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1巻

1-3

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 それから魔物を倒しつつ一時間ほど歩いたところで、少し離れた所から悲鳴が聞こえてきた。
 マップで確認してみると、複数の魔物と人間が入り乱れている。

「これは……もしかして魔物に襲われてる、のか?」

 そのことに気付いた俺は、急いでその場所へと向かう。
 辿り着いた現場には、悲惨な光景が広がっていた。
 少し開けた道の真ん中に、馬車が止まっていて、地面には八人の人間と三匹のグレイウルフ、それから馬が倒れている。
 そして、まだ生きているグレイウルフが四匹もいた。
 そいつらはそれぞれが、倒れている人間の腹に鼻先を突っ込んでいる。
 俺はその光景を見て、顔をしかめた。

「酷いな……」

 俺は間に合わなかったことを後悔しつつ、ここからどうするか考える。
 食われていない四人と馬は、まだ生きている可能性がある。
 正直な話、別に助けてやる義理はない。このまま見捨ててもいいんだが……

「誰かさんのお人好しが移ったのかね」

 そう呟きながら、食事を楽しむグレイウルフへと突っ込んでいき、一瞬で蹴散らす。
 ここまででそれなりの数の魔物を狩ったので、グレイウルフの四匹程度、たいした敵ではなかった。
 俺はそのまま食われていない四人と馬に近付き、状態を確認する。
 中には片目がつぶれていたり、片腕がなかったりした人もいたが、死んでいないなら治せる。
 ほっとしながら回復魔法をかけると、欠損部位がみるみるうちに元通りになっていった。
 部位欠損を治せるレベルの回復魔法は古代級クラスなので、目を覚ました後に何か言われたら面倒だが……まあしょうがないか。
 全員と馬を治してしばらくしたところで、一人、また一人と意識を取り戻す。
 彼らは周囲の状況を確認すると、俺の存在に気が付き声をかけてきた。

「あなたが助けてくれたのですね?」

 そう声を発したのは、五十代前半のおっさんであった。

「ああ。悲鳴が聞こえたから駆けつけてみたら、グレイウルフに襲われていたからな。倒してから回復魔法をかけたんだ。助けられてよかったよ」
「あの怪我を回復魔法で……いえ、命の恩人にいきなり色々聞くのは不躾ぶしつけでしたね。本当にありがとうございました! あなたがいなければ、私たちは死んでいたでしょう」

 何があったのか簡潔に説明をすると、おっさんにものすごい感謝された。
 他の三人も、うんうんと頷いている。
 これで高圧的な態度でも取られたら早々に立ち去ろうと思っていたが……悪い人ではなさそうだ。
 俺は「人として当たり前のことをしただけだ」と伝えるが、おっさんは首を横に振る。

「いえいえ。普通は逃げるか見て見ぬふりをしますよ」
「やっぱそういうものか」
「ええ、そうですとも。ですから本当に感謝しているのです」

 おっさんはそう言ってにっこりと笑うのだった。


 それから俺は、助けが間に合わなかった四人の遺体を丁寧に埋葬まいそうし、倒したグレイウルフの死体を異空間収納にしまい込む。
 そこで視線を感じて振り返ると、おっさんたちが唖然あぜんとした表情でこちらを見つめていた。
 しまった、人に見せないようにと思っていたのに忘れてた!
 時空魔法なんてものを使った言い訳をどうしようかと思っていると、おっさんが目をキラキラさせて話しかけてきた。

「まさかその若さでマジックバッグまで持っているなんて……かなり高価なもののはずですが、それでもお持ちということは、相当の実力者のようですね……ああ、すみません申し遅れました。私は商人をしているバッカスです……こちらがダリル、ルージャス、ガリバです」

 バッカスさんの言葉に、そういえばマジックバッグが存在するんだっけ、と俺は安堵あんどの息をつく。いい具合に勘違いしてもらって助かった。
 そしてバッカスさんに紹介しょうかいされた三人が会釈えしゃくしてきたので、俺も自己紹介をする。

「晴人だ……この先のワークスの街を目指している」

 俺がそう言って街がある方角を指さすと、バッカスさんは嬉しそうに言った。

「なんと! 私たちも同じ街を目指していたのです。ただその途中で襲われてしまい、護衛が全滅してしまいまして……ハルトさんさえよろしければ、護衛として同行していただけませんか? もちろん報酬ほうしゅうは出しますので」

