異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中

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1巻

1-2

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「おいおい、とんだ無能じゃないか」
「そうだな、無能は出ていけ!」
「ホントだぜ、そんなステータスで何ができるってんだ?」

 またか……とうんざりしていると、一ノ宮さんがこちらに向かってきて、御剣たちを責めるように睨みつける。

「そんな風に言うのはよくないと思いませんか?」

 しかし御剣たちは相変わらずヘラヘラしながら、平然と言い放った。

「一ノ宮さん、そんな無能と一緒にいない方がいいよ」
「ああ、そうだよな」
「そうだ一ノ宮さん、こんな無能は放っておいて、俺たちと一緒に来なよ」

 そんな三人の言葉に、一ノ宮さんは目尻めじりに涙をめながら、泣き叫ぶように言った。

「なぜそんなひどいことが言えるんですか!? クラスメイトじゃないですか!」

 その大声に、遠くで談笑だんしょうしていた天堂たちも騒ぎに気付いたようだ。
 しかし御剣たち三人は、肩をすくめるだけだった。

「そんなこと言っても実際に無能だし……」
「別に変なこと言ってないよな?」
「だよな」

 一ノ宮さんは全く態度を改めない三人から顔を背けると、俺に頭を下げてきた。

「晴人君ごめんなさい。いつも止められなくて……」
「頭を上げてくれ。そんなの一ノ宮さんが気にすることじゃない」
「で、でもそれじゃ晴人君が……」

 一ノ宮さんは申し訳なさそうな顔をしているが、俺としてはそこまで気にしていない。
 いちいち絡まれるのはめんどくさいが、構っても喜ぶだけだろう。結局のところ、気にしないのが一番なのだ。
 するとちょうどその時、マリアナが謁見の間へと戻ってきた。
 彼女はそのまままっすぐ俺のところにやってくる。

「ユウキ様、すみませんが、これからのことについて別室にてお話をしたいのですが、付いてきていただけますでしょうか? ……他の皆様は、もう少々お待ちください」

 なんとなく何を言われるかは予想できるが、頷く以外の選択肢せんたくしはない。

「分かりました」
「晴人君……」

 一ノ宮さんが不安げに俺の名前を呼ぶ。クラスメイトの方に目を向ければ、天堂も心配そうにこちらを見ていた。
 俺は一ノ宮さんに、安心させるように優しく言う。

「大丈夫。なんとかするよ」
「……うん」
「多分俺は追い出されるだろうけど……いずれどこかでまた会おう」

 俺は一ノ宮さんの消え入りそうな細い声にそう返すと、マリアナに続いて謁見の間を後にした。


 そして別室にて――

「――と、いうことです」

 俺はマリアナから、予想していた通りのことを言われていた。

「分かりました。要するに、勇者の集団の中に、ギフトも称号もない無能な奴がいると困るから出ていけ……そういうことですね?」

 まあ、彼女の言うことも分からないではない。
 俺としても、皆の足手纏あしでまといになってまで一緒に行動しようとは思わないからな。
 それに、せっかくなら一人で異世界を見て回りたいというのもある。
 そんなわけで、俺は言われた通りにすることにした。

「話が早くて助かります、申し訳ございません……餞別せんべつとしていくらかお渡しいたします。普通に暮らしていれば三ヵ月は生活できるはずです」

 マリアナはそう言って、革袋を渡してきた。
 中に入っていたのは、金貨が三枚と銀貨が数枚。


 物価が分からないから、本当に三ヵ月もつかどうかは不明だが……金をもらえるだけマシか。

「それと、長く城下町にいられては他の勇者様と顔を合わせる可能性がございますので、城下町で装備を整え次第、ワークスという隣の街へと移っていただきたいのです。そこで普通に働くなり、魔物の駆除くじょや運搬、護衛といった依頼を受ける者――冒険者になるなり、好きに生きてください」
「……分かりました。皆には、俺が出ていったことを伝えておいてください」

 まあ、どうせそのうち旅に出るつもりではいたんだ、それが少し早まったと思えばいいか。
 それに冒険者になるってのも面白そうだ。今は無能なステータスだけど、レベルを上げれば成長する可能性もあるし、いつか皆に追いつくかもしれないからな。
 俺の言葉に、マリアナはにっこりと微笑む。

「はい。それではお元気で。神のご加護があらんことを」

 そうして俺は騎士に見送られ、今までいた建物――王城を後にするのだった。


 外から見た王城はなかなか立派で、城下町も結構にぎわっていた。
 見送ってくれた騎士によると、一番近い街は、この王都近くの森を抜けてすぐのところにあるらしい。森自体も半日かからず抜けられるという話だったので、軽く装備を整えて出発することにした。
 とりあえず制服だと目立つので、城門近くの武器屋兼防具屋で、冒険者っぽい装備一式と、黒いマント、それから鉄製の剣を買う。
 剣なんか使ったことはないが、ないよりはマシだ。
 買い物ついでに城下町を少し歩くと、大体の物価や貨幣価値が分かってきた。
 金の単位はゴールド。おおよそだが、一ゴールド=一円と考えてよさそうだ。
 銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨とあり、それぞれ、十ゴールド、百ゴールド、千ゴールド、一万ゴールド、十万ゴールド、百万ゴールドくらい。
 大金貨の上にも白金貨、黒金貨とあるらしいが……そうそう見ることはないだろう。
 マリアナから貰ったのは金貨三枚と銀貨数枚、計三十万円くらいだった。
 宿代とかを考えるとギリギリな生活になりそうだが、冒険者として活動すれば、なんとかなるんだろうか。
 俺はそんなことを考えながら王都を出て、森へと向かうのだった。


 森の入り口に入る頃には、太陽は真上にあった。この分なら、日が落ちる前には街に辿り着くだろう。
 しばらく森の中の道を進んでいると、後ろの方から馬の駆ける音が聞こえてきた。
 振り返ると、馬に乗った騎士が三人、こちらへと向かってきている。
 彼らはあっという間に俺に追いつくと、下馬して話しかけてきた。

「ユウキ様、ようやく追いつきました。勇者の皆さんには、ユウキ様は一人旅立たれたとしっかりお伝えしましたのでご安心ください」
「そうですか……わざわざその報告をしにここまで?」

 俺の問いかけに、騎士はニヤリと笑みを浮かべながら、腰に提げた剣を抜いてこちらに向けてくる。

「いえ――つまりです。陛下と姫様からのご命令ですので、悪く思わないでくださいね?」

 おいおい、『旅立つ』ってそういう意味か?

「結局はこうなるのかよ! クソがッ!」

 俺はそう言って腰の剣に手を伸ばすが、騎士の方が速い。
 次の瞬間には、俺の胸には剣が刺さっていた。

「ゴフッ……」

 剣を抜かれることで口から血がこぼれ、そのままうつ伏せに地面に倒れ込んでしまう。
 胸の傷口が燃えるように熱くなるのに反して、全身が冷たくなっていくのも感じる。
 意識が遠のいていく中、俺は力を振り絞って言葉を放つ。

「ぐっ……お、お前ら、覚えてやがれっ! いつか、いつか必ず、殺してや、る……」

 もはやしゃべる力もなく、ただ倒れ伏すだけとなった俺の耳に、騎士たちの会話が入ってきた。

「さて、とりあえず始末したら持ってる金は貰っていいって話だったが……」
「おお、めっちゃあるじゃないか。今夜は宴会えんかいだな!」
「違いない! ハハハっ」

 クソ、なけなしの金を持っていきやがって……
 と、一人がふと気づいたように言う。

「こいつまだ生きているのか?」
「ん? 確認するか。どれ」

 また別の一人が、そう言って俺の体を足蹴あしげにして仰向あおむけにさせた。
 俺はすでに痛みすら感じておらず、かすんでいく視界の中、騎士たちを睨みつける。
 しかし俺を足蹴にした騎士は、鼻で笑いながら言葉を投げかけてきた。

「フン、そんな目をしても無駄だ。お前はもはや虫の息だ、わざわざトドメを刺してやらなくてもじきに死ぬ」

 他の二人の騎士も頷く。

「それもそうだな。もう動く力も助けを呼ぶ力もない」
「だな。ここに来るまで人は見かけなかったし、このまま放置してても誰かが通りかかる前に血の臭いに誘われてきた魔物にでも食われるだろうさ」

