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2巻

2-2

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 なんと、広々とした草原が広がっていた。
 俺はそのまま、草原へと足を踏み出す。
 するとその途端、目の前に半透明はんとうめいのウィンドウが現れた。ステータス画面とそっくりだな。
 えーっと、『操作してください』、ね。
 目の前のウィンドウに触れると、文字が浮かび上がった。


 この亜空間では、魔力を消費することで空間内部を自由にカスタマイズできます。
 なお、現在のこの空間は五百キロメトル四方あります。(メニューより調整可能です)


「いや広すぎるだろ!?」

 ウィンドウ……というかメニューに浮かんだ文字を見て、俺は思わず突っ込みの声を上げた。
 そんなに広くても使いきれないぞ……
 とりあえず三百メトル四方もあれば十分か。
 そう思って設定を変えてみたが、特段変わった感じはしない。
 設定に合わせて壁ができるってわけではないんだな。
 そこからさらに、メニューを見ていくと、〈建築〉の項目が目に入った。
 気になったので確認してみる。すると様々な種類の建物が、説明付きでリストアップされた。

「これは城か? こっちは現代風のコンクリの一軒家いっけんや……ってそんなの流石にフィーネに怪しまれるだろ」

 ざっと見ていった感じ、この世界っぽい洋風の建築物はない。
 しょうがない、木造の建築物はこっちの世界でも何度か見たし、ここは広めの日本家屋にしておくかな。
 そう思って選択すると、今度は亜空間内のマップが表示される。
 なるほど、どこに置くか選べるのか……なんかゲームみたいだな。
 適当に場所を選択すると、目の前が一瞬光り輝き、次の瞬間には立派な日本家屋が完成していた。
 けっこう魔力を持ってかれたけど、まあ俺にとっては微々びびたるもんだな。

「よし、次は家具か」

 それから俺は、次々に内装を整えていった。
 そうそう、マグロ用に庭と厩舎きゅうしゃも作らないとな。
 一通りを整えたところで、フィーネとマグロを呼ぶために亜空間から出る。
 俺が出てきたのを見て、フィーネが詰め寄ってくる。

「どうでしたか?」
「なかなか快適だったな。ほら、フィーネとマグロも中に入るぞ」

 俺は、今度はフィーネとマグロを連れて亜空間に入る。
 そしてフィーネは一歩足を踏み入れた瞬間、口をパクパクさせて動かなくなってしまった。
 しばらくは復活しないようなので、マグロを庭へ連れていってやる。
 大はしゃぎしている間に、厩舎に夕食を置いておいた。

「マグロ、ここがお前の寝床だ。夕食を置いといたから、好きなタイミングで食えよ」
「ヒヒィーン!」

 分かってくれたようだ。
 門の近くに戻ると、フィーネが復活していた。

「な、なんですかこれは!?」
「だから亜空間だって。何もない草原だったから、魔力で家を建てたんだよ」
「いや、魔力でって……そんなことできるんですね」
「ああ、この空間内だったら、俺の魔力で何でも作れるっぽい」

 そう説明すると、フィーネは遠い目をしながら「いや、そんな簡単に……でもハルトさんですもんね……」と呟いていた。
 納得してもらえたならそれでいいや。

「ほら、家の中を見よう」

 俺はそう言って、フィーネを促す。
 外見通り、家の中はかなり広かった。
 日本家屋をベースにしたせいで畳の上にソファが置いてある妙な部屋もあったが、どの部屋も広々としている。
 キッチンには高性能の魔道具がシステムキッチンとして組み込まれている。俺が魔道技師まどうぎしのスキルを持ってることと関係あるのかな?
 そして浴室は四人同時に入れるほどの広さがあり、シャワーも完備、大きな湯船はヒノキ製だった。
 シャンプーとリンス、石鹸せっけんなどは錬成スキルで作成済みだ。
 お風呂を見たフィーネが目を輝かせる。

「どうした?」
「あの、今日はこれに入るんですか!?」
「もちろんだ。風呂は毎日入りたいからな」
「毎日って……普通お風呂は、貴族様くらいしか入らないんですよ? 大浴場が付いている宿もありますが、一般人の家にお風呂があることはまずありません。大体はお湯とタオルで身体をぬぐうくらいです」

