36 / 84
第2章
10話:選ぶのは王である君さ
しおりを挟む
「は、話し合いだと! この状況でか⁉」
王様が声を荒げる。
誰がどう見てもふざけるなと言いたいだろう。
でも関係ないんだ。だって、力さえあれば権力にすら屈することがないのだから。
「それで、応じるか? それとも殺されるか。選ばせてやる」
「そんなの、脅しではないか!」
「もちろん、脅しているよ。でもね、殺す方が手っ取り早いんだ。国王だから、あえてチャンスをくれているんだ。そこを良く、考えることだ」
王女のアレティアは状況が理解できているようだ。
しかし、この惨状を見て顔をしかめている程度とは、案外肝が据わっているのかもしれない。
王妃に関しては気絶しているが、誰も心配の声を上げることができない。
「そのようなこと、一介の冒険者に許さるわけが――……」
一人の貴族が声を上げて何か叫んでいたが、五月蠅かったので指を鳴らす。
破裂して血肉を撒き散らし、近くにいた貴族が悲鳴を上げて尻もちを着いた。
「おい。お前らの今の立場を考えて、慎重に発言しろよ? 」
静かになった会場に、俺は淡々と告げる。
「で、どうする? 王様も、取り巻きも、ここで俺の機嫌を損ねたらどうなるか、分かってるよな? 気に入らないやつは、こうして一瞬で片付けるだけだ。だが、こうして少しは理性を見せてやってるんだ。話し合う余裕を与えてるのに、そんな馬鹿な発言ばかりしてると……無駄になるぞ?」
暫しの沈黙。
その沈黙を破ったのは王様だ。
「何が望みだ?」
「これ以上俺に関わるな。それとレグムント王国、ルノーとその騎士たちを殺すことも許さん」
「なっ⁉ そ、それは――」
「拒否権があると思っているのか?」
「――っ」
ルノー達は守ると約束したからな。あとでレグムントの王様に言っておかないと。
俺が一人で考えていると、隣に座るエイシアスが空間から茶器を取り出して、優雅にティータイムを始めていた。
この状況でふざけているのか、と言うことすらできない。なぜなら、彼女の実力もみんな理解しているから。
「あ、俺の分もいい?」
「当然、主の分も用意している。ほら」
ティーカップが手渡されたので、香りを楽しみ、口を付ける。
おっ、これは中々。
「美味しいな」
「ふふっ、ヴァルミス港で商人から手に入れた帝国産の一級品茶葉だそうだよ」
「へぇ、帝国か。次は帝国でティータイムといこうか」
「それはいいね。大きい国のようだから楽しみだよ。ところで……」
そう言ってエイシアスがアレティアを見た。
彼女はずっとこちらを見ていたようだ。
「お嬢さん、何か用かな? まさか、君もティータイムをご一緒したいのかな?」
「……いえ」
「そうか。聡明だとイスティリアから聞いていたが、どうやら違うようだね」
イスティリアという名前を聞いたアレティアがピクッと反応した。
「イスティリアと会ったのですか?」
「私が魔法を教えた。そうだね、人間風に言うのなら、『師匠』というやつだね」
「師匠、そうですか。テオ様、エイシアス様。王家とはどのようなご関係か聞いても?」
俺は「友人」とだけ答えた。
それだけで彼女は何かを考えているようだった。
そこで俺は疑問に思ったことを問う。
「兄が死んだっての、随分と無反応だな? それにこの惨状にも慣れているようだが?」
するとアレティアは自嘲気味に笑い、答えた。
「巷では英雄ともてはやされているのに、中身は小物なんですよ。それに、私のことは政治の道具にしか思っていない人です。死んだところで別に何も思いません」
良い国なのだが、王家は思ったより酷かった。
「テオ様、エイシアス様。望みとは一体? 先の発言が望みなのですか?」
「……それとも玉座か? ならこの王冠をくれてやる」
アレティアの言葉に王様が、俺が玉座を欲していると勘違いしていたので、思わず笑ってしまった。
エイシアスですら笑っている。
王冠は王の継承の証であるが、俺とエイシアスには不要だ。
エイシアスが答えた。
「王冠は素晴らしい装飾品だね。芸術性すら感じる。でも……その輝きが私を眩ませることはないよ。ほら、こうしよう。主の言うことを聞けば、その玉座は今のままキラキラと輝き続ける。でももし、逆らうなんて愚かなことをすれば……残念ながら、その美しい王冠も、この国も、ただの灰に変わるだけさ。選ぶのは王である君さ……もっとも、選択肢なんてものがあるとでも思っているのかい?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
下にある【♡】をポチッと押すのと、【ブクマ】をしていただけたら嬉しいです!
作者の励みになり、執筆の原動力になります!
少しでも応援したい、という方はよろしくお願いします!
