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第3章

8話:きっと助けてくれる

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 リリィの元を訪ねてから一週間がすぎた。
 その間、特に変わったことはなかった。俺とエイシアスの捜索も今まで通り行われている。

「そろそろ飽きてきたな」
「うむ。何か起きると思っていたが、何も起きないね」

 リリィに一言言ってから立ち去る予定ではいる。流石にルミナリアを出て行って、知らずに捜索を続けられるのは申し訳ないからな。
 俺にだって申し訳ない気持ちになることはある。
 とはいっても、ここまで何も起きないようではつまらない。

「食料を少しだけ買い込んでおくか」
「では行くのか?」
「ここにもう用はな――ッ!」

 俺は途中で言葉を止めた。街の外から多くの魔物の気配がするからだ。
 エイシアスも迫り来る気配を感じ取ったのか、口元には笑みを浮かべていた。

「面白そうなことになりそうだな。なあ、主?」
「ああ。さて、俺たちは見物でもするとしようか」

 俺とエイシアスは大聖堂の先端に移動し、これから起きるのを見物することにするのだった。


 ◇ ◇ ◇


 王宮に一人の騎士が駆け込んできた。

「聖王陛下、大変です!」
「何事ですか」

 尋常ではない形相で駆け込んできた騎士に、政務を行っていた聖王は問い質す。

「そ、それが、大森林方面で魔物の大群が観測されました! 数は一万を超えるかと! このままでは、ここ、首都ルミナリアに到達します!」

 その報告に、聖王のみならず、他の大臣や護衛に当たっていた騎士達までもが驚愕の声を上げる。
 一万の魔物の大群が押し寄せれば、結界があるとはいえ破られることになる。
 それだけは何としても防がなければならない。

「全ての騎士を動員し、急ぎ防備を固めよ! 冒険者にも召集をかけるのを忘れるな!」
「直ちに!」

 騎士が出ていくと、少しして王宮内が騒がしくなり始めた。
 聖王が護衛の指揮に尋ねる。

「聖女リリィと勇者様は?」
「聖女様は大聖堂に。勇者様は王宮内に女性を連れ込み、その……」
「言うな。まったく……」

 勇者は召喚されてから数日後、色々と注文を付け始めたのだ。
 女がいなければ助けないと言われ、渋々首都の外の街から娼婦を呼び出し用意した。
 今では聖女リリィを狙っている始末。
 早々に手を打たなければならないのだが、勇者故に処罰することもできないでいた。
 しかし実力はあり、光の騎士団団長を超える強さを手に入れている。
 聖王は大きな溜息を吐いた。

「勇者様には働いてもらうとしよう。光の騎士団と共に前線に配置するように。聖女リリィには怪我人の治療を優先させよ」
「はっ!」

 さらに指示を出していき、程なくして部屋で一人になった。
 そんな中、聖女が神託の話をしたことを思い出す。

「女神ルミナ様さえ、恐れるような強さを持つ男か……」

 聖女の話しでは、一週間ほどまでに部屋にやって来て話したと言う。
 聖女の警護は厳重なはずだが、それを容易く突破し、周囲に気付かれることはなかった。
 それだけで高い実力だと伺える。聖女に危害を加えていたなら、この時に殺されているはずだ。
 それに聖女は会話の内容を話してくれた。

「楽しませてくれ、か……傲慢な。これだから強者というものは」

 強い故に自分勝手が許される。
 神託にあった例のテオという男の片割れには、美しい女性がいたという。
 その者も強者なのだろうと推測できる。
 そのような強者を刺激せずに協力してもらえ、それが今回神託であった。

「無茶を申すものだ……」

 胃に穴が空きそうだ。また治療してもらわないと。
 聖王は疲れた表情を浮かべるのだった。
 扉にノック音が響く。

「リリィです。入ってもよろしいでしょうか?」
「入りなさい」

 リリィは「失礼します」と言って部屋に入る。

「全ての準備が整いました。勇者様もすでに騎士団と共に前線へ」
「わかった。それで、テオという者は見つかったか?」
「いえ。あれから探してはいるのですが、見つかりません。ただ……まだこの街に居るのは確かです。彼がこのような場面は見過ごさないと思います」
「楽しんでいるのか……」

 その言葉にリリィは「はい」と返事をする。

「ですが、彼はきっと助けてくれると信じています」
「だといいのだが……」

 不安に駆られる聖王だった。

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