 そうなのか。確かに俺も、ヴァーナで入ったきりだったもんな。

「へぇ~、でもこれで風呂に入れるな」
「はい! 私、お風呂に入ったことがあまりないので、毎日入れるなんて夢みたいです! 楽しみにしてます!」

 そうしてあらかた部屋を見終えたところで、夕食をとることにする。
 せっかくキッチンが広いので、昨日よりもしっかりした料理だ。
 今回はフィーネが手伝ってくれたこともあって、あっという間に準備も食事も片付けも終わったのだった。


 食事を終えた俺たちは、二人で風呂へ向かう。
 もちろん、一緒に風呂に入るため……ではない。
 フィーネに風呂の使い方をレクチャーするのだ。
 俺はまず、蛇口じゃぐちひねって湯を張る。

「わぁ、湯気が……熱くないんですか?」
「大丈夫だ。しっかり調整している」

 シャワーの使い方を教えてから、浴室を後にする。
 それから一時間後――

「今上がりました」

 リビングでくつろいでいると、フィーネがお風呂から上がってきた。
 けっこう長風呂だったなと思いつつ振り返り、「どうだった?」と声をかけようとしたところで言葉に詰まってしまった。
 れた髪に、ほのかに漂う石鹸とシャンプーの香り。
 その色っぽさは反則だろ……
 固まってしまった俺を見てフィーネが首を傾げるので、慌てて口を開いた。

「ど、どうだった?」
「湯船に浸かったおかげで疲れが取れて、気持ちよかったです!」
「ならよかったよ。そこにドライヤーがあるから使ってくれ」
「どらいやー?」

 あ、そうか。ドライヤーなんてこの世界にないよな。
 俺はフィーネにドライヤーの使い方を教える。
 その時の距離があまりにも近すぎて、心臓がかなりドキドキしてしまった。
 俺は一通りの操作方法を教えると、「こんなものがあるなんて!」と驚くフィーネを置いて、理性を失う前に急ぎ足でお風呂に向かうのだった。


 翌朝、俺とフィーネは亜空間を出て山を登っていた。
 ワイバーン変異種がいるのは山頂付近らしいので、黙々もくもくと進んでいく。
 途中、通常種のワイバーンや、それ以外にも山にむ魔物が襲いかかってきた。
 数が多い時は俺がまとめて倒し、フィーネにも倒せそうな相手の場合はフィーネに戦ってもらった。
 その結果、俺もフィーネも大量の経験値を獲得することができた。
 そういえば、ここまで大量の魔物と戦うことってなかったよな……これはけっこうレベルが上がってそうだな。
 そんなことを考えているうちに、あっさりと山頂に到着する。
 ワイバーンの影も形もないか……山頂付近にいるって話じゃなかったか?
 疑問に思っていたら、気配察知のスキルに反応があった。
 慌ててマップを確認すると、その反応は俺たちの周りをグルグルと回っている。
 しかし左右を見回しても姿はない……ということは上か!
 見上げると、そこには探していたワイバーン変異種がいた。
 十メトルほどの巨体に、赤黒いうろこ
 通常のワイバーンは大きくても五メトルの体長に、鱗は鮮やかな赤だ。
 鑑定を発動する。


  名前 :ドラゴンワイバーン
  レベル:124
  スキル:火魔法Lv‌8 咆哮Lv‌6 威圧Lv‌6 魔法耐性 物理耐性 
  称号 :変異種


 名前がただのワイバーンじゃなくて、ドラゴンワイバーンになってるな……種族が変わったってことか。
 そして何より、レベルの高さとスキルの豊富さが目を引く。
『通過した後が災害後のように荒れ果てる』と言われる災害級かそれ以上じゃないか?
 俺はフィーネに警告する。

