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第3章
10話:魔将【影刃】ゼフィルス
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◇ ◇ ◇
全体を見渡すと、次第に魔物の数が減ってきた。
それでも埋め尽くさんばかりの魔物がいる。
騎士たちの疲労も、魔法でなんとかしてきたが、それにも限度がある。
運ばれてくる負傷者も多くなる。
リリィは思ってしまう。
このままでは、いずれ戦線が崩壊して魔物が街に流れ込んでくると。
勇者を見ると、一人で前に前にと出てしまっている。
「勝手に行動すると陣形が崩れるでしょうに。勇者が抜けた穴を埋めているようですが、それも時間の問題ですね」
勇者を配置した場所は尤も魔物の数が多く密集している場所だ。
それを自分勝手に前に出て穴を作られては、周りも負担になる。あの勇者はそれを理解できていないのだ。
多くの味方が傷付き、殺されていく様は見ていて心が痛い。
それでも、ルミナリアを守るために、今全力を尽くさなければならないのだ。
そんな中、思ってしまう。
神託であったテオのことだ。今、どんな心境でこれを見ているのかと。
この街から出て行ったとは聞いていないので、まだいるはずなのだ。
テオ様は神託の内容を聞いて笑っていた。
これから面白いことが起きそうだと。だから楽しませてくれと。
「この状況が楽しいのですか? 一体、どこで何をしているのでしょうか……」
「聖女様? どうなさいましたか?」
「いえ。気にしないでください。それよりも、早く負傷兵たちに回復を!」
「はい!」
今はそんなこと気にしてはいけない。
今、集中すべきは目の前のことのみ。
数時間が経過し、それでも魔物は前線を突破できないでいた。このまま続けばいずれは――その瞬間、大きな衝撃と土煙が上がった。
「何事ですか⁉」
「聖女様、アレを!」
土煙の先には、一体と一匹の魔物がいた。
一体は漆黒の鎧に包まれた騎士の姿をしており、顔は仮面で覆われていた。影が揺らめき、そこから無数の亡者の手が現れていた。
そんな黒い騎士の隣には、無数の触手や鎖が巻き付いている、黒く大きな獅子の姿をした魔物。そんな獅子の目は赤く光、口からは黒い瘴気のようなものを吐き出していた。
「――ッ」
魔物を操っているのは、あの獅子だと直感が告げていた。
黒い騎士は良く分からないは、獅子より危険だと直感が告げていた。
獅子を操っているのが、黒い騎士なのかもしれない。
「聖女様、いかがなさいますか?」
「近隣の街に救援を求めても、到着するころには壊滅しているでしょう」
「では……」
「私たちで切り抜ける他ありません」
「……尽力しましょう」
獅子が一歩前に出て咆哮を上げる。
すると魔物がさらに苛烈さを増した。
勇者や騎士団も応戦するが、次第に押されていき、次々と魔物に喰われていく。
「勇者様、あの獅子を倒せますか?」
「む、無理だろ⁉ あんな化け物、どうやって倒せっていうんだよ!」
尤もな意見だ。しかし、第一騎士団長のアルノーはそう思わなかった。
勇者の持つ剣は女神が祝福した、聖剣であり、勇者の力を最大限発揮することのできる武器でもある。
聖剣の力を最大限引き出すことが出来れば、この危機的状況を打破することさえ可能だ。
「勇者様、聖剣の力を引き出すのです!」
「分かっている! だが、何度呼びかけても答えてくれない!」
その言葉に押し黙ってしまう。
勇者が最大限力を発揮抱きなければ、この戦いは負けに近い。
アルノーでさえ、あの獅子を倒すのに多くの犠牲が出ると確信している。さらにはそれを操るだろう黒い騎士もいる。
勇者が力を発揮できなければ壊滅的な被害を受けることだろう。最悪、ルミナリアは滅ぶことになる。
アルノーは決断を迫られていた。
その時、魔物が動きを止め、黒い騎士が歩み始めた。
それに合わせて、魔物たちは道を作るように広げる。
黒い騎士が勇者とアルノーの前で立ち止まる。
「……何者だ?」
黒い騎士の行動から、言葉が理解できると思っての問いだった。
「……我は魔王軍の六人いる魔将の一人、ゼルフィス」
「貴様が【影刃】ゼフィルスか」
するとゼルフィスと名乗った黒い騎士から驚いた声が返ってきた。
「我の名を知っていたか」
「知らない者はいない。かつて一つの国を滅ぼした騎士。そんな騎士が大軍を率いてなんの用だ?」
「勇者の抹殺。まだ召喚されてから日が浅いと聞いた。成長する前に芽を断つ」
勇者の抹殺と聞いて、剣崎は「ヒィ」と情けない声を漏らす。
しかしアルノーは動じない。
「道理だな。魔王の天敵がいるなら早々に殺すのが得策だ」
「然り。して、返答はいかに? このまま勇者を引き渡せば、このまま引き返そう」
「――断る」
「……そうか。この国には聖女もいると聞く。再び勇者を呼び出されては面倒だ。聖女も殺すことにしよう。では」
引き返そうとするゼルフィスをアルノーは引き留める。
「敵将がここにいるんだ。このまま逃がすと思うか?」
「ほぉ、貴様に我を倒せるのか?」
向けられた圧に、アルノーは思わず唸ってしまう。
しかし光の騎士団の騎士団長を務める者。この国の守護者なのだ。このまま引くわけにはいかない。
