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1巻

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 第1話 異世界召喚


 春の暖かい風がまどから入り込む教室で、朝のホームルームが始まる。
 クラス担任である宇佐美彩香うさみさやか先生の挨拶あいさつに、俺――結城晴人ゆうきはるとは三十九人のクラスメイトと共に挨拶を返す。
 今日の予定について板書しながらハキハキと話す宇佐美先生は、いかにも教師らしいのだが……残念なことにというべきか、黒板の上の方に手が届かないためにだいに乗っている。
 宇佐美先生は教員二年目の二十三歳なのだが、身長は百五十センチ弱と、中学一年生くらいだ。かなりの童顔だし、高二の俺たちよりも幼く見える。
 その身長や見た目にコンプレックスを抱いているそうだが、人当たりもいいので学校内での人気は高かった。

「皆さん、今日は文化祭の実行委員を二人決めようと思います」

 そんな先生の声に、クラス内が一瞬ざわついた。
 何せ、文化祭の実行委員となるとかなり忙しい。拘束されてしまう時間が増えるからと、大体の人がやりたがらないのだ。
 当然、俺としても避けたい役職なので、無関心をアピールするために窓の外を眺めていた。
 大体のクラスメイトが似たような反応だったため、先生は少し困ったような表情で問いかけてくる。

だれかやってくれる人はいますか?」

 その言葉に、三人の男子が挙手して声を上げた。

「俺は晴人君を推薦すいせんしまーす!」
「僕も晴人君がいいと思いまーす!」
「僕もでーす!」

 こちらを振り向く三人の顔には、ニヤニヤとした笑みが浮かんでいた。
 三人の名前は御剣健人みつるぎけんと駿河隼人するがはやと松葉亮まつばりょう
 この三人は、俺に対してことあるごとにイジメじみた嫌がらせをしてくるのだ。
 と言っても、クラスのリーダー的存在である天堂光司てんどうこうじや彼の幼馴染おさななじみたち数人が、何かがある度に気にかけて俺に話しかけてくれる。
 そのため、むしろ御剣たち三人の方がクラスから浮いているのだが……それでもあいつらは俺にちょっかいを出してきていた。

「……そう言っている人がいますが、結城君はどうですか?」

 俺が嫌がらせを受けていることに薄々うすうす気付いているのか、先生は心配そうに聞いてきた。
 俺は先生に答える前に、御剣たちに向かって問いかける。

「なんで俺が? お前ら三人のうちの誰か二人がやればいいだろ?」

 しかしその言葉に、御剣が偉そうに問い返してきた。

「はぁ? なんで俺たちがやらないといけないんだ?」

 そんな態度を見て、こいつらには何を言っても無駄だと判断した俺は、ため息をつきながら先生へと向き直る。

「はぁ……分かりました。自分がやります」
「本当に大丈夫なのですか? もしやりたくないのなら他の人が……」

 心配そうな様子でそう聞いてくる先生に余計な心配をかけまいと、俺は軽く微笑ほほえみながら首を振った。

「大丈夫ですよ」

 ちらりと見てみれば、俺に厄介事を押しつけることができてよほどうれしかったのか、御剣たちはさっきよりもいっそうニヤニヤしている。
 そしてまた天堂がいつものように三人に何かを言おうとした瞬間、別のクラスメイト――一ノ宮鈴乃いちのみやすずのさんが挙手した。

「先生、私も実行委員をやります」

 そんな一ノ宮さんを見て、先生は納得したようにうなずいた。
 それもそのはず、一ノ宮さんは美人な上に成績優秀、品行方正で先生たちからの信頼も厚い。天堂の幼馴染の一人でもあり、クラスの中心人物だ。それもあって、クラス一……いや、学校一の人気者だった。
 まさか一ノ宮さんがそんなことを言い出すとは思っていなかったのか、御剣たち三人がこちらをにらみつけてくる。まるで「代われよ」とでも言いたげな表情だが……押しつけてきたのはお前らだからな?
 先生はそんな御剣たちの視線に気付かず、一ノ宮さんに改めて確認を取るように問いかける。

「一ノ宮さんがそう言ってくれるのはとても嬉しいですけど、本当に大丈夫ですか?」
「はい。一度やってみたかったんです」

 一ノ宮さんはそう言って柔らかい微笑みを浮かべた。

「分かりました。では決まりですね」

 納得した先生は、黒板に俺と一ノ宮さんの名前を並べて書く。
 なんか御剣たち以外の男子連中からも睨まれてる気が……
 これはまためんどくさいことになりそうだな、なんて思いながら内心でため息をつく。
 まあでもせっかくの機会だし、一ノ宮さんも一緒だからなんとかなる気がする。
 何事も経験って言うしな。
 そんなことを考えていると、いきなり教室の床が輝き始めた。
 突然の事態に、動くこともできない。