 護衛か……目的地は同じだし、報酬が出るなら別に受けても問題はなさそうかな。

「ああ、問題ないよ。よろしく頼む」

 俺の返答に、四人は満面の笑みを浮かべるのだった。



 第4話 初めての冒険者ギルド


 馬車に乗り込んで談笑しながら進むことしばし、あっという間にワークスの街近くまで来た。

「そろそろ着きますよ」

 そんなバッカスさんの声に、俺は馬車から顔を出して前方を確認する。
 そこには、王都ほどではないがそれなりに大きな門と壁、そして検問待ちらしき列があった。

「ずいぶんとしっかりした壁だな?」
「ええ、この辺りはよく魔物が出ますから。あれくらいじゃないと防げないんですよ」

 バッカスさんは俺の質問に答えながら、馬車を人の列とは別の方向に進ませる。

「あれ、あの列に並ぶんじゃないのか?」
「ええ。あそこは一般人用ですからね。この街の検問は、一般人用と商人用、それから貴族用の三つに分かれているんですよ」

 そう説明してもらっているうちに、商人用の検問所に到着する。
 するとすかさず門番が寄ってきた。

「商人証の提示を――」

 門番さんはそこまで言ったところで言葉を切って、笑みを浮かべる。

「――って、バッカスさんでしたか……あれ、何かありましたか? 出発の際にいた護衛の冒険者がいませんが」
「ああ、帰りに森で襲われて、冒険者が全滅してしまってな。そこの青年に助けてもらったついでに、護衛として付いてきてもらったのだ」

 それを聞いた門番さんは、俺のことをまじまじと見つめる。

「すみませんが、身分証を見せていただいても? お持ちでしたら冒険者カードでも構いませんが」

 そう言われても、持ってないんだよな。
 俺は少しだけ探すふりをしてから、申し訳なさそうに見えるように答える。

「すみません、身分証になるものは魔物との戦闘で落としたみたいです……その、冒険者カードも持っていないのですが……」

 そんな俺をフォローするように、バッカスさんが言う。

「この人――ハルトさんの身分に関しては私たちが保証するよ」
「そうですか、バッカスさんがそうおっしゃるなら通っていただいて大丈夫ですよ……次からは冒険者カードを作っておいてくださいね」

 冒険者カードってなんだ? 登録証みたいなものだろうか。

「はい、ありがとうございました」

 そうして俺は無事に街に入ることができた……のだが、バッカスさんが不思議そうな顔で聞いてきた。

「ハルトさん、冒険者ではなかったのですか?」
「ん? 冒険者じゃないぞ?」

 あれ? 言ってなかったっけ?
 …………うん、言ってなかったね。
 バッカスさんは驚きの表情を浮かべながらも、どこか納得したように頷いた。

「そうなんですか。てっきり凄腕すごうでの冒険者さんかと……まあ色々事情があるのでしょう。それで話は変わるのですが、宿にアテはありますか?」
「これから探すつもりだけど。それがどうかしたか?」

 これから冒険者登録を済ませて、素材を売って金を手に入れてから考えようと思ってたんだが。

「いえ、もしよろしければうちの商会の宿を使ってはいかがでしょうか? お金などはりませんし、しばらく滞在していただいて構いませんから」
「いいのか? それじゃあお言葉に甘えようかな」

 俺の言葉に、バッカスさんはとても嬉しそうにしていた。
 それから街中を進むことしばらく、周りと比べても一際ひときわ大きな店の前で馬車が止まった。

「着きましたよ。ここが私が代表をしている商会の本部です!」

 馬車から降りたバッカスさんは、誇らしげに胸を張る。
 王都で見かけた下手な商会より大きいので、それも納得だ。

「ちなみに私が副代表です」

 バッカスさんに続いて馬車から降りたダリルさんのその言葉に、俺はルージャスさんとガリバさんを見る。

「まさか二人もこの商会の……」
「ええ、別の街で店舗を任されているんです」
「私も同じです。今回は王都での店舗代表会議の帰りでしてね」

 なるほど、そういうわけか。
 するとバッカスさんが、思い出したように尋ねてきた。

「そういえばハルトさん、今日はもう休まれますか? あるいは冒険者カードを作りにギルドへ行くとか……」

 冒険者カードを作るのにはギルドとやらに行く必要があるのか。だけど……

「ああ、どうしようか迷ってるんだ。もう暗くなってきたしな」

 正直、今日急いで作る必要はないと思う。明日にでもゆっくり行けばいいし……でも、観光とかするかもしれないし、最低限の金が必要なんだよな。
 バッカスさんは商人と言っていたし、何か買い取ってもらえないものか……

