上 下
82 / 82
第5章

3話:魔都

しおりを挟む
 赤丸の背に乗り、俺たちは再び空を進む。
 赤丸の羽ばたきは力強く、上昇するたびに空気が冷たくなるが、その中にも朝日の温もりを感じる。眼下に広がる景色は徐々に変化していき、山や森を抜けると、次第に大地が広がり始めた。

 遥か彼方に、それまでとは明らかに異なる光景が見えてくる。広大な都市――魔都だ。
 その中心にそびえる魔王城が目を引く。
 城は黒く輝く鉱石でできているのか、光を受けて不思議な反射をしている。

 魔都はその周囲に広がる町並みが密集しており、広大な城壁で囲まれている。
 空から見ても、街全体が計画的に作られていることがわかる。
 区画ごとに建物の大きさや色が異なり、それぞれ異なる役割を担っているようだ。

「壮観だな」
「さすが魔族の中心地といったところだ。主、どうする? 直接城に向かうか?」

 それもいいのだが……う~ん。

「魔都をゆっくり見たいし、下に降りるとするか。それでいいか?」
「私は構わないよ。主に従うのみさ」

 俺たちは赤丸をゆっくりと降下させ、魔都の外れにある広場に着地した。
 赤丸は再び小さくなり、エイシアスが幻術を施して周囲に馴染む姿へと変化させる。俺たちは街道を歩きながら、魔都の正門へと向かった。

 正門にはこれまでの町の門とは比べ物にならないほど屈強な魔族の衛兵たちが立っている。
 鎧は黒光りし、装飾が施された槍を構えている姿は、威圧感がある。

「通行許可証はあるか?」

 門番の鋭い声が響く。

「旅の者だ。はぐれたワイバーンに襲われて、身分証とかはないんだ」

 証拠としてワイバーンの鱗を数枚と、牙を取り出して見せる。

「なっ、どのあたりだ?」
「土地勘はほとんどないが、向こうの山近くだな。一体だけだったから、もういないよ」
「そうだったのか……情報提供感謝する」
「で、通っていいのか?」

 尋ねると何か話しており、すぐにこちらに向き直り口を開いた。

「いいだろう。ただし、この許可札を持っておくように」

 木で出来た札を手渡され、説明を受ける。
 魔都に滞在中、持っていればいいそうだ。魔都を出るときに返却すればいいそうなので、適当に流して聞いておいた。
 魔王と会うので、返すことはできなさそうだ。
 門番に礼を言い、俺とエイシアスは門を潜り抜け、魔都へと足を踏み入れた。

 街に入ると、さらにその規模の大きさが実感できた。
 通りは広く、両脇には立派な建物が立ち並んでいる。路地では魔族の商人たちが声高に商品を売り込んでおり、独特な魔族文化が色濃く反映された商品が並んでいた。
 特に目を引くのは、不思議な光を放つ鉱石や魔力が込められた武具だ。

「主、この街では魔法が生活に根付いているようだ」
「ああ。帝国の街とも全然違う。面白い場所だ」

 人間よりも、魔族は魔法適性が高いのが理由だろう。
 俺たちは中央広場へと向かいながら、次の行動を考えた。魔王城に入るには、まず信頼を得る必要がある。
 だが、俺たちには関係ない。そのまま武力で押し通るつもりでいる。
 その前にゼフィルスが出てきそうではあるが。

「宿を探すか。一日散策してから魔王城に行ってゼフィルスを呼び出すとしようか」
「ここまで穏便だったから、可笑しいと思ったんだ」
「最初から問題ばかりだと面倒だって気付いたんだ」

 問答無用で殺せばいいのだが、後々追われることになるので、それが面倒くさいのだ。
 適当に誤魔化して穏便に済めばそれでいい。それが無駄だった場合、武力行使すればいいのだ。
 ある程度観察していたが、魔族といえど、人間よりもちょっと強いだけなので、俺とエイシアスからしてみれば雑魚に変わりはない。

「まずは鍛冶屋でも探すか」
「買い物するにも金がないと始まらないからね」

 そうと決まれば、まずは魔都について情報集しないとだな。
 その後、通行人から色々と話しを聞いて回り、少し外れた場所にある丘へとやってきた。

 丘の上に立ち、俺はその全貌を目にした。巨大な円形の都市、まるで黒曜石で造られたかのような漆黒の魔王城がその中心にそびえ立っている。
 その存在感たるや、遠くから見ても圧倒的だ。あれがこの都市の心臓――魔王の居城だというのだから、威圧感も納得がいく。