王様が声を荒げる。
誰がどう見てもふざけるなと言いたいだろう。
でも関係ないんだ。だって、力さえあれば権力にすら屈することがないのだから。
「それで、応じるか? それとも殺されるか。選ばせてやる」
「そんなの、脅しではないか!」
「もちろん、脅しているよ。でもね、殺す方が手っ取り早いんだ。国王だから、あえてチャンスをくれているんだ。そこを良く、考えることだ」
王女のアレティアは状況が理解できているようだ。
しかし、この惨状を見て顔をしかめている程度とは、案外肝が据わっているのかもしれない。
王妃に関しては気絶しているが、誰も心配の声を上げることができない。
「そのようなこと、一介の冒険者に許さるわけが――……」
一人の貴族が声を上げて何か叫んでいたが、五月蠅かったので指を鳴らす。
破裂して血肉を撒き散らし、近くにいた貴族が悲鳴を上げて尻もちを着いた。
「おい。お前らの今の立場を考えて、慎重に発言しろよ? 」
静かになった会場に、俺は淡々と告げる。
「で、どうする? 王様も、取り巻きも、ここで俺の機嫌を損ねたらどうなるか、分かってるよな? 気に入らないやつは、こうして一瞬で片付けるだけだ。だが、こうして少しは理性を見せてやってるんだ。話し合う余裕を与えてるのに、そんな馬鹿な発言ばかりしてると……無駄になるぞ?」
暫しの沈黙。
その沈黙を破ったのは王様だ。
「何が望みだ?」
「これ以上俺に関わるな。それとレグムント王国、ルノーとその騎士たちを殺すことも許さん」
「なっ⁉ そ、それは――」
「拒否権があると思っているのか?」
「――っ」
ルノー達は守ると約束したからな。あとでレグムントの王様に言っておかないと。
俺が一人で考えていると、隣に座るエイシアスが空間から茶器を取り出して、優雅にティータイムを始めていた。
この状況でふざけているのか、と言うことすらできない。なぜなら、彼女の実力もみんな理解しているから。
「あ、俺の分もいい?」
「当然、主の分も用意している。ほら」
ティーカップが手渡されたので、香りを楽しみ、口を付ける。
おっ、これは中々。
「美味しいな」
「ふふっ、ヴァルミス港で商人から手に入れた帝国産の一級品茶葉だそうだよ」
「へぇ、帝国か。次は帝国でティータイムといこうか」
「それはいいね。大きい国のようだから楽しみだよ。ところで……」
そう言ってエイシアスがアレティアを見た。
彼女はずっとこちらを見ていたようだ。
「お嬢さん、何か用かな? まさか、君もティータイムをご一緒したいのかな?」
「……いえ」
「そうか。聡明だとイスティリアから聞いていたが、どうやら違うようだね」
イスティリアという名前を聞いたアレティアがピクッと反応した。
「イスティリアと会ったのですか?」
「私が魔法を教えた。そうだね、人間風に言うのなら、『師匠』というやつだね」
「師匠、そうですか。テオ様、エイシアス様。王家とはどのようなご関係か聞いても?」
俺は「友人」とだけ答えた。
それだけで彼女は何かを考えているようだった。
そこで俺は疑問に思ったことを問う。
「兄が死んだっての、随分と無反応だな? それにこの惨状にも慣れているようだが?」
するとアレティアは自嘲気味に笑い、答えた。
「巷では英雄ともてはやされているのに、中身は小物なんですよ。それに、私のことは政治の道具にしか思っていない人です。死んだところで別に何も思いません」
良い国なのだが、王家は思ったより酷かった。
「テオ様、エイシアス様。望みとは一体? 先の発言が望みなのですか?」
「……それとも玉座か? ならこの王冠をくれてやる」
アレティアの言葉に王様が、俺が玉座を欲していると勘違いしていたので、思わず笑ってしまった。
エイシアスですら笑っている。
王冠は王の継承の証であるが、俺とエイシアスには不要だ。
エイシアスが答えた。
「王冠は素晴らしい装飾品だね。芸術性すら感じる。でも……その輝きが私を眩ませることはないよ。ほら、こうしよう。主の言うことを聞けば、その玉座は今のままキラキラと輝き続ける。でももし、逆らうなんて愚かなことをすれば……残念ながら、その美しい王冠も、この国も、ただの灰に変わるだけさ。選ぶのは王である君さ……もっとも、選択肢なんてものがあるとでも思っているのかい?」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
下にある【♡】をポチッと押すのと、【ブクマ】をしていただけたら嬉しいです!
作者の励みになり、執筆の原動力になります!
少しでも応援したい、という方はよろしくお願いします!
654
お気に入りに追加
1,595
あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます
銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。
死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。
そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。
そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。
※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる