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第3章
13話:拒否権はない
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「テオ、様……?」
「そんな顔するなよ、聖女」
俺は空からその惨めな姿を見下ろしながら、口元に笑みを浮かべる。勇者が死んだ? それがどうしたっていうんだ。そもそも、俺にとってはその程度の存在に過ぎなかったんだ。彼がどんなに足掻こうと、彼が死のうが生きようが、世界は変わらない。
「……助けて、ください」
「勇者が死んだから俺に泣きすがるなんて、まるで無力な子どもだな。そんな勇者に頼っていたこと自体が間違いだ」
俺の声は軽い調子だが、その言葉がリリィの心を深く突き刺すのが手に取るように分かる。彼女の肩は震え、絶望の淵に沈んでいる。
つい先ほどまで、俺はこの戦いを見物して楽しんでいた。勇者がどれだけ抗えるか、期待していた部分もあるが、結局その程度だった。
「魔王を倒すために、異世界から勇者を召喚する。散々「あなたは勇者様です。選ばれた人なんです」と持ち上げておいて、このザマか」
面白過ぎて思わず笑ってしまう。
彼女が拳を握りしめ、こちらに向ける憎悪の視線が痛いほど伝わってくるが、俺にはそれすらどうでもいい。俺とエイシアスを楽しませてくれれば、それでいいのだ。
ゆえに騎士たちからも、怨嗟の籠った憎悪の視線が向けられようと関係ない。
「……笑いに来たのですか? 散々楽しんだのではないですか?」
「ああ、楽しませてもらったよ」
「女神ルミナ様からの神託で、あなたが危機を救うと仰っていました。助けに来た、と解釈しても?」
俺は吹き出しそうになるのを堪えながら、彼女を見下ろす。
神託、神の御言葉――そんなもの、まだ信じているのか? この世界の人間は、本当に滑稽だ。
「女神様は俺がこの国を救うと思っているのか? 国の危機に姿すら現さない神を信じているのは滑稽だ」
俺は肩をすくめ、嘲るように笑った。
「助けに来たと解釈してもいい、だって? 勘違いも甚だしいな。俺は、ただ――面白いからここにいるだけだ。言っただろ? 楽しませてくれよって」
実際、十分に楽しませてもらった。
「お前たちを救うためじゃない。そもそも、誰かに救いを求めてる時点で、弱者なんだよ。神に祈ることしかできない愚か者に、俺が手を差し伸べると思ったか?」
俺は彼女の反応を楽しむように、挑発的な笑みを浮かべ続ける。信仰なんて、所詮は無力な者が作り出した幻想だ。俺はそんなものに縛られる存在じゃないし、必要ともしない。
転生特典をくれたジジイには感謝しているけど、信仰などはしていない。
「き、貴様! 聖女様が頼んでいるのに……!」
「我らの信仰を侮辱するか!」
騎士団長らしい者たちが声を荒げる。
俺とエイシアスはゆっくりと地面に降り、リリィに告げる。
「この程度滅ぶなら、さっさと滅べばいい。俺は最後まで楽しませてもらうがな」
「貴様ぁぁぁあ!」
一人の騎士団長が斬りかかってきたが、重力の壁によって阻まれる。
「失せろ」
俺はその人物を一瞥し、指を鳴らした。
乾いた音が響き、斬りかかってきた騎士団長は爆散し、血肉を撒き散らす。
一瞬の出来事に誰もが固まる。リリィも、何が起きたのか理解できていないようだ。
しかし、すぐに気を取り戻し、騎士団長が殺されたとこで周囲から殺気が注がれる。多くの殺気を前に、俺はフッと笑う。
「お前たち程度で俺を殺せるのか? 楽しませてくれた礼だ。相手してやる」
挑発すると、多くの騎士たちが俺へと襲いかかる。しかし、俺がトンと靴で地面を叩くと、襲いかかってきた騎士たちは、一瞬にして地面に血の染みを広げることになった。
攻撃をしてきた百を超える騎士が、抵抗すら許されずに死んだ。
その事実のみが残り、再び攻撃してくるようなことはなかった。
「あ、言い忘れてた。敵なら誰であろうと殺すから」
そうして俺は座り込み憎悪の視線を向けてくるリリィと向き合う。
「だがまあ、この街には良い料理を出す店主や、良くしてくれた宿屋の娘もいる。そんな人たちを見殺しにはできない。だから俺からのささやかなお礼の気持ちだ」
俺は指を鳴らす。
乾いた音が鳴り響き、魔物たちが何かに押し潰されたかのように、地面に血の染みを広げた。
数千の魔物が一瞬で死んだことに、誰もが驚きを隠せないでいた。
騎士団長たち総がかりで挑み、倒せなかったバルゴスという獅子も一瞬で死んだ。
残るのは、魔王軍の魔将であるゼフィルスのみとなった。
ゼフィルスから、ヘルム越しにでも驚きが伝わってくる。
「ゼフィルスといったか?」
「……ああ。どうした? 魔王軍に入るなら、口添えをしよう。その力があれば――」
「黙れ。聞いているのは俺だ」
「悪いが――」
こいつは立場をまだ理解していないらしい。俺はゆっくりと立ち上がり、ゼフィルスに視線を向けた。
「拒否権? お前にそんなものがあると思ってるのか?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
カクヨムにて新作投稿してます!