 そんな言葉にいきどおりを感じながらも、俺の意識はそこでブラックアウトする。
 ――そして俺は、気が付くと真っ白な空間に立っていた。



 第3話 新しい力


「ここは……?」

 全く見覚えのない景色が目に飛び込んできて、俺は疑問に思いながら周囲を見回す。
 辺りは真っ白で、何もない空間がどこまでも続いていて果てが見えなかった。

「おっほっほ、ここは神界じゃよ。ワシがここにお主を呼んだんじゃ」

 急に背後から聞こえた声に振り向けば、そこには立派なひげを生やした一人の老人が立っていた。

「……どういうことだ? 俺は森で騎士のクズどもに襲われて死んだはずじゃ? それにアンタは誰だ?」
「そのことか。お主はまだ生きておるよ。騎士たちが去った後、死ぬ前にここに呼んでワシが治したのじゃ……ああ、それとワシは神じゃよ」

 は? 神様? と疑問に思うが、確かに胸に傷はないし服の穴もふさがっている。
 神様は不思議に思っている俺を気にした様子もなく言葉を続ける。

「実はの、お主が殺されかけた原因、つまりギフトを持っておらず無能扱いされることになったのは、ワシがギフトをつけ忘れたからなのじゃ。そのびとして、望むスキルを渡すために、死ぬ直前のお主を連れてきたのじゃよ……もっとも、スキルを得ることが吉と出るかきょうと出るかはお主次第じゃが」

 望むスキルを貰えるのは嬉しいが、疑問があるな。

「なんでそこまでしてくれる? 俺は何かをさせられるのか?」
「理由は今言った通りじゃし、お主はこの世界を好きに生きてよい。ワシには元々、お主をしばる権利などないのじゃ」

 神様の言葉に、俺は少し考えてから納得する。

「ふむ……分かった」
「よし。それではこれからは好きにするがよい。復讐ふくしゅうするのも幸せに暮らすのも自由じゃ」
「復讐、か……そうだな、俺を殺そうとたくらんだ奴らはこの手で必ず殺す。これは絶対だ」
「うむ、ワシからの忠告は、快楽殺人鬼や世界の破壊者だけにはなるな、といったくらいじゃ。後者の場合、最悪は魔神となるからのう……さて、さっそくじゃがお主を元いた場所に戻す。その際に、望むスキルを強く願うのじゃ」

 なんだかトントン拍子に話が進むが、戻る前に聞いておかなければならないことがある。

「最後に聞きたいことがあるんだが」

 神様の「どうした?」という問いかけに、俺は言葉を続ける。

「――元の世界には帰れるのか?」

 そう、今もっとも聞きたいのはこれだ。
 王は『魔王を倒せば』と言っていたが、正直信用できない。
 神様なら知っているだろうかと、わずかな希望を込めて聞いたのだが――

「帰還か……残念ながら難しいのう。戻っていった者がいないでもないのじゃが、詳しくは分からんのじゃ。そもそも異世界からの勇者召喚の魔法は禁忌きんきで、それ故にワシもそこまで干渉できん。神といっても、全てを管理、把握しているわけではないからのう……すまぬな」

 そんな答えが返ってきた。

「……まあ、不可能じゃないって分かっただけでもありがたいか。それなら自分で探してみるさ」
「本当にすまんのう……お主が幸運に過ごせることを祈っておるよ」
「ありがとう」

 そんなやり取りの直後、急に視界がゆがんでいき、そのまま真っ暗になった。
 体は動かず、声も出ない。
 俺は神様に言われた通り、能力を強く願う。
 ――守られてばかりではなく、大切な人を守るために、そしていつか地球に帰るために、必要な力を得られる能力を!

《ユニークスキル〈万能創造ばんのうそうぞう〉を獲得しました》

 ――善も悪も、全てを見通す最強の眼を!

《ユニークスキル〈神眼ゴッドアイ〉を獲得しました》

 ――悪意には悪意を、善意には善意を返す。今立てたこの誓いを守るための力を!