「な、なんだ!?」

 誰かがそう声を上げた瞬間、幾何学きかがく模様が組み合わされた、いかにもアニメなんかに出てきそうな魔法陣っぽい形の光が、床に浮かび上がる。
 そして一瞬で視界が切り替わり――俺たちは見覚えのない大部屋に立たされていた。

「……え?」

 その声が誰のものかは分からなかったが、クラスメイト全員の心を代弁したものであることには違いなかった。
 いつもの見慣れた教室で自分の席に座っていたはずが、どことも全く分からない場所に立っている。
 歴史の教科書の中世ヨーロッパのページで見たような、石造りの壁や床に、シンプルな調度品。
 床にはさっきの魔法陣と同じような模様が光っている。
 そして目の前には、三メートルは優に超えるであろう大きさの、これまた石造りの扉があった。
 見渡す限り、この部屋にいるのは先生とクラスメイトだけ。俺たち以外は誰もいない。
 何が起きているのか全く分からず、誰も何も言えずにいたが、すぐに大きな扉が開いた。
 開け放たれた扉の向こうにいたのは、俺たちと同年代くらいの、白いドレスに身を包んだ美少女。そしてよろいを着た、いかにも騎士きしっぽい男が六人。白い服の少女を守る感じで立ってるから、あの少女は身分が高いのだろう。
 彼女たちは部屋の中へと入ってくると、俺たちの前で立ち止まる。
 そして少女は一歩前に出て、ドレスのすそをつまみ優雅に一礼してから口を開いた。

「よくぞ召喚に応じてくださいました、『勇者様』」

 顔を上げてニッコリと笑う少女を見て、男子の何人かがほお紅潮こうちょうさせる。
 一方で俺は、彼女の言った『勇者様』という言葉や現代ではめったに見ない騎士っぽい男たちの鎧、そして中世ヨーロッパ風の部屋の造りから、とある予想を立てていた。
 ――これっていわゆる『異世界召喚』ってやつじゃね……と。
 いきなり光に包まれて知らない場所にいるとか、勇者と呼ばれるとか、最近よく見る異世界モノのアニメやマンガのテンプレシチュエーションそのままだ。
 もっとも、まさか自分が実際に体験することになるとは思っていなかったが。
 どうしたものかと考えながら周囲を観察していると、白いドレスの少女が一つ咳払せきばらいをする。
 彼女は俺たちの顔をゆっくり見回してから話し始めた。

「初めまして。私はこのグリセント王国の第一王女、マリアナ・フォーラ・グリセントと申します。ここは勇者様方が元々いらっしゃった世界とは違う世界、アーシラトと呼ばれるところです。そして、これから勇者様方には父上……いえ、国王陛下と謁見えっけんしていただきます」

 マリアナが一気にそう言うと、ようやくここが地球でないことに気付いたクラスメイトたちが騒ぎ始める。

「ふざけんじゃねーよ!」
「俺たちを元の世界に戻せ!」

 それ以外にも様々な暴言がマリアナへと飛ばされる中、天堂が皆を制止する声を上げた。

「皆、一度落ち着こう! 今はそんなことを言っている場合じゃない。まず、この状況を整理しなければいけないだろう。話はそれからだ!」

 皆は静まり返り、天堂の言葉の続きを待つ。

「お姫様が言っていることが本当なら、僕たちが今いるのは地球じゃない『異世界』だ。まずは王様に謁見して、話を聞くべきじゃないか?」

 天堂がそう言うと、皆は顔を見合わせながらも沈黙する。
 しかし数十秒後には、数人が賛同し始めた。

「その案には俺も賛成だ」
「私も賛成」
「私も!」
「俺もだ」

 そしてあっという間にクラスメイトの大半が同意を示すことになった。
 先生はといえば、いまいち状況に付いていけない様子でずっとオロオロしていたのだが、女子たちに説明を受けて天堂に従うことにしたようだった。

「皆様、よろしいでしょうか……それでは私に付いてきてください。これより謁見の間へとご案内いたします」

 俺たちの意見がまとまったのを確認したマリアナは、そう言って部屋から出ていく。
 騎士がそれに続き、俺たちも天堂を先頭にして、謁見の間へと向かうのだった。



 第2話 ステータス、そして追放


 少し歩いて謁見の間へと辿たどく。
 扉はかなり豪華で、まさに謁見の間にふさわしいものに思えた。

「さて……先ほども申し上げましたが、勇者様方にはこれから国王陛下と謁見していただきます。陛下の近くまで行きましたら、片膝かたひざを突き頭を下げるようお願いいたします」
「はい。分かりました」