『無名の兵士、実は世界最強~平凡な兵士でいたいのに、なぜか周囲から英雄扱いされて困るんだが~』
https://kakuyomu.jp/works/16818093087467812713
「目立ちたくないのに、結局は周囲に優秀さを見せつけてしまう主人公の物語」です。
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「そんな顔するなよ、聖女」
俺は空からその惨めな姿を見下ろしながら、口元に笑みを浮かべる。勇者が死んだ? それがどうしたっていうんだ。そもそも、俺にとってはその程度の存在に過ぎなかったんだ。彼がどんなに足掻こうと、彼が死のうが生きようが、世界は変わらない。
「……助けて、ください」
「勇者が死んだから俺に泣きすがるなんて、まるで無力な子どもだな。そんな勇者に頼っていたこと自体が間違いだ」
俺の声は軽い調子だが、その言葉がリリィの心を深く突き刺すのが手に取るように分かる。彼女の肩は震え、絶望の淵に沈んでいる。
つい先ほどまで、俺はこの戦いを見物して楽しんでいた。勇者がどれだけ抗えるか、期待していた部分もあるが、結局その程度だった。
「魔王を倒すために、異世界から勇者を召喚する。散々「あなたは勇者様です。選ばれた人なんです」と持ち上げておいて、このザマか」
面白過ぎて思わず笑ってしまう。
彼女が拳を握りしめ、こちらに向ける憎悪の視線が痛いほど伝わってくるが、俺にはそれすらどうでもいい。俺とエイシアスを楽しませてくれれば、それでいいのだ。
ゆえに騎士たちからも、怨嗟の籠った憎悪の視線が向けられようと関係ない。
「……笑いに来たのですか? 散々楽しんだのではないですか?」
「ああ、楽しませてもらったよ」
「女神ルミナ様からの神託で、あなたが危機を救うと仰っていました。助けに来た、と解釈しても?」
俺は吹き出しそうになるのを堪えながら、彼女を見下ろす。
神託、神の御言葉――そんなもの、まだ信じているのか? この世界の人間は、本当に滑稽だ。
「女神様は俺がこの国を救うと思っているのか? 国の危機に姿すら現さない神を信じているのは滑稽だ」
俺は肩をすくめ、嘲るように笑った。
「助けに来たと解釈してもいい、だって? 勘違いも甚だしいな。俺は、ただ――面白いからここにいるだけだ。言っただろ? 楽しませてくれよって」
実際、十分に楽しませてもらった。
「お前たちを救うためじゃない。そもそも、誰かに救いを求めてる時点で、弱者なんだよ。神に祈ることしかできない愚か者に、俺が手を差し伸べると思ったか?」
俺は彼女の反応を楽しむように、挑発的な笑みを浮かべ続ける。信仰なんて、所詮は無力な者が作り出した幻想だ。俺はそんなものに縛られる存在じゃないし、必要ともしない。
転生特典をくれたジジイには感謝しているけど、信仰などはしていない。
「き、貴様! 聖女様が頼んでいるのに……!」
「我らの信仰を侮辱するか!」
騎士団長らしい者たちが声を荒げる。
俺とエイシアスはゆっくりと地面に降り、リリィに告げる。
「この程度滅ぶなら、さっさと滅べばいい。俺は最後まで楽しませてもらうがな」
「貴様ぁぁぁあ!」
一人の騎士団長が斬りかかってきたが、重力の壁によって阻まれる。
「失せろ」
俺はその人物を一瞥し、指を鳴らした。
乾いた音が響き、斬りかかってきた騎士団長は爆散し、血肉を撒き散らす。
一瞬の出来事に誰もが固まる。リリィも、何が起きたのか理解できていないようだ。
しかし、すぐに気を取り戻し、騎士団長が殺されたとこで周囲から殺気が注がれる。多くの殺気を前に、俺はフッと笑う。
「お前たち程度で俺を殺せるのか? 楽しませてくれた礼だ。相手してやる」
挑発すると、多くの騎士たちが俺へと襲いかかる。しかし、俺がトンと靴で地面を叩くと、襲いかかってきた騎士たちは、一瞬にして地面に血の染みを広げることになった。
攻撃をしてきた百を超える騎士が、抵抗すら許されずに死んだ。
その事実のみが残り、再び攻撃してくるようなことはなかった。
「あ、言い忘れてた。敵なら誰であろうと殺すから」
そうして俺は座り込み憎悪の視線を向けてくるリリィと向き合う。
「だがまあ、この街には良い料理を出す店主や、良くしてくれた宿屋の娘もいる。そんな人たちを見殺しにはできない。だから俺からのささやかなお礼の気持ちだ」
俺は指を鳴らす。
乾いた音が鳴り響き、魔物たちが何かに押し潰されたかのように、地面に血の染みを広げた。
数千の魔物が一瞬で死んだことに、誰もが驚きを隠せないでいた。
騎士団長たち総がかりで挑み、倒せなかったバルゴスという獅子も一瞬で死んだ。
残るのは、魔王軍の魔将であるゼフィルスのみとなった。
ゼフィルスから、ヘルム越しにでも驚きが伝わってくる。
「ゼフィルスといったか?」
「……ああ。どうした? 魔王軍に入るなら、口添えをしよう。その力があれば――」
「黙れ。聞いているのは俺だ」
「悪いが――」
こいつは立場をまだ理解していないらしい。俺はゆっくりと立ち上がり、ゼフィルスに視線を向けた。
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