「目的のワイバーンだ! フィーネは隠れろ!」
「わ、分かりました!」

 駆け足で俺から離れるフィーネ。
 だが、ワイバーンはそんなフィーネへと襲いかかる。

「ちっ」

 俺は舌打ちしながら、ワイバーン変異種に威圧を放つ。
 そしてひるんだ隙をついて、高速移動のスキル縮地しゅくちを使ってフィーネに近付き、そのまま抱えて走り出す。

「ふぇっ!? は、ハルトさん!? 何を――」

 急にお姫様抱っこをされたことに戸惑い、フィーネは目を白黒させる。

「狙われているぞ!」
「私がですか!?」
「ああ。逃げる方を狙ったんだろうが……とりあえずフィーネはここに下ろす。結界を張るから、討伐が終わるまで待っていてくれ」

 ワイバーン変異種からそれなりに距離を取ったところでフィーネを下ろし、結界を張る。

「分かりました。気を付けてください」
「ああ、行ってくる」

 ワイバーン変異種の方に向き直れば、滞空したまま、こちらを睨みつけている。
 そして、威圧で行動を抑え込まれた怒りからか、大きく咆哮ほうこうを上げた。

「GURUAAAAAAAAA!」

 通常種のワイバーンではとても出せないような威圧を発する変異種を見据え、俺は黒刀を抜いて構える。


「一瞬でもフィーネを狙ったこと、後悔するんだな」

 俺はそう零し、縮地で変異種に肉薄にくはくして刀を軽く振るう。
 変異種は大きく羽ばたいて後退し、刀を避けたかと思うと、がばっと口を開いた。
 その口に火球が生まれ、見る見るうちに大きくなっていく。
 そして一メトルほどの大きさになった時、火球は俺へと放たれた。
 一瞬、黒刀で切断しようと思ったが、あまりの熱量に結界を展開する。
 数秒後、結界を大きな衝撃が襲った。
 その後ワイバーン変異種は、同じ火球を連発する。
 結界は幾度いくども揺さぶられ、ついには亀裂きれつが入った。

「まじか!? この結界、かなり頑丈がんじょうに作ったんだけど!?」

 俺は慌てて、土属性魔法で結界と自分の間に壁を作る。
 ワイバーン変異種と俺の間に壁が完成し、変異種の視界をさえぎった瞬間、結界が崩壊して火球が土壁に直撃した。
 土壁は一瞬で破壊され、さっきまで俺がいた場所を火球が襲い、辺りに砂塵さじんが立ち込める。

「GURUAAAAAAAAAッ!」

 ワイバーン変異種が勝ち誇るように咆哮を上げ、羽ばたきで砂塵を吹き飛ばす。
 しかし俺はとっくにそこにいない。
 壁が完成した瞬間に、ステルスのスキルと気配遮断のスキルで姿と気配を消していたのだ。
 少し離れた空中に結界魔法で足場を作っていた俺は、縮地を使って敵に近付く。

「貰ったぜ!」

 相手は物理耐性を持っているため、普通の斬撃ざんげきでは効かないと判断した俺は、一度刀をさやに納める。
 そしてスキル抜刀術とスキル加速を併用し、神速の一撃を放った。
 攻撃が当たる直前、気配遮断が解除されたためにワイバーン変異種は俺に気付いたようだが、もう遅い。
 避けきれずに右翼が切断される。
 切断された右翼は、すぐに異空間収納によって回収する。

「GUGYAAAAAAAAッ!?」

 ワイバーン変異種はバランスを崩し、悲鳴を上げながら墜落ついらくした。
 そのまま地面に叩きつけられたワイバーンはすぐさま起き上がるが、切断された翼の傷痕きずあとからは血が流れ続けている。
 そして着地した俺を睨みつけ、咆哮を上げた。

「GURUAAAAAAAA!」

 次の瞬間、ワイバーンの周囲に無数の炎のやりが浮かび上がり、こちらへと放たれる。
 明らかにさっきより多くの魔力が込められているから、ただの結界じゃ一瞬で破られるだろうな……
 俺はすかさず、新しい結界を生み出した。

「――空間断絶結界イージス!」

 この空間断絶結界イージスは、結界魔法に時空魔法を組み合わせたものだ。
 時空属性によって、結界自体が時空を断絶する能力を持つため、外的要因に干渉かんしょうされることはない。
 つまり、絶対に壊れないのだ。
 無数の炎の槍が直撃するも、空間断絶結界イージスはびくともしない。
 そしてついに、ワイバーン変異種の攻撃が途切れた。