 天堂の返事に続いて、俺たち全員も頷く。
 そしてマリアナが、目の前の大きな扉を数回ノックした。

「陛下、勇者様方をお連れしました」

 そのよく通る声に応え、扉の向こうから「入れ」と返ってくる。
 同時に扉が開き、マリアナを先頭にして俺たちは謁見の間へと進んだ。
 先ほどの部屋とは比べ物にならないほど広く、左右の壁際には騎士が控えている。奥の方には玉座ぎょくざらしき豪奢ごうしゃ椅子いすがあって、五十代後半くらいのおっさんが座っていた。
 ……いや、『おっさん』は失礼か。あそこに座ってるってことは王様なんだろうし。
 マリアナはある程度進んだところで立ち止まると、片膝を突いて頭を下げる。
 俺たちも、作法に慣れないせいで若干遅れつつも、マリアナの後ろで同様の姿勢をとった。

おもてを上げよ」

 言われた通り顔を上げれば、王様が真剣な表情で俺たちを見下ろしていた。

「よくぞ我が召喚に応えてくれた、勇者たちよ。私がこの国の国王、ゲイル・フォーラ・グリセントだ。そなたらに頼みがあり、召喚させてもらったのだ」

 この王様の物言い、完全にテンプレだ。
 ということは、その『頼み』とやらもテンプレ通りに『魔王を倒してくれ』とかなんだろうな。

「今この世界では、魔族を率いて我々人間の国家を侵略する者――魔王が現れ、人々の生活が脅かされている。そこでそなたらには、魔王の討伐をしてほしいのだ。もちろん訓練はしてもらうが、その後は迷宮攻略で力をつけ、魔王と戦ってほしい……頼まれてくれんだろうか」

 ほーら、やっぱりそうだ。
 勝手な都合で召喚されたことにうんざりしていると、天堂の幼馴染、折原翔也おりはらしょうやが声を上げた。

「王様、返事をする前に、一つお聞きしたいことがあります」
「どうした?」
「俺たちは、元の世界に戻れるのでしょうか?」

 そんな折原の言葉に、俺たちは国王をじっと見つめる。
 戻れるかどうか、それは非常に大切な問題だし、当然全員が戻りたいと考えているはず。
 しかし国王は、申し訳なさそうな表情で口を開く。

「……すまないが、今は戻る手段はないのだ」
「どういうことです?」

 少し冷静さを欠いたような折原の声に、国王は「うむ」と頷いて言葉を続けた。

「魔王を倒すと、元の世界に戻るための手段が神託しんたくによって得られるという伝説があるのだ。もっとも、それが具体的にどのような方法かは分からんが……」

 なんか胡散臭うさんくさくないか?
 こう言っときながら、本当は帰る手段はどこにも存在しない、なんてのもテンプレだ。
 その場合は、魔王を倒した後で厄介払やっかいばらいとして殺されるか、あるいは「帰る方法が見つかったから教えてほしければ言うことを聞け」とか言って都合のいいように使われることになる。
 もちろん、本当に帰れる可能性もあるが……それにしたって、今すぐ帰れないとなると、ほぼ強制的に魔王討伐に参加しないといけないということだ。
 それを理解しているのだろう、クラスメイトのうちの一人が声を荒らげた。

「ふざけんじゃねーよ! 勝手に召喚した挙句、戦えって言うのかよ!」

 そしてその声に続いて、皆が続々と声を上げる。

「そうだそうだ!」
「勝手なこと言ってんじゃねえよ!」
「自分の世界のことなんだから自分たちでなんとかしろよ!」
「他の世界の人を巻き込むな!」
「俺たちの日常を返せ!」

 そうやって段々と騒がしくなっていく中、天堂が制するような大声を上げた。

「皆、少し僕の話を聞いてくれ!」

 謁見の間は一瞬で静まり返り、全員が天堂に顔を向けた。
 俺は天堂が何を言おうとしているのか察して、まゆをひそめる。
 大方、王様の言うことに従って魔王を倒そうとか言い出すのだろう。
 天堂は本当にいい奴で、困っている人を放っておけない性分だ。だからこそクラスの皆にしたわれているし、先生からも評価が高い。カリスマみたいなものもある。
 御剣たちの俺に対する嫌がらせがエスカレートしていないのも、天堂のお陰が大きいだろう。
 ただ正直なところ……普段助けられているからあまり悪く言いたくはないが、天堂にはお人好ひとよしすぎる面もあった。
 こんな胡散臭い『頼みごと』なんて、少し考えれば受け入れるべきではない。
 俺は天堂が言葉を続ける前に制止しようとするが――

「僕はこの世界の人たちのために魔王と戦おうと思う」

 間に合わなかった。
 ああくそ、やっぱり思った通りのことを言いやがった。
 もっと慎重に考えるべきなのに……なんて思っているうちに、天堂は言葉を続ける。

「それで一人でも多くの人を救えるのなら僕は戦う。僕たちが勇者だというのなら、戦う力があるはずだ。皆、僕と一緒に戦ってくれないか! もちろん自分勝手だって分かってるけど、どうか頼む!」

