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第4章
11話:氷雪の女王2
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赤丸の飛翔は、まさに圧巻だった。空を切り裂くように進むその速度は、人の想像を遥かに超えていた。
冷たい風が顔を叩き、下界の景色が一瞬で流れていく。眼下には白銀の大地が広がり、ガルガット山脈が徐々にその威容を露わにしていった。
「さすがだな、赤丸」と、俺は空を駆ける中で声を上げた。赤丸は翼を広げて応えるかのように、一層速度を上げた。
程なくして、目的地が見えてきてエイシアスが呟く。
「遠くに見えるあれが、魔女の棲み家のようだ」
「みたいだな。城と言っていたが、宮殿だろ」
その場所は、まさに威圧的だった。青白い光が宮殿から微かに漏れ、氷の尖塔が空を突くようにそびえている。まるで、この世のものではない冷気が漂っているかのように感じた。
近づくにつれ、空気が一層冷たくなり、氷結の匂いが漂ってくる。
赤丸は巨大な翼をはためかせ、着陸すると、氷の裂け目のような地面に降り立った。地表は凍てつくほど冷たく、霧が漂っている。
俺とエイシアスが降り立つと、氷の床が小さな音を立てて軋むのが聞こえた。
「エイシアス、出迎えがないようだ」
「では、押し入らせてもらうとしようか」
俺とエイシアスは歩を進めた。
すると、目の前に無数の三メートルほどの氷で出来たゴーレムが現れた。
「ふむ。主よ、歓迎してくれてはいるようだ」
「みたいだな」
そのまま歩を進める。氷のゴーレムが攻撃をしかけてくるも、俺とエイシアスの一定の範囲に入った瞬間には地面に押し潰され、砕け散る。
そのまま進んでいくと、ゴーレムだけではなく、氷のドラゴンや騎士といった様々な形をした氷像が襲い来る。
「芸達者だな」
「やろうと思えば、私もできるが自分で片付ける方が早いだろうに」
「誰かと同じで引きこもりなんじゃないか?」
エイシアスがジト目で俺を見ている。
おっと、自覚があるようだ。
「……主よ。それは私のことを言っているのか?」
「さあ? もしかし、引きこもっていた自覚があるのか?」
「ふふふっ、いいだろう。主にはあとで、たっぷり搾り取ってやろう」
マズい。ちょっと言い過ぎたか?
そのような軽口を言い合っていると、氷像が消え去り入り口まで辿り着いた。
氷で造られた巨大な扉を開き、中へと入り感嘆の声を漏らした。
「これは、すごいな……」
「うむ。美しさを感じる」
光を受けて淡く輝く壁は、青白い輝きを放ちながら高くそびえ、冷たい空気が肺の奥まで沁み込む。
足を踏みしめると、かすかな音が静寂を破り、音が壁や天井に反響して戻ってくる。
どこまでも透明で、奥の奥まで見通せるような純粋な氷が、これほどにも壮麗であることに思わず息をのむ。
天井からは細長く伸びる氷柱が、まるで宮殿を守るかのように垂れ下がり、幾筋もの光が氷に封じ込められているように見える。冷え冷えとした空気が頬を撫で、指先からは感覚が少しずつ遠のいていく。
足元を見れば、薄い氷の層の向こうにぼんやりと見える水が、静かに揺らめき、まるでこの氷の中に何かが息づいているようだ。
奥へと続く長い廊下の両脇には、騎士の氷像が直立不動の姿勢で立っている。
微かに魔力を感じることから、この氷像も動くのだろう。しかし、攻撃を仕掛けてこないということは、先ほどの戦闘で無意味なだと理解していると見える。
廊下を進み、奥へと辿り着いた。
氷で出来て、氷の装飾が施された両開きの扉だった。
目の前まで来ると、扉を守るように立っていた騎士が動き出して静かに開いた。
扉が開くと、目の前には大広間が広がっていた。その規模たるや、この世のものとは思えない。天井はさらに高く、まるで天空に手が届くかのようで、巨大な氷のシャンデリアが中央に吊るされ、青白い光を周囲に放っている。
その光は、宮殿全体を幽玄の雰囲気で包み込み、冷たさと美しさが溶け合うような感覚を覚えさせる。
「まるで時間が止まっているようだな」と、エイシアスがポツリと呟く。
確かに、ここにいると時間の流れが掴めなくなる。冷気が全てを凍らせたかのように、永遠に変わらない静けさと威圧感が漂っているのだ。
「俺たちを待っている、ってわけか?」
エイシアスがわずかに微笑を浮かべ、頷く。その視線の先には、広間の奥に据えられた巨大な玉座が見える。玉座は氷でできているが、ただの氷とは違う。
周囲には氷の結晶がきらめくように浮遊し、微かな光を発している。それはまるで、この場所全体が生きているかのような、不気味な美しさを醸し出している。
その玉座には、白銀の髪をなびかせ、全身が氷の薄衣で包まれた女性――まさしく「魔女」と呼ぶにふさわしい容貌で、冷たい瞳がこちらをじっと見据え、冷ややかな微笑が唇に浮かび、まるで俺たちの挑戦を楽しむような表情だった。
