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 第2章 商人編

209.道具屋での出会い

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 普通の道具屋の店員の女性は、樹奈 曲ジュナ マガリという、ちょっと変わった名前だった。

 「ここに座っていてね」

 ジュナに言われたまま、私は、ソファに座った。

 「はい」

 暫くすると、ジュナはいくつかのアイテムボックスを持って来た。

 「取り敢えず、3個持って来たよ。どうかな?」

 私は、スキル鑑定で、3個のアイテムボックスを調べてみた。すると、左から、中級、上級、特級とレベルが分かった。
 
 更に、調べると、特級は、家1件分のアイテムを入れることが出来ることが分かった。そして、それを実現しているのが、刻印された魔法陣の働きだった。でも、その刻印は、闇魔法の結界で隠されていた。

 私は、何とかして、その魔方陣を覚えようとしたが、複雑で、何かにメモでも書かないと無理だった。でも、ここで、写すわけにはいかない。

 「この右端のアイテムボックスは、いくらですか?」

 「これね。金貨500枚ね」

 「うーん、今は、ないですね」

 「そうか、残念ね。でも、次は、金貨1000枚になっているよ」

 「えっ、何故ですか?」

 「これはね。買い手がいるのよ。でも、面白そうだから、あなたに買って貰おうかと思ったんだ」

 「そうですか。残念ですが、今、手持ちがありません」

 「じゃー、ダメだね」

 「ジュナさんは、こういった商品をいつも扱っているのですか?」

 「そうね。月1回ぐらい、流れてくるね」

 「また、入りそうですか?」

 「ん、欲しいの?」

 「欲しいです」

 「どうしても?」

 「はい、どうしても」

 「ちょっと、聞きたいんだけど、このアイテムボックスの価値って、わかってる?」

 「どういうことですか?」

 「詳しくは、言いにくいんだけどね。
 まあ、いいか。聞いちゃうね。
 あなた、鑑定のスキル持っている?」

 「うーん、どうしよう」

 「そうか。持っているのか」

 「え、何も言っていませんよ」

 「それで、いいの。わかったから」

 「ジュナさんは、相手の頭の中が見えるのですか?」

 「そんなわけないよ。あなたの顔に書いていたの」

 「そんな。ジュナさん、内緒ですよ」

 「わかってるわよ。だから、どうしようか、迷っていたの。
 端的に聞くけど、これと同じものって、作れる?」

 「やってみないと、分かりません」

 「何日で、わかる?」

 「1日で大丈夫ですよ」

 「そうか、1日か、それなら、ここでやってみてよ」

 「ここでですか?」

 「そうよ。嫌かしら。でも、出来たら、それを持って帰ってもいいわよ」

 「うーん、やります」

 「それじゃ、始めて。お腹空いてない?」

 「大丈夫です」

 「それじゃ、私は何か、食べるね」

 ジュナは、近くの椅子に座り、アイテムボックスから食事を出して、食べ始めた。

 私は、まず、土魔法で、特級のアイテムボックスと同じ材質の同じ大きさの箱を作った。表面を硬化してあるので、それも行った。

 二つの箱を見比べたが、ほぼ同じだった。一見しただけでは、見分けがつかない。

 次に、魔法陣のコピーだ。でも、実物があるので、それをゆっくりと正確に写していくだけなので、特に問題はない。

 私は、魔法陣にマナを流してみた。一瞬起動したが、すぐに、魔法陣は、元に戻ってしまった。

 どうも、持続させるための仕組みがあるようだ。もう一度よく見ると、この特級アイテムボックスには、魔石が組み込まれていた。そして、もう一つの魔法陣が魔石に繋がっており、更に、その魔方陣から、今模写して魔法陣へと繋がっていた。その部分が闇魔法の結界で隠されていた。

 私は、今分かったことを踏まえて、もう一度、チャレンジしてみた。魔石は、手元にある物を使った。魔石を組み込む前に、魔石に十分なマナを流しておいた。

 これで、完成したはずだ。私は、もう一度、スキル鑑定で、調べてみた。無事、完成したようだ。

 「ジュナ、出来たよ」

 「ちょっと、試してみるね」

 ジュナは、私が作ったアイテムボックスに、ガラクタをどんどん入れ始めた。気が付くと、店の中はすっかり綺麗になっていた。

 さらに、店の裏口から、外に出て、何やら彫り込んでいる。暫くして、VIP室に戻って来た。

 「良いみたいね」

 「良かった。でも、どうして?」

 「どうして? って、どういうこと」

 「ジュナは、鑑定を使わないの」

 「あれ、テラは、私を鑑定していないの? 私は、鑑定が使えないよ」

 「そうなんだ。勝手に人を鑑定するのは、失礼だから、出来るだけ使わないようにしているの」

 「へぇ、真面目なんだな」

 「そうでも、ないです」

 「それじゃ、これから、商売の話だよ」

 「これで、終わりじゃなかったの?」

 「そりゃ、そうでしょ。こんな特級アイテムボックスが簡単に作れるのだから」

 「そうか、ジュナは、これを売るつもりんだ」

 「もちろんだよ。その為に、テラをテストしたんだよ」
 
 「いつ、テストしたの?」

 「さっき、3個のアイテムボックスを持って来たよね。
 あれは、外見はすべて同じに見える様にしていたんだよ」

 「えっ、気が付かなかった」

 「そりゃ、そうだろ。鑑定ができるのに、外見を気にする奴なんかいやしないよ」

 「そうか。あの時に、迷っていたり、同じだと、文句を言ったら、テストは不合格ということね」

 「正解。そのとおり」

 「それで、私に、同じものが作れないかと、次のテストを出してきたのね」

 「テラは、欲しそうにしてたからね」

 「えっ、また、顔に書いていたのね」

 「そうだね。顔に書いていたよ」

  私は、定期的に特級アイテムボックスを納入して、その代金を貰うことになった。
 
 ジュナは、貴族に顔が利くそうで、1個金貨500枚で捌いていくようだ。

 私の取り分は、1個金貨400枚となった。私としては、魔石の分だけが材料なので、特に問題はない。

 月に10個納入することで、ジュナとの契約は成立した。それと、今後、手に入った特殊な商品を優先的に見ることが出来る様になった。といっても、また、コピー商品を創れということよね。
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