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第十八話

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 ゾルダート公爵家のルードは、帝都南に押し寄せた農民たちの件をザイオンから聞かされ、自ら大神殿に赴かねばならなかった。

 夕焼けに染まる大神殿の回廊に、踏み鳴らすような足音と、男の怒声が響き渡る。

「一体どうなっている……我が妹ヴェロミアにこれ以上恥をかかせるつもりか!」
「そ、そのようなことは……」

 ルードに対応した女性神官は、その剣幕に戸惑うばかりで、その顔からは血の気が引いている。

「神官長は何をしている。話が違うではないか……聖女が交代しても、問題がないと言ったのは奴の方だ。今の事態は、奴が招いたものと言ってもいいのだぞ……!」
「それが、神官長の姿は大神殿のどこにも……きゃぁっ!」

 苛立ちのあまりにルードは神官に手を上げる――何事かと出てきた神官たちは、怒気を撒き散らすルードに怯えながらも非難するような目を向けた。

「私たちは、ヴェロミア様に聖女となるための儀礼を受けるようにと申し上げました。それを無視して帝都に戻られたことに、私たちが責められるいわれがありましょうか」
「っ……私を、ヴェロミアを誰だと思っている! ゾルダート公爵家だぞ! 貴様ら下々の者が意見をしていいと思っているのか!」
「いけません、祈りの間に入られては……っ」
「偽聖女の残したものがここにあるはず! 奴が聖女としての役割を果たすために使っていたものは何だ、教えろ! そうでなければ貴様ら全員魔女と見なすぞ……!」

 もはやルードの言っていることは、明らかに論理を破綻させていた。

 アリアンナに聖女としての力が無いとして追放したにも関わらず、彼女が聖女としての役割を果たしていたと認めている。

「ルード様、あの方は、祈りの間に何日も籠もって出てこられないことがありました。祈りの間には一つしか入り口がありませんが、もう一つ、神殿の外に抜けられる、いわば隠し通路があるのです」

 一人の女性神官がルードの前に出て申告する。周りの神官たちが驚くことにも構わず、女性神官は立ち止まったルードと向き合った。

 ヴェロミアは、アリアンナが不義を働いたという証拠を手に入れ、皇太子に密告した。ルードはヴェロミアが情報を手に入れた先がこの神官なのだと気づき、わずかに落ち着きを取り戻した。

「ルード様、いけません、そちらに入っては……っ」
「皇帝陛下からの勅令が出ているのだ。神殿が務めを果たさぬ理由が何なのか、私には調べる必要がある。立ち会いとして一人同行してもらうぞ」

 ルードは隠し通路のことを伝えてきた神官を伴い、祈りの間に入る。そして連れてきた侍従に外を見張らせた。

「……名を聞かせてもらおう」
「ダノアと申します。ヴェロミア様のお付きをさせていただいております……申し訳ありません、アリアンナがどのように聖女の務めを果たしていたか、把握しきれておらず」

 ダノアがどのようにヴェロミアと繋がったのか、それをルードは聞かされていない。

 彼女の情報でヴェロミアの望むように事が進んだことは確かだったが、ヴェロミアから事前にもっと相談を受けられていたらとルードは歯噛みする。
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