「そうだバッカスさん、この服を買い取ってくれないか? 当座の生活費が必要なんだ」

 俺がそう言ってかばんから出したのは、この世界に来た時に着ていた制服だった。

「これは……見たことのない生地ですが、肌触りがいいですね。街までの護衛の報酬と合わせて、金貨十枚でどうですか?」
「ああ、それで構わないよ」

 思ってたより高く売れたな……
 俺は承諾してお金を受け取る。ちょっとした買い物の時に困るだろうから、いくらかは大銀貨や銀貨にしてもらった。

「助かったよバッカスさん」
「いえいえ、こちらこそありがとうございました……今日はもう遅いですし、夕食にしようと思っているのですが、よかったらご一緒にどうですか?」
「いいのか? 何から何まで悪いな」
「もちろんですよ! 気にしないでください!」

 至れり尽くせりで少し申し訳なかったが、バッカスさんがそう言ってくれたので甘えることにした。
 それからバッカスさんたちと夕食を済ませた俺は、用意してもらった宿の一室でベッドに寝転ぶ。
 これまで経験したこともないような濃すぎる一日で疲れがたまっていたのか、俺は一瞬で眠りに落ちた。


 翌朝、俺はバッカスさんから場所を聞いて、冒険者ギルドの前までやってきた。
 冒険者ギルドとは、護衛や素材採取、魔物退治の依頼を管理し、冒険者に斡旋あっせんする組織だ。各地に支所があって、冒険者カードは公的な身分証にもなる。
 俺はこれからの生活がどうなるのか、不安半分、期待半分で扉に手をかける。
 建物の中は広く、手前側には酒場が併設へいせつしてあるらしい。少し奥の方が受付になっていて、列ができていた。
 おそらくあそこで登録もできるのだろうと考えて、その列に並ぶ。
 しばらくキョロキョロしているうちに順番になり、受付嬢うけつけじょうがにこやかに問いかけてくる。

「こんにちは、依頼の発注ですか?」
「いえ、冒険者登録をしたいんです。初めてなんですが……ここで大丈夫ですか?」

 俺がそう言った瞬間、近くで話していた冒険者らしき屈強な男が三人、酒瓶さかびんを片手に話しかけてきた。

「おい、兄ちゃんよ。冒険者登録にはまだ早いんじゃないか? お家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな」
「有り金置いてってもいいんだぜ? ギャハハハ」
「そりゃいいぜ。ギャハハハ」

 そう言って下品に笑う三人組を見て、異世界モノでよくある展開だと、俺は一人感動していた。
 一方で周囲の様子をうかがうと、同情するような目を向けてくる奴ばかりだった。そしてそいつらは、俺と目が合うと顔を背けてしまう。
 まあ、厄介事には巻き込まれたくないだろうし、その反応も当然だな。
 俺はテンプレ通りの展開を内心楽しみながら、絡んできた男たちに言葉を返す。

「忠告感謝するが不要だ。そっちこそ朝っぱらから酒を飲む金があるなら、そいつをママに仕送りしたらどうだ? ……ああ、そうか。ママの仕送りで酒を飲んでいるのか、それなら納得だ」

 俺のあおりに、三人組は顔を真っ赤にする。

「なんだと!? てめえ、タダで済むと思うんじゃねえぞ! 俺たちはこれでもCランク冒険者なんだぞ?」

 一人がそう怒鳴ると、三人ともが一気に剣を抜く。
 それを見て、近くにいた冒険者たちが離れていき、受付嬢が制止の声を上げた。

「ギルド内での争いは禁止です! 今すぐに武器を収めてください! 冒険者カードの没収措置をとりますよ!」
「おいおい、コイツが喧嘩けんかを売ってきたんだぞ? 買ってやらなきゃダメだろ? それに冒険者になるってんだ。実力を確かめてやるよ」