「ありがとうな。お前のお陰で新しい最強の守りが手に入った」

 俺はそう言って空間断絶結界イージスを解除すると、そのままワイバーン変異種へと駆け出す。
 もちろん鋭い鉤爪かぎづめを振り下ろしてくるが、俺は跳び上がり――
 そのまま交錯こうさくし、着地した俺は抜刀していた刀を納める。
 次の瞬間、俺の背後でワイバーン変異種の首がズレるようにして地面に落ちた。
 遅れて、首が無くなった巨体もゆっくりと倒れ、大きな音を響かせる。
 俺が「ふぅー」と一息ついてワイバーン変異種の死体を異空間に収納していると、フィーネが駆け寄ってきた。そうだ、結界の内側から抜けられるようにしてたんだったな。

「ハルトさん、お怪我はありませんか!?」

 フィーネは心配そうに、俺の体をあちこち触り確かめる。
 俺は思わず、両手でフィーネを引き離した。

「心配しすぎだ」

 俺は両手を動かし「ほらな?」と無事なことを告げる。

「す、すみません!」

 体を触りまくったのが急に恥ずかしくなったのか、フィーネは顔を赤くして、両手で顔をおおってしまう。
 と、そこで、フィーネのポーチの中身が光っていることに気付いた。

「フィーネ、なんか光ってるぞ?」

 フィーネは「え? なんでしょう?」と言ってポーチを開き、確認する。

「冒険者カード……? 光ってるところなんて初めて見ました」

 どうやら光っていたのは冒険者カードだったみたいだ。
 しかしフィーネは、冒険者カードをじっと見て動かなくなってしまった。

「どうした?」
「は、はい。その……ハルトさんもカードを確認してみてください」

 俺はわけが分からないまま、言われた通りに異空間収納から冒険者カードを取り出す。
 俺のカードはフィーネのとは違って、金色に光っていた。元のカードの色の違いで光の色も違うのか?
 そしてカードの裏面を見るとそこには――
『緊急依頼発令』という物々しい言葉が浮かんでいた。



 第3話 緊急依頼


「緊急……」
「依頼?」

 俺とフィーネはそう呟き内容を確認する。


 緊急依頼
 内容:王都北方向に魔物の大群が出現。原因、数は不明。
    戦える冒険者はギルドに集合せよ。
    なお、Bランク以上の冒険者は強制参加である。
 報酬:五万ゴールド


 俺はAランクだから強制参加か……Sランクになったら緊急依頼の強制受諾義務を特別に無しにしてもらえるって話だったから、昇格していればこれも無視できたのかな?
 そんなことを考えている俺を見て、フィーネは焦ったような声を上げる。

「ハ、ハルトさん。早く王都に戻らないと皆が!!」
「落ち着けフィーネ」
「こんな状況で落ち着いていられますか!? 早く、早く戻らな――」
「フィーネ!」
「ッ!」

 俺はフィーネの肩を掴み落ち着かせる。

「まずは落ち着け。こういう時こそ落ち着かなければダメだろ。それに今すぐ戻る手段はあるから大丈夫だ」
「は、はい……その、どうやって今すぐ王都に戻るんですか? ここまで来るのにも丸二日かかったんですよ?」

 ようやく落ち着いたフィーネは、そう尋ねてきた。
 確かに二日かかったが、それはかなりゆっくり進んできたからだ。急いで馬車を走らせれば一日で戻れるし、フィーネに亜空間にいてもらって、身体強化した俺が走れば二、三時間で王都に着くだろう。
 だが今回は緊急だからな、もっといい手段を思いついた。

「それは――空間転移だ」

 実際のところ、転移を試したことはないのだが、時空魔法をうまく利用すれば何とかなるはずだ。
 フィーネは一瞬きょとんとする。

「あの……今、何と?」
「転移で王都に戻る」
「転、移……ってええええ!? あの、ダンジョンにある、一度行った階層に行けるって機能ですよね。あれを使って王都まで? でもここはダンジョンじゃないですよ? それにそんなことができる人がいるなんて、聞いたことがありません!」

