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第4章

5話:散策

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「お待たせしました」

 部屋にやってきたリリアは、華やかな王族の装束ではなく、落ち着いた色合いの衣装を纏っていた。薄いグレーの生地は柔らかく、光を受けると微かに輝くように見える。
 そのシンプルなデザインは、皇女としての威厳を保ちながらも、過度に目立つことを避けていた。

 衣装の袖は、彼女の手首にかかるくらいの長さで、手の動きに合わせて優雅に揺れる。
 裾には、細かい刺繍が施されており、さりげなく彼女の高貴さを表現している。リリアが歩くたび、繊細な布が風に揺れ、まるで彼女の存在を強調するかのようだった。

「さっきのドレスもそうだったけど、今の服装もリリアに似合っているよ」
「お褒めいただきありがとうございます」

 感謝を述べ、微笑むリリアに、俺は思わず顔を背けた。しかし、顔を背けた先にはエイシアスがおり、ニマニマとしていた。
 イラついたので一発殴りたかったが、グッと堪える。

「主は私のことは褒めないのに、リリアのことは褒めるのだな」
「うっせ。毎日言ったら安い言葉になるだろ。それに、お前はいつも綺麗だろ」
「……急にそういうことを言われると、恥ずかしいぞ」

 顔を背けるエイシアスだが、耳が赤くなっていることから恥ずかしいのだろう。
 珍しいものを見れたが、そこでふふっと後ろで笑い声が聞こえた。

「仲がよろしいのですね」
「まあな」
「……うむ」
「では、行きましょうか」

 リリアに従い、城を出て街へと赴く。
 武神祭が近いからか、多くの人で賑わっていた。
 目の前に広がる光景は、まるで夢の中にいるかのようだった。街の石畳は光を反射し、どこか幻想的な雰囲気を醸し出している。その中で、リリアの案内を受けながら歩くことができるなんて、なんとも幸運だ。

「こちらが大聖堂です。圧倒的な美しさでしょう?」

 リリアが微笑みながら指を差す。聖堂の尖塔は青空に向かって伸びており、外壁は色鮮やかなタイルで飾られていた。見るたびに、まるで神々が宿っているかのような気がしてくる。

「本当に素晴らしいな、リリア。特にこの装飾は、他の国にはない独特なものだ」

 エイシアスが感心した様子で頷く。

「武神祭が近いから、街はさらに活気づいています。各国からの冒険者たちが集まり、武勇を誇示しようとしていますから」

 リリアの言葉に、街中の活気が一層大きく感じられた。商人の呼び声、冒険者たちの笑い声、そして遠くから聞こえる武器の音が、まるで一つの交響曲のように響き渡る。

「勝ち残れば名誉も力も手に入る」

 俺の心も自然と高鳴る。きっと楽しいのだろう。
 周囲の冒険者たちが、それぞれの夢を抱いている姿を見ていると、素晴らしいと思ってしまう。

「闘技場を見に行きましょうか。武神祭の準備が進んでいるはずです」

 エイシアスと俺は顔を見合わせ、同時に笑った。俺たちにとって、武神祭など参加する必要はない。参加したところで、誰も俺たちには勝てやしない。
 それではなんの面白みもない、つまらない大会になってしまう。

 闘技場に近づくにつれ、街の熱気が増していく。冒険者たちが集まり、何やら議論を交わしている。ふと、そんな彼らの会話が耳に入る。

「俺たちが出場するのは当たり前だろ! 彼らには勝てるはずがない!」

 俺はその声に、冷ややかな笑みを浮かべた。何が「勝てるはずがない」だ。
 その言葉はあまりにも滑稽だ。俺の心の中では、無邪気な子供たちの遊びのように思えていた。

 リリアは俺たちを見上げ、少し不安そうに言う。

「やはり、テオ様とエイシアス様は参加なさらないのですか?」

 俺は肩をすくめ、少し笑って答えた。

「参加したところで結果は目に見えている。なら、見て楽しむべきだ」

 エイシアスは俺の言葉に同意するかのように頷き、「主の言う通りだ。それに、私と主は世界を見て回っているだけだ。強者に名誉など必要ないものだ」と続けた。
 リリアはその言葉を受けて少し考え込み、ふぅとため息をついた。
 どうやら彼女は、俺たちの考え方を理解できないらしい。だが、俺たちにとっては、名誉や権力は必要ない。圧倒的な力の前には必要ない。そもそも楽しむことが第一なのだ。

「だから、リリア。武神祭を楽しむのもいいが、俺たちが楽しむのは別のことだ。自由に、そして面白いことを追い求める」

 リリアは頷くものの、まだ心のどこかで不安を抱えているようだった。
 そんな彼女を見て、俺は少し面白くなった。まるで彼女が自分たちの楽しみを理解しようと奮闘しているようで、見ていて微笑ましい。

「さぁ、もっと楽しいことを探しに行こう」
「そうだな。何か面白いことを見つけるまで、街を散策しようではないか」

 リリアは、俺たちの言葉に少し元気を取り戻したようで、明るい笑顔を浮かべる。

「では、次を案内しますね」

 そう言って、リリアが先導する形で街を進んでいく。
 俺たちは何も気にせず、楽しむことだけを考えた。今この瞬間を心から楽しむことこそが、俺たちの本質なのだから。
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