 いや、絡んできたのお前じゃん。
 でも実力を確かめるってのは面白そうだな、Cランクってのがどの立ち位置なのかは分からんが、冒険者のレベルを知るにはいい機会だ。
 俺は三人組を無視して、受付嬢に問いかける。

「ギルド内で武器を抜いたらどんなペナルティがあるんですか?」
「その場合は、即時に冒険者カードが一ヵ月間没収となり、活動ができなくなります。怪我人が出た場合は、ギルドからの永久追放ですね」

 なるほど、これであいつらは全員が一ヵ月の活動停止となるわけだ。ざまあないな。
 だが、それが決定したところで、三人が俺に剣を向けているという事実は変わらない。
 数的にはどうやっても不利だが……
 どう切り抜けるかと考えながら三人組を鑑定してみると、全員たいしたレベルではなく、脅威になりそうなスキルも持っていない。
 これなら負けることはないだろうけど、さて、どうやって倒すかな。
 そう思って三人組を見ていたら、俺が剣を抜かないのは怖気付おじけづいているからだとでも勘違いしたのか、ニヤけながら一斉に切りかかってきた。
 ……って全員上段からの振り下ろしかよ、単調すぎるだろ。

「危ないっ!」

 受付嬢がそう叫ぶが、森で魔物を倒しまくってレベルが三桁さんけた目前まで上がっている俺にとっては、連中の攻撃はずいぶんゆっくりに見えた。
 俺はすかさず、魔力で体を硬化こうかさせるスキルを万能創造で創り、手に魔力を流す。

《スキル〈硬化〉を獲得しました。スキルレベルが10となり〈武術統合〉へと統合されます》

 そんなアナウンスを聞きながら、振り下ろされる三人の剣を、硬化した手刀で瞬時に叩き折る。

「「「は?」」」

 三人はポカンとした顔で、間の抜けた声を上げた。

「こんなもろい剣なんて使うなよな、手が当たっただけで折れちゃったじゃないか」

 三人組も受付嬢も、成り行きを見守っていた周りの連中も、『脆いわけないじゃないか』と言いたげな表情を浮かべていた。
 しかし俺はそんな周囲の反応を無視して、『威圧』スキルを発動しながら三人組を睨みつける。
 三人組が威圧にあてられてガクガクと震え出したところで、スキルを解除してやる。
 そして顔面蒼白がんめんそうはくな三人に向かって、ドスをきかせた声で話しかけた。

「おい」
「「「は、はい!!」」」

 ビクリと肩を跳ねさせる三人組。

「お前たち三人は、俺に襲いかかってきた……これは事実だな?」

 三人は無言のままコクコクと頷く。

「そうだな……それじゃあ慰謝料いしゃりょうを貰おうか。武器も抜けないくらい怖かったからな~。それに手も痛い気がするな~。でも金欠で薬も買えないからな~」

 そう言ってチラリと三人組を見ると、一斉に喋り始めた。

「ど、どうかこれで、これで許してくれ! 頼む!」
「本当にすまなかった!」
「この通りだ許してくれ!」

 三人は口々にそう言いながら、革袋を差し出してきた。
 俺は三つの袋を手に取って、にっこりと笑みを浮かべる。

「いやー、悪いね♪ ……で、お前らいつまでここにいるの?」

 そう言ってさっきより強めに威圧すると、三人組は悲鳴を上げながら走り出し、そのまま建物の外へと逃げていった。

「……ふぅ、いきなり襲ってきたから盗賊とうぞくかと思ったぜ」

 三人組の背を見送りながら額の汗をぬぐってそう言うと、周囲からジト目が飛んでくる。
 うん、『お前が言うなよ!』ってことね、分かってる。
 俺はため息をついて、三つある革袋のうち二つを冒険者たちに、一つは受付嬢に渡す。

「迷惑料だ、皆で酒でも飲んでくれ」

 腹が立ったから巻き上げたけど、実際のところ、護衛報酬兼制服を売った金があるから金に困ってないんだよな。

「「「うおおおおおお! ありがとうな兄ちゃん!!」」」

 俺の言葉を受けて、全員が大きな歓声を上げた。
 喜んでもらえて何よりだ。だが……
 俺は受付嬢に言う。

「……登録、忘れてないですよね?」
「はい!? も、もちろんですよ、アハハ!」

 この反応、忘れてたな?
 俺は苦笑を浮かべながら、登録手続きを再開してもらうのだった。


「――では、こちらの紙に必要事項を記入してください。その後水晶玉を使って、ステータスの確認を行います……申し遅れました、私は当ギルドの受付を担当しています、ネーナといいます。これからよろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む」

 敬語で話すのも疲れてきたので、タメ口で通すことにした。嫌そうな顔もされなかったし、まあいいだろ。
 そして受け取った紙に必要事項を書いていく。
 こっちの字が書けるか不安だったのだが、言語理解スキルのお陰で違和感なく書けた。
 書き終えたところでネーナに紙を渡す。

「……はい、ハルトさんですね。内容に問題はないみたいです」

 書類を確認したネーナは、そう言って一つ頷くと、少しかがんで台の下から直径十五センチほどの水晶玉を取り出す。
 かがんだ時に胸の谷間に目がいったのはバレてないはず。

「この上に手を置いてください。ステータスが表示されますので確認をします」
「分かった」

 そう言ったものの、今の俺のステータスはかなりチートだから隠した方がいいだろうな。
 俺はそう考えて、万能創造でスキル『偽装』を作る。
 これは魔力を消費することでステータスや見た目を偽装することができるスキルだ。魔力の消費量は微々たるものだから、常時発動してても問題ないし、他人に鑑定された時も偽装状態のステータスが表示されるようになる。

《スキル〈偽装〉を獲得しました。スキルレベルが10となり〈魔法統合〉へと統合されます》

 アナウンスと同時に、ステータスを偽装して水晶玉に手を載せる。


  名前 :結城晴人
  レベル:58
  年齢 :17
  種族 :人間
  スキル:剣術Lv5 風魔法Lv4 火魔法Lv3 回復魔法Lv5 身体強化Lv4


 表示されたのはこんなステータスだった。

「えっと、かなりお強いですね……いえ、特に問題はないのですが。それではこれから、冒険者ギルドについての説明をさせていただきます――」

 そこそこ長かったので、話をまとめるとこうだ。
 冒険者はランク制で、上から順にS、A、B、C、D、E、Fとなる。高難易度の依頼を受ければ受けるほど、ランクが上がる。
 Cランク以下は、月に一回は依頼を受ける必要があるが、B、Aランクは三ヵ月に一回でいい。
 Sランクにはそういった制限はないが、緊急依頼の強制受諾義務や、指名依頼が入ることが多いので、結構忙しいらしい。
 ちなみにSランク冒険者は、世界に五人しかいないんだとか。
 そして、全員がFランクからスタートというわけではなく、登録する段階で試験を行い、実力に合ったランクからスタートできる。
 そういやさっきの三人組、あれでCランクなのか……
 また、パーティ制度というものもあり、冒険者同士で任意でパーティを組むことができる。パーティもランク制で、パーティの総合力とこれまでに受けてきた依頼の難易度でランク分けされるようだ。
 そこまで説明したネーナさんは、立ち上がるとにっこりと微笑んだ。

「ではハルトさん、さっそくこれから闘技場とうぎじょうで試験として模擬戦を行ってもらいます。試験相手はBランクの冒険者で、彼にハルトさんの適正ランクを判断してもらいます」
「分かった……ずいぶんと準備がいいな」
「ええ。毎日のように登録希望者が来るので、必ず一人はB級の方に依頼を受けていただいているんです。後輩育成に熱心な方も多いんですよ」

 そう言ってネーナさんは俺を闘技場へと案内するために席を立つ。

「へぇ、冒険者って危険な職業だと思ってたんだが、そんなに希望者が多いんだな」
「ええ、危険はありますが稼げますし、何よりも自由な職業ですから。あこがれを持つ人が多いのでしょう」
「なるほど、それは納得だな……それで、相手をしてくれる冒険者は結構強いのか?」
「強いですよ、Bランク冒険者ですからね。さっきはCランク冒険者をあっさり倒せてましたけど、くれぐれも油断はしないでください」

 ネーナさんはそう言ってニヤリと笑う。

「ああ、分かったよ」

 戦うのが楽しみだ。

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