 へえ、ダンジョンがあることは知ってたけど、転移機能まであるんだな。
 俺が的外れなことを考えている間も、フィーネは混乱している。

「まあ、やって見せた方が早いよな……フィーネ、俺の体につかまってくれ」
「こう、ですか?」

 フィーネはおずおずと俺の服のすそをつまむと、ぎゅっと目を閉じた。
 ……ちょっと思ってたのとは違うけどまあいいか。
 よし、それじゃあさっそく試してみるか。
 まずは目を閉じ時空魔法を発動して、その魔力を俺とフィーネにまとわせて……あとは行きたいところをイメージすればいいのか?
 ここまで向かってくる時に通った、王都西門を出てしばらく進んだ道、その途中の森を強くイメージする。
 すると次の瞬間、軽い浮遊感ふゆうかんに襲われる。
 そして目を開けると、俺たちは見覚えのある森に立っていた。
 木々の切れ間から王都を囲む壁が見える。どうやら転移に成功したようだ。

「フィーネ、着いたぞ」

 俺がそう声をかけると、フィーネは恐る恐る目を開けた。

「この森は……あっ、あれは王都ですか!?」

 驚きの声を上げるフィーネに、俺は頷く。

「ああ……それじゃあ人目につかないところでマグロと馬車を出そうか」
「そうですね、このまま歩いて戻ったら流石に不審がられそうですから」

 というわけで、俺たちは馬車に乗り込んで王都に向かって街道を進んでいく。そんなに離れていないし、数分で着くだろう。
 そして俺は、この数分の間にやりたいことがあった。
 それはコートの制作だ。
 なにせ今着てるマントがボロボロだからな、新調したいのだ。

「フィーネ、ちょっと後ろの荷台のスペースに移っていいか?」
「ええ、大丈夫ですけど……運転は大丈夫ですか?」
「ああ、マグロなら任せて問題ないだろうからな」

 俺はそう言って、御者台から荷台に移る。

「何をするんですか?」

 そう聞いてきたフィーネに、俺はにやりと笑って答えた。

「ああ、マントがボロボロになってきたから、コートを作ろうと思ってな」

 言いながら、素材を出す。
 今回使うのは、ワイバーン変異種の鱗と皮膚だ。

「それは……さっきのワイバーン変異種ですか?」
「ああ、魔法や物理の耐性が強かったからな。まあ見ててくれ」

 俺はそう言って、鱗と皮膚に魔力を注ぎ込む。
 黒刀を作った時と同様、素材に魔力を込め、異空間収納内で時間を超加速することで馴染なじませ、変質させ、これを数回繰り返す。
 こうすることで、通常ではありえない密度の魔力を秘めた素材が出来上がるのだ。
 そうして素材が完成したところで、錬成のスキルを発動する。
 魔力が可視化され、真紅しんくいかづちほとばしった。
 ものの数秒で完成したそれは、黒地に所々に赤色が入った、カッコいいデザインのコートとなった。
 俺は性能を確認するため、神眼ゴッドアイで鑑定する。


  名前 :黒のコート
  レア度:幻想級ファンタズマ
  備考 :晴人が作ったコート。倒した魔物を経験値として吸収することで進化する。
      使用者の魔力を吸うことで、魔法耐性(中)、物理耐性(中)の効果を常時発動する。


 レア度は幻想級ファンタズマか。
 一般的な製法でできるアイテムの最高のレア度は、もう一つ下の伝説級レジェンドのはずだが……かなり特殊な作り方をしたおかげで、それ以上のレア度になったのか?
 性能についてもなかなかだな。
 魔法耐性は魔法攻撃への耐性、物理耐性は物理攻撃への耐性がある……文字通りだな。
 ただ、この『(中)』って表記は何だ? 初めて見たな……
 そう思っていると、頭に説明が流れ込んできた。
 これはアイテムそのものが持つ効果の大きさを表し、上から極、大、中、小とあるそうだ。
 耐性系ならダメージを軽減する効果を持ち、極が八十%軽減、大が五十%軽減、中が三十%軽減、小が十%軽減だとか。
 ぶっちゃけ極がついてほしかったが、中でも十分に強力だ。
 俺が思わずガッツポーズをすると、フィーネが首を傾げた。

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