ王国だけが、待てないと言っているらしい。来月には、全額返納するように通達を送って来たという。

 ミヤーコ王国は、金貨300万枚と、もっとも、多額の金貨を融通して 貰っている。従って、約5000万枚の金貨を来月までに返納しなければならない。

 もし、返せなかったら、国ごとミヤーコ王国の属国となってしまう。国民は、すべて、奴隷となるという。

 私は、今、いくら持っているのか分からないので、思念伝達で、リンダに聞いてみた。

 「テラです。リンダに聞きたいことがあるんだけど、今、いい?」

 「はい、リンダです。テラ、どんなこと?」

 「今すぐに、使える金貨って、何枚あるの?」

 「今すぐですか。それなら、金貨1億枚ぐらいですね。もう少し、時間があれば、もっと使えますよ」

 「ありがとう。取り敢えず、その金貨1億枚を用意しておいてくれる」

 「はい、わかりました。明日、テラの商業IDに入れておきます」

 「ありがとう。また、連絡します」

 私は、ウェーリィ王に、お金を用立てできると伝えた。

 「テラよ。本当に良いのじゃな」

 「はい、いいですよ。ミヤーコ王国に、全額返納すると、伝えてください」

 「感謝する。早速、伝えるよ」

 私は、暫く王宮に寝泊りすることになった。お陰で、ウェーリィ王の話し相手を数日する羽目になった。
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