武器を構えるアルノーに、ゼルフィスも漆黒の剣を抜き放つのだった。
全体を見渡すと、次第に魔物の数が減ってきた。
それでも埋め尽くさんばかりの魔物がいる。
騎士たちの疲労も、魔法でなんとかしてきたが、それにも限度がある。
運ばれてくる負傷者も多くなる。
リリィは思ってしまう。
このままでは、いずれ戦線が崩壊して魔物が街に流れ込んでくると。
勇者を見ると、一人で前に前にと出てしまっている。
「勝手に行動すると陣形が崩れるでしょうに。勇者が抜けた穴を埋めているようですが、それも時間の問題ですね」
勇者を配置した場所は尤も魔物の数が多く密集している場所だ。
それを自分勝手に前に出て穴を作られては、周りも負担になる。あの勇者はそれを理解できていないのだ。
多くの味方が傷付き、殺されていく様は見ていて心が痛い。
それでも、ルミナリアを守るために、今全力を尽くさなければならないのだ。
そんな中、思ってしまう。
神託であったテオのことだ。今、どんな心境でこれを見ているのかと。
この街から出て行ったとは聞いていないので、まだいるはずなのだ。
テオ様は神託の内容を聞いて笑っていた。
これから面白いことが起きそうだと。だから楽しませてくれと。
「この状況が楽しいのですか? 一体、どこで何をしているのでしょうか……」
「聖女様? どうなさいましたか?」
「いえ。気にしないでください。それよりも、早く負傷兵たちに回復を!」
「はい!」
今はそんなこと気にしてはいけない。
今、集中すべきは目の前のことのみ。
数時間が経過し、それでも魔物は前線を突破できないでいた。このまま続けばいずれは――その瞬間、大きな衝撃と土煙が上がった。
「何事ですか⁉」
「聖女様、アレを!」
土煙の先には、一体と一匹の魔物がいた。
一体は漆黒の鎧に包まれた騎士の姿をしており、顔は仮面で覆われていた。影が揺らめき、そこから無数の亡者の手が現れていた。
そんな黒い騎士の隣には、無数の触手や鎖が巻き付いている、黒く大きな獅子の姿をした魔物。そんな獅子の目は赤く光、口からは黒い瘴気のようなものを吐き出していた。
「――ッ」
魔物を操っているのは、あの獅子だと直感が告げていた。
黒い騎士は良く分からないは、獅子より危険だと直感が告げていた。
獅子を操っているのが、黒い騎士なのかもしれない。
「聖女様、いかがなさいますか?」
「近隣の街に救援を求めても、到着するころには壊滅しているでしょう」
「では……」
「私たちで切り抜ける他ありません」
「……尽力しましょう」
獅子が一歩前に出て咆哮を上げる。
すると魔物がさらに苛烈さを増した。
勇者や騎士団も応戦するが、次第に押されていき、次々と魔物に喰われていく。
「勇者様、あの獅子を倒せますか?」
「む、無理だろ⁉ あんな化け物、どうやって倒せっていうんだよ!」
尤もな意見だ。しかし、第一騎士団長のアルノーはそう思わなかった。
勇者の持つ剣は女神が祝福した、聖剣であり、勇者の力を最大限発揮することのできる武器でもある。
聖剣の力を最大限引き出すことが出来れば、この危機的状況を打破することさえ可能だ。
「勇者様、聖剣の力を引き出すのです!」
「分かっている! だが、何度呼びかけても答えてくれない!」
その言葉に押し黙ってしまう。
勇者が最大限力を発揮抱きなければ、この戦いは負けに近い。
アルノーでさえ、あの獅子を倒すのに多くの犠牲が出ると確信している。さらにはそれを操るだろう黒い騎士もいる。
勇者が力を発揮できなければ壊滅的な被害を受けることだろう。最悪、ルミナリアは滅ぶことになる。
アルノーは決断を迫られていた。
その時、魔物が動きを止め、黒い騎士が歩み始めた。
それに合わせて、魔物たちは道を作るように広げる。
黒い騎士が勇者とアルノーの前で立ち止まる。
「……何者だ?」
黒い騎士の行動から、言葉が理解できると思っての問いだった。
「……我は魔王軍の六人いる魔将の一人、ゼルフィス」
「貴様が【影刃】ゼフィルスか」
するとゼルフィスと名乗った黒い騎士から驚いた声が返ってきた。
「我の名を知っていたか」
「知らない者はいない。かつて一つの国を滅ぼした騎士。そんな騎士が大軍を率いてなんの用だ?」
「勇者の抹殺。まだ召喚されてから日が浅いと聞いた。成長する前に芽を断つ」
勇者の抹殺と聞いて、剣崎は「ヒィ」と情けない声を漏らす。
しかしアルノーは動じない。
「道理だな。魔王の天敵がいるなら早々に殺すのが得策だ」
「然り。して、返答はいかに? このまま勇者を引き渡せば、このまま引き返そう」
「――断る」
「……そうか。この国には聖女もいると聞く。再び勇者を呼び出されては面倒だ。聖女も殺すことにしよう。では」
引き返そうとするゼルフィスをアルノーは引き留める。
「敵将がここにいるんだ。このまま逃がすと思うか?」
「ほぉ、貴様に我を倒せるのか?」
向けられた圧に、アルノーは思わず唸ってしまう。
しかし光の騎士団の騎士団長を務める者。この国の守護者なのだ。このまま引くわけにはいかない。
武器を構えるアルノーに、ゼルフィスも漆黒の剣を抜き放つのだった。
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