彼女が『氷雪の女王』イシュリーナなのだろう。彼女の周囲には幾人もの氷の騎士が護衛のように立っている。
「歓迎するわ、訪れし者たち。私の宮殿へ、ようこそ……」
冷たい風が顔を叩き、下界の景色が一瞬で流れていく。眼下には白銀の大地が広がり、ガルガット山脈が徐々にその威容を露わにしていった。
「さすがだな、赤丸」と、俺は空を駆ける中で声を上げた。赤丸は翼を広げて応えるかのように、一層速度を上げた。
程なくして、目的地が見えてきてエイシアスが呟く。
「遠くに見えるあれが、魔女の棲み家のようだ」
「みたいだな。城と言っていたが、宮殿だろ」
その場所は、まさに威圧的だった。青白い光が宮殿から微かに漏れ、氷の尖塔が空を突くようにそびえている。まるで、この世のものではない冷気が漂っているかのように感じた。
近づくにつれ、空気が一層冷たくなり、氷結の匂いが漂ってくる。
赤丸は巨大な翼をはためかせ、着陸すると、氷の裂け目のような地面に降り立った。地表は凍てつくほど冷たく、霧が漂っている。
俺とエイシアスが降り立つと、氷の床が小さな音を立てて軋むのが聞こえた。
「エイシアス、出迎えがないようだ」
「では、押し入らせてもらうとしようか」
俺とエイシアスは歩を進めた。
すると、目の前に無数の三メートルほどの氷で出来たゴーレムが現れた。
「ふむ。主よ、歓迎してくれてはいるようだ」
「みたいだな」
そのまま歩を進める。氷のゴーレムが攻撃をしかけてくるも、俺とエイシアスの一定の範囲に入った瞬間には地面に押し潰され、砕け散る。
そのまま進んでいくと、ゴーレムだけではなく、氷のドラゴンや騎士といった様々な形をした氷像が襲い来る。
「芸達者だな」
「やろうと思えば、私もできるが自分で片付ける方が早いだろうに」
「誰かと同じで引きこもりなんじゃないか?」
エイシアスがジト目で俺を見ている。
おっと、自覚があるようだ。
「……主よ。それは私のことを言っているのか?」
「さあ? もしかし、引きこもっていた自覚があるのか?」
「ふふふっ、いいだろう。主にはあとで、たっぷり搾り取ってやろう」
マズい。ちょっと言い過ぎたか?
そのような軽口を言い合っていると、氷像が消え去り入り口まで辿り着いた。
氷で造られた巨大な扉を開き、中へと入り感嘆の声を漏らした。
「これは、すごいな……」
「うむ。美しさを感じる」
光を受けて淡く輝く壁は、青白い輝きを放ちながら高くそびえ、冷たい空気が肺の奥まで沁み込む。
足を踏みしめると、かすかな音が静寂を破り、音が壁や天井に反響して戻ってくる。
どこまでも透明で、奥の奥まで見通せるような純粋な氷が、これほどにも壮麗であることに思わず息をのむ。
天井からは細長く伸びる氷柱が、まるで宮殿を守るかのように垂れ下がり、幾筋もの光が氷に封じ込められているように見える。冷え冷えとした空気が頬を撫で、指先からは感覚が少しずつ遠のいていく。
足元を見れば、薄い氷の層の向こうにぼんやりと見える水が、静かに揺らめき、まるでこの氷の中に何かが息づいているようだ。
奥へと続く長い廊下の両脇には、騎士の氷像が直立不動の姿勢で立っている。
微かに魔力を感じることから、この氷像も動くのだろう。しかし、攻撃を仕掛けてこないということは、先ほどの戦闘で無意味なだと理解していると見える。
廊下を進み、奥へと辿り着いた。
氷で出来て、氷の装飾が施された両開きの扉だった。
目の前まで来ると、扉を守るように立っていた騎士が動き出して静かに開いた。
扉が開くと、目の前には大広間が広がっていた。その規模たるや、この世のものとは思えない。天井はさらに高く、まるで天空に手が届くかのようで、巨大な氷のシャンデリアが中央に吊るされ、青白い光を周囲に放っている。
その光は、宮殿全体を幽玄の雰囲気で包み込み、冷たさと美しさが溶け合うような感覚を覚えさせる。
「まるで時間が止まっているようだな」と、エイシアスがポツリと呟く。
確かに、ここにいると時間の流れが掴めなくなる。冷気が全てを凍らせたかのように、永遠に変わらない静けさと威圧感が漂っているのだ。
「俺たちを待っている、ってわけか?」
エイシアスがわずかに微笑を浮かべ、頷く。その視線の先には、広間の奥に据えられた巨大な玉座が見える。玉座は氷でできているが、ただの氷とは違う。
周囲には氷の結晶がきらめくように浮遊し、微かな光を発している。それはまるで、この場所全体が生きているかのような、不気味な美しさを醸し出している。
その玉座には、白銀の髪をなびかせ、全身が氷の薄衣で包まれた女性――まさしく「魔女」と呼ぶにふさわしい容貌で、冷たい瞳がこちらをじっと見据え、冷ややかな微笑が唇に浮かび、まるで俺たちの挑戦を楽しむような表情だった。
彼女が『氷雪の女王』イシュリーナなのだろう。彼女の周囲には幾人もの氷の騎士が護衛のように立っている。
「歓迎するわ、訪れし者たち。私の宮殿へ、ようこそ……」
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