《ユニークスキル〈スキルMAX成長〉と〈取得経験値増大〉を獲得しました》

 俺の願いに応えるようにどこからか流れてくる無機質な声。
 それを最後まで聞き届けた俺は、再び意識を失うのだった。


 目を開くと、元いた森の中だった。
 少しぼーっとするが、動くのに問題はない。

「とりあえず……ステータスでも確認するか」

 あの無機質な声が言っていた通りのスキルが手に入っているなら、相当ヤバい気がする。
 少しドキドキしながら、「ステータス」と声に出して表示した。


  名前 :結城晴人
  レベル:1
  年齢 :17
  種族 :人間(異世界人)
  ユニークスキル:万能創造 神眼ゴッドアイ スキルMAX成長 取得経験値増大
  スキル:言語理解
  称号 :異世界人 ユニークスキルの使い手


 な、なんだこれ、凄いことになってるぞ……ユニークスキルが四個とか、クラスメイトの勇者連中よりよっぽどチートじゃねえか!
 俺はそう驚きながら、それぞれのスキルについて鑑定スキル……がどうやら神眼ゴッドアイに統合されているようなので、それを使って確認していく。


〈万能創造〉
  魔力を消費することで、魔法も含め、ありとあらゆるスキルを創造することができる。
  ただし、ユニークスキルやギフトのたぐいは創造できない。

神眼ゴッドアイ
  万物を見通す眼。あらゆるものを鑑定し、情報を得ることができる。
  また、マップ機能やうそを見抜く能力も付随ふずいする。

〈スキルMAX成長〉
  獲得したスキルのレベルが最大になる。

〈取得経験値増大〉
  取得経験値が倍増する。


 スキルの詳細を見た俺は絶句する。

「ま、まじか……」

 それしか言うことができなかった。
 確かに色々と願ったが、それにしたって強力すぎる。
 万能創造でスキルが創れるというのは、もはやなんでもアリ状態だ。
 神眼ゴッドアイで確認できるマップも、ただ地形が見られるだけじゃなくて人や魔物の居場所も分かるみたいだし、ゲームのようなモンである。
 まぁどれも、あって困る能力ではないし、さっそく万能創造で色々創っていくか。
 ……というわけで、作ったのがこちら。


〈並列思考〉
  並列思考が可能になる。うまく使えば複数のスキルを同時に使用できる。

〈武術統合〉
  武術系統合スキル。武術系スキルはここに統合される。現在取得しているのは以下。
   剣術、槍術そうじゅつ、盾術、弓術、斧術、格闘術、縮地しゅくち、気配察知、威圧

〈魔法統合〉
  魔法系統合スキル。魔法系スキルはここに統合される。現在取得しているのは以下。
   火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、雷魔法、氷魔法、光魔法、闇魔法やみまほう、回復魔法、時空魔法、無詠唱、身体強化


 思いつく限り作ってみたら、自動的に統合スキルが作られて、武術系と魔法系で分けられた。
 やりすぎた感はあるけど、まあこんなもんかな。

「さて、これからどうするか……と、その前に」

 俺は一度目をつむり、この世界で生きていくにあたっての決意を口にする。

「この世界で生きるために、俺は俺から何かを奪う奴を決して許さない。敵意には敵意を。殺意には殺意を。理不尽には理不尽を。地球に、日本に帰るためには俺は自重しない」

 わざわざ口にしたのは、この決意を信念として、忘れないようにするためだ。
 そもそも俺が殺されかけたのは、警戒心の低さと、この世界での命に対する認識の甘さに原因がある。
 色々と疑ってはいたが、まさかこうもあっさりと命を奪いに来るとは思っていなかった。
 だが、ああして死にかけた以上、認識を改めるしかない。
 この世界アーシラトでは、人の命は軽いのだ。
 常に警戒を緩めず、命のやり取りの際には躊躇ためらわない。
 そうでなければ『死』に直結するだろう。
 だからこそ、敵に容赦ようしゃせず、殺しも躊躇わないのだと決意した。
 まずは俺を召喚しておきながら殺そうとした国王とマリアナ――いや、国そのものに復讐を果たす。
 もちろん、帰る方法を探しつつになるのだが……
 などと考えていると、目の前の茂みからおおかみの魔物が出てきた。
 俺を刺した騎士たちが言っていた通り、血の臭いに引き寄せられたのだろう……何が『簡単に抜けられる』だ、この森のことを教えてくれた騎士にもだまされてたのか。
 俺は冷静に、目の前の狼に対して神眼ゴッドアイを発動する。