 天堂がそう言って頭を下げると、彼の幼馴染の一人、最上慎弥もがみしんやが口を開く。

「お前はいつもそうやって人のために動くよな。いいぜ、付き合ってやるよ」

 脳筋のうきんな最上のことだから予想していたが、俺は「お前もか……」と小さくつぶやき頭を抱えた。
 しかし一人が同意したことで、全員が続々と同意の声を上げていく。

「行くなら俺も行くぜ!」
「私も一緒に戦うわ!」
「先生も賛成です!」

 クラスメイトどころか先生までそう言っている以上、この決定はくつがえらないだろうな。
 この雰囲気の中で反対の声を上げるほどの度胸も、また反対するだけの根拠こんきょもなかったため、俺は黙ったまま一応の同意を示す。
 国王が小さく笑っているのが見えたが……それが純粋な喜びの笑みなのか腹黒いことを考えている笑みなのか、判別はつかなかった。
 しばらくして皆が落ち着いた頃、国王は立ち上がって口を開いた。

「協力感謝する。それではこれから、所有するギフトの確認を一人ずつ行ってもらおう……マリアナよ、私はまだ公務が残っているので後は任せたぞ」
「分かりました」

 そう言い残して謁見の間を後にする国王とそれを見送るマリアナの背中を見ながら、俺は聞きなれない『ギフト』という言葉に首をかしげる。
 周りを見れば、皆同じ疑問を抱いているようで不思議そうな表情を浮かべていたが、こちらに向き直ったマリアナが説明を始めた。

「これから勇者様方のステータスとギフトの確認をいたします。ギフトとは、異世界からこの世界に召喚される際に、神様から与えられるものです。そしてそのギフトを持っていることこそが、勇者である証だと、古くからの文献ぶんけんによって伝えられております」

 そう説明する間に、騎士たちがマリアナのそばに机と水晶玉を持ってきて、何かの準備を進める。
 マリアナはそれを確認したところで、再び口を開いた。

「こちらにある水晶玉はステータスを確認するためのものです。一人一人、順番に手をかざしてください。水晶玉で一度確認した後は、『ステータス』と念じればいつでも確認することが可能です……最初はどなたがやりますか?」

 マリアナの説明を受けて、天堂が一歩前に出る。

「僕が最初にやります」
「分かりました。ではこちらへどうぞ」

 天堂はマリアナの言葉に従って、机の上の水晶玉に手をせる。
 すると次の瞬間、天堂の目の前にゲームっぽいステータス画面が表示された。ある程度の大きさがあるから、この距離からでも確認できるな。


  名前 :天堂光司
  レベル:1
  年齢 :17
  種族 :人間(異世界人)
  ギフト:聖剣せいけん使い
     (全ての聖剣を扱えるようになる。剣術、光魔法のレベルが上がりやすくなる)
  スキル:剣術Lv1 火魔法Lv1 水魔法Lv1 風魔法Lv1 地魔法Lv1 光魔法Lv1 成長 鑑定 言語理解
  称号 :異世界人 勇者


 そのステータスを見て、マリアナや騎士たちが驚きの声を上げる。

「レベル1でこれほどとは」

 そんなとある騎士の言葉に、これが強いかどうかも分からない俺たちは首を傾げる。
 すると騎士の中でも一番豪華な甲冑かっちゅうを着た騎士がこちらを向いて言った。

「通常、レベル1のステータスではこれほど強くありません。属性魔法は一人一つが普通で、まれに二つ持っている者がいるくらいです。ごくごくまれに、三つ持つ者が現れますが、最強と呼ぶにふさわしい実力者に成長するほどのポテンシャルを秘めているとされます……つまり彼は非常に優秀なステータスということです」

 そう前置きしてから、ステータスの内容について簡単に説明をしてくれた。
『レベル』とは、どれだけの経験を積んでいるのかを数値化したもので、数字が上がれば上がるほど身体能力が上がり、強力なスキルを覚えられるようになる。また、体内の魔力量も増加するそうだ。
『ギフト』とは、さっきのマリアナの説明にあったように、勇者のみが持つ力。
『スキル』とは、武器術や魔法など戦闘用の技術から鑑定や言語理解といった技能まで、ステータスの持ち主が使えるさまざまな能力のこと。これは成長するうちに多くの種類が身に付くそうだ。また、レベル表記のあるスキルは、レベルが上がるごとに強力になるらしく、最高値は10。
 特に火や水といった属性魔法は、誰でも何かしらは使えるらしい。
 また他にも、天堂は持っていないが『ユニークスキル』というものもあるとのこと。どのスキルにも該当がいとうせず非常に強力で、習得は困難なんだとか。
 最後に『称号』だが……これは単に、肩書みたいなものらしいな。
 一通り説明を