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第2章
11話:王とは
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「こんなの脅しではないか……」
王様が呟くが、その言葉は小さいながらも部屋に響いた。
貴族たちは声を上げることすらできない。声を上げたら俺とエイシアスに殺されるのを理解しているのだろう。
「脅しだと? ああ、確かにそうだろう。だが、何か勘違いしていないか? 脅しというのは、可能性があるからこそ成立するものだ。俺が言っているのはただの事実だ。逆らえば、死ぬ。それだけのことだ。選択肢を与えてやってるんだから、感謝するべきだろ?」
「……テオ様、それは傲慢ですね」
「傲慢? 確かにそうかもしれないな。お前たちは俺を傲慢だと非難するが、結局、力がない者が何を言っても無意味だ。力こそが真実だよ。力があれば自由にできる。誰かの死さえも。国の運命さえも、な」
俺が立ち上がると、エイシアスも一緒に立ち上がると、魔法で作った椅子が消え、手に持っていたカップも消える。
俺が一歩、踏み出す。
「では、答えを聞こうか。俺が言ったすべてを承諾するか、この国と一緒に心中するか」
「……それでも私は、承諾できな――……」
その瞬間、王様の首が魔法によって切り裂かれた。
物言わぬ躯となり果てた王様。それを実行したのは言うまでもない。
王女であり、実の娘であるアレティアだった。
王女が王を殺すと言う光景に、誰もが絶句していた。
「お、王女殿下。い、一体なにを……」
一人の貴族がなんとか声を絞り出してアレティアに問う。
しかし、アレティアは表情を一切崩さず答えた。
「野心に囚われ、民の気持ちも考えず領土欲しさに何年、何十年も隣国を攻める王は、本当に王ですか?」
その言葉に誰も答えない。
相手が王ゆえに反対することは許されなかったからだ。
アレティアは俺へと向き直る。
「実の親を殺しても何も思わないか?」
「思うところはあります。しかし、それでは民は幸せにはならない」
「一人の不幸より、大多数の平和を願うか……」
「はい。もとよりそのつもりでした」
このままではダメだと、もっと前から父を殺すことは覚悟していたのか。
ははっ、いいじゃないか。
随分と俺好みだ。
思わず俺は声に出して笑ってしまった。エイシアスも面白い光景が見れたのか、笑っている。
「愉快なものを見せてくれた。だが条件を変えるつもりはないぞ?」
「はい。テオ様、エイシアス様。私は――」
落ちた王冠を拾って自らの頭に乗せ、空いた玉座に座る。
「私、シーヴェリス王国女王として、テオ様とエイシアス様の要求するすべての条件を承諾します」
「クハハハッ、いいなぁ、最初とは違い、随分と強くなったじゃないか。いや、最初から覚悟していたことか。この国そのものに身を捧げているのだな」
「はい。もとより、そのつもりです」
「だが、それだけじゃあ、ダメだ」
エイシアスも同意するように言う。
「主の言う通り、それではダメだ。だから――天と魔を統べる、覇者として言わせてもらおう」
エイシアスは本来の姿を露にする。
側頭部から生える二本の黄金のツノ。腰から生える身丈ほどの黒い二枚の翼。
何より、本来の姿となった彼女は、その美貌をさらに昇華させる。
「王とは、ただの権力者ではない。己の力でもって、光も闇もその手に収め、全てを支配する覇者であるべきだ。恐れや情に流される者は王足りえない。王とは、世界そのものを己の意志で塗り替え、すべてを統べる存在であり、真の秩序をもたらす者だ」
「……私は、なれるのでしょうか?」
答えたのはエイシアスではなく俺だった。
俺はアレティアに現実を突きつける。
「それを問ううちは、王足りえない。王は迷わない。迷いがあれば、力を手にしても揺らぐだけだ。己の弱さを超え、全てを犠牲にしてでも進む覚悟がなければ、覇者にはなれない」
踵を返し、帰ろうとする。
ルノー達が扉を開き、出て行こうとしてアレティアが口を開いた。
「……ならば、私は迷いを捨てます。全てを犠牲にする覚悟はできています。王としての力を手に入れ、この世界を私の意志で塗り替えてみせる。恐れも弱さも、今ここで断ち切る。私が、あなたたちが理想と掲げる覇者になってみせましょう」
思わず立ち止まり、俺とエイシアスの口元が僅かに笑む。
本当に、こいつは最高だ。
これほどの覚悟を持つ女王なら、いずれ覇者となることだろう。
エイシアスに頼んで例のものを取り出させ、俺はアレティアにソレを投げ渡した。
「これは、一体?」
渡したそれは、七つの宝石が嵌め込まれた、ペンダントだった。
「お前が気に入ったからやる。そこには四大属性の他に、光、闇、無属性の大精霊が宿っている。魔力を流せば現れる」
魔の森で捕まえたレベル1000の大精霊を、エイシアスが持っていたペンダントに脅して無理やり押し込んだだけだ。
アレティアが魔力を流すと、ペンダントが光り輝き七つの魔法陣が現れた。
そこから、人型の女の子が現れた。
「お呼びでしょうか――あれ? ご主人様の魔力じゃない?」
「本当だ! あははっ、死んだのかな?」
「御主人、怖かったよぉ……」
「なら自由の身だ! この子が呼んだみたいだね」
「この子の魔力、心地よくていいですね」
「確かに、良い澄んだ魔力をしているわ」
「うむ」
順番に火、水、風、地、光、闇、無の大精霊であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
カクヨムの方で、サポーター様限定で一話先行公開しております。
王様が呟くが、その言葉は小さいながらも部屋に響いた。
貴族たちは声を上げることすらできない。声を上げたら俺とエイシアスに殺されるのを理解しているのだろう。
「脅しだと? ああ、確かにそうだろう。だが、何か勘違いしていないか? 脅しというのは、可能性があるからこそ成立するものだ。俺が言っているのはただの事実だ。逆らえば、死ぬ。それだけのことだ。選択肢を与えてやってるんだから、感謝するべきだろ?」
「……テオ様、それは傲慢ですね」
「傲慢? 確かにそうかもしれないな。お前たちは俺を傲慢だと非難するが、結局、力がない者が何を言っても無意味だ。力こそが真実だよ。力があれば自由にできる。誰かの死さえも。国の運命さえも、な」
俺が立ち上がると、エイシアスも一緒に立ち上がると、魔法で作った椅子が消え、手に持っていたカップも消える。
俺が一歩、踏み出す。
「では、答えを聞こうか。俺が言ったすべてを承諾するか、この国と一緒に心中するか」
「……それでも私は、承諾できな――……」
その瞬間、王様の首が魔法によって切り裂かれた。
物言わぬ躯となり果てた王様。それを実行したのは言うまでもない。
王女であり、実の娘であるアレティアだった。
王女が王を殺すと言う光景に、誰もが絶句していた。
「お、王女殿下。い、一体なにを……」
一人の貴族がなんとか声を絞り出してアレティアに問う。
しかし、アレティアは表情を一切崩さず答えた。
「野心に囚われ、民の気持ちも考えず領土欲しさに何年、何十年も隣国を攻める王は、本当に王ですか?」
その言葉に誰も答えない。
相手が王ゆえに反対することは許されなかったからだ。
アレティアは俺へと向き直る。
「実の親を殺しても何も思わないか?」
「思うところはあります。しかし、それでは民は幸せにはならない」
「一人の不幸より、大多数の平和を願うか……」
「はい。もとよりそのつもりでした」
このままではダメだと、もっと前から父を殺すことは覚悟していたのか。
ははっ、いいじゃないか。
随分と俺好みだ。
思わず俺は声に出して笑ってしまった。エイシアスも面白い光景が見れたのか、笑っている。
「愉快なものを見せてくれた。だが条件を変えるつもりはないぞ?」
「はい。テオ様、エイシアス様。私は――」
落ちた王冠を拾って自らの頭に乗せ、空いた玉座に座る。
「私、シーヴェリス王国女王として、テオ様とエイシアス様の要求するすべての条件を承諾します」
「クハハハッ、いいなぁ、最初とは違い、随分と強くなったじゃないか。いや、最初から覚悟していたことか。この国そのものに身を捧げているのだな」
「はい。もとより、そのつもりです」
「だが、それだけじゃあ、ダメだ」
エイシアスも同意するように言う。
「主の言う通り、それではダメだ。だから――天と魔を統べる、覇者として言わせてもらおう」
エイシアスは本来の姿を露にする。
側頭部から生える二本の黄金のツノ。腰から生える身丈ほどの黒い二枚の翼。
何より、本来の姿となった彼女は、その美貌をさらに昇華させる。
「王とは、ただの権力者ではない。己の力でもって、光も闇もその手に収め、全てを支配する覇者であるべきだ。恐れや情に流される者は王足りえない。王とは、世界そのものを己の意志で塗り替え、すべてを統べる存在であり、真の秩序をもたらす者だ」
「……私は、なれるのでしょうか?」
答えたのはエイシアスではなく俺だった。
俺はアレティアに現実を突きつける。
「それを問ううちは、王足りえない。王は迷わない。迷いがあれば、力を手にしても揺らぐだけだ。己の弱さを超え、全てを犠牲にしてでも進む覚悟がなければ、覇者にはなれない」
踵を返し、帰ろうとする。
ルノー達が扉を開き、出て行こうとしてアレティアが口を開いた。
「……ならば、私は迷いを捨てます。全てを犠牲にする覚悟はできています。王としての力を手に入れ、この世界を私の意志で塗り替えてみせる。恐れも弱さも、今ここで断ち切る。私が、あなたたちが理想と掲げる覇者になってみせましょう」
思わず立ち止まり、俺とエイシアスの口元が僅かに笑む。
本当に、こいつは最高だ。
これほどの覚悟を持つ女王なら、いずれ覇者となることだろう。
エイシアスに頼んで例のものを取り出させ、俺はアレティアにソレを投げ渡した。
「これは、一体?」
渡したそれは、七つの宝石が嵌め込まれた、ペンダントだった。
「お前が気に入ったからやる。そこには四大属性の他に、光、闇、無属性の大精霊が宿っている。魔力を流せば現れる」
魔の森で捕まえたレベル1000の大精霊を、エイシアスが持っていたペンダントに脅して無理やり押し込んだだけだ。
アレティアが魔力を流すと、ペンダントが光り輝き七つの魔法陣が現れた。
そこから、人型の女の子が現れた。
「お呼びでしょうか――あれ? ご主人様の魔力じゃない?」
「本当だ! あははっ、死んだのかな?」
「御主人、怖かったよぉ……」
「なら自由の身だ! この子が呼んだみたいだね」
「この子の魔力、心地よくていいですね」
「確かに、良い澄んだ魔力をしているわ」
「うむ」
順番に火、水、風、地、光、闇、無の大精霊であった。
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