 蠟燭や松明の代わりに、魔石を加工することで道や部屋を照らしているという。ここから夜景を見れば、きっと綺麗だろう。
 魔石をこんな日常的に使うなんて、魔族の文化は人間界のそれとはまったく違うんだと実感する。ここには、魔族特有の知恵や技術が詰まっている。

 この都市は四つの区画で分けられているらしい。案内人の話を思い出しながら、俺はそれぞれの特徴を頭の中で整理する。

 まず目を引くのはやはり中央区。
 魔王城を中心に、豪奢な建物が規則正しく配置されている。ここには魔王の家臣や高位の魔族たちが住むらしい。遠くからでも高貴さが漂うその景観は、まさに魔族の支配階級を象徴している。広場のような場所も見える。

 次に見えるのは居住区だ。
 魔都に暮らす一般の魔族たちが住むエリアで、中央区とは違い、建物の大きさも形も様々だ。一見して雑多な印象を受けるが、どこか活気に満ちているのがわかる。
 道端には市場が広がり、子どもたちが遊ぶ姿も見える。魔族ってもっと物騒な連中だと思っていたけれど、意外と人間と変わらない暮らしをしている。

 その隣には鍛冶工房区が広がっている。
 遠くからでも聞こえる金属を打つ音が、この場所の熱気を物語っている。
 立ち込める黒煙や赤く燃え上がる炎――ここは武器や防具、魔道具を生み出す街だ。
 腕利きの職人たちが集まり、日夜鍛冶作業に明け暮れているという。

 最後に見えたのが商業区だ。
 無数の屋台や店舗が密集し、街一番の賑やかさを誇るエリアらしい。
 商人たちが集まり、魔族同士だけでなく、異界の種族とも交易をしているとか。
 エキゾチックな品々や珍しい魔石、魔法具が手に入るらしい。
 俺みたいな旅人にとっては、一番面白そうな場所だと思う。
 四つの区画、それぞれが異なる役割を果たしながらも、全体で一つの街を形作っている。

 しばらく眺めた俺とエイシアスは、ワイバーンの素材を換金するために鍛冶工房区へと向かうのだった。

しおりを挟む
感想 38

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(38件)

八神 風
2024.12.02 八神 風

母や祖父があなた様のことを

母や祖父からあなた様の

解除
フィリップ
2024.11.30 フィリップ

復讐せず良い感じに収まりそうで何よりですな

解除
フィリップ
2024.11.28 フィリップ

時が戻ったような?
同じシーンが繰り返されてるような?

解除

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

人間不信の異世界転移者

遊暮
ファンタジー
「俺には……友情も愛情も信じられないんだよ」  両親を殺害した少年は翌日、クラスメイト達と共に異世界へ召喚される。 一人抜け出した少年は、どこか壊れた少女達を仲間に加えながら世界を巡っていく。 異世界で一人の狂人は何を求め、何を成すのか。 それはたとえ、神であろうと分からない―― *感想、アドバイス等大歓迎! *12/26 プロローグを改稿しました 基本一人称 文字数一話あたり約2000~5000文字 ステータス、スキル制 現在は不定期更新です

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

農業機器無双! ~農業機器は世界を救う!~

あきさけ
ファンタジー
異世界の地に大型農作機械降臨! 世界樹の枝がある森を舞台に、農業機械を生み出すスキルを授かった少年『バオア』とその仲間が繰り広げるスローライフ誕生! 十歳になると誰もが神の祝福『スキル』を授かる世界。 その世界で『農業機器』というスキルを授かった少年バオア。 彼は地方貴族の三男だったがこれをきっかけに家から追放され、『闇の樹海』と呼ばれる森へ置き去りにされてしまう。 しかし、そこにいたのはケットシー族の賢者ホーフーン。 彼との出会いで『農業機器』のスキルに目覚めたバオアは、人の世界で『闇の樹海』と呼ばれていた地で農業無双を開始する! 芝刈り機と耕運機から始まる農業ファンタジー、ここに開幕! たどり着くは巨大トラクターで畑を耕し、ドローンで農薬をまき、大型コンバインで麦を刈り、水耕栽培で野菜を栽培する大農園だ! 米 この作品はカクヨム様でも連載しております。その他のサイトでは掲載しておりません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。