  名前 :グレイウルフ
  レベル:20
  スキル:気配察知 身体強化Lv2


 レベルは20と格上だが、たいしたスキルは持っていない。
 俺は飛びかかってきたグレイウルフに、身体強化スキルで身体能力を上げてから、格闘術スキルで回し蹴りをたたむ。
 避けきれずにモロに食らったグレイウルフは、「ギャンッ」という鳴き声を上げて数メートル先まで吹き飛んだ。
 おそらく今のでグレイウルフは絶命したのだろう、頭の中に無機質な女性の声が響いた。

《レベルアップしました》

 倒したから経験値が入ったってことなんだろうな。
 俺はすぐにステータスを確認する。


  名前 :結城晴人
  レベル:14
  年齢 :17
  種族 :人間(異世界人)
  ユニークスキル:万能創造 神眼ゴッドアイ スキルMAX成長 取得経験値増大
  スキル:武術統合 魔法統合 言語理解 並列思考
  称号 :異世界人 ユニークスキルの使い手 武を極めし者 魔導を極めし者


 いくらレベル的に格上だったとはいえ、このレベルの上がり方はやりすぎだろ……
 なんか称号も増えてるし。
 それから俺は気を取り直して、街へと向かうことにした。
 道中、遭遇そうぐうした様々な魔物と戦ってレベル上げと戦闘訓練をする。
 倒した魔物の素材は街でも売れるようなので、毎回っていたのだが、そろそろバッグに入りきらなくなってきた。
 どの部位が素材として売れるのかは神眼ゴッドアイで見れば分かったため、その部分だけを剥いで余計な部分は捨てているものの、バッグが小さかったようだ。
 しかも血の臭いもそれなりにするから、魔物が寄ってくる原因にもなっている。

「そういや時空魔法を使えるんだっけか……収納魔法とか作れそうだよな」

 そう考えて試しにイメージしてみると、目の前の空間三十センチ四方が歪む。

「これがそう、なのか?」

 試しに素材を近付けると、吸い込まれるように消えていった。
 歪み自体も、消えるよう念じるだけで影も形もなくなる。
 続いてさっきの素材を取り出したいと念じたら、歪みが再び現れた。
 そして恐る恐る手を突っ込んで握ると、何かをつかんだ感触がある。
 そのまま引き抜けば、手の中には先ほど入れた素材があった。

「なるほどね。これは便利だ」

 空間の歪みを注視すると、詳細が頭に流れ込んでくる。


〈異空間収納〉
  時空魔法で使える魔法の一つ。
  生み出した空間に物を収納できる。収納物の時間を止めたり進めたりすることも可能。


 そういや時空魔法もまだ確認してないから見ておくか。


〈時空魔法〉
  時間、空間を操作する魔法。
  スキルレベルにかかわらず、時空魔法のスキルで使う魔法は全て神代級しんだいきゅうとなる。
  神代かみよでは収納のために誰もが使っていたが、必要となる魔力量の多さから、現代では個人で時空魔法を扱える者はおらず、集団で魔力を注ぐことでのみ発動が可能となっている。
  大規模な商会などではこの魔法を利用してマジックバッグを生産し、高値で販売している。


 ん? 神代級? と疑問に思うと、魔法の階級についての説明が頭に流れ込んできた。
 魔法の階級は七段階あって、上から神代級、古代級、最上級、上級、中級、下級、初級と分けられている。
 各属性魔法スキルの初歩的な魔法は初級に分類され、スキルレベルが上がるほどに、より上級の魔法が使えるようになるようだ。
 現在、個人で習得できる最も高い階級は古代級とされていて、魔法を極めた者のみが使える。
 古代級には複数人の魔力を集めて発動する大規模攻撃魔法もあり、そのことから国家の軍部では、古代級魔法のことを戦略級魔法と呼ぶこともあるらしい。
 神代級というのは、文字通り神代――はるか昔に使われていた魔法のことを指す。現在ではほとんどが失われているが、一部の魔法は残っている。

「失われた魔法って聞くと、中二心がくすぐられるな……! あ、でも怪しまれるだろうから、うっかり人に見られないようにしなくちゃな」

 そんなことを呟きながら、俺は再び歩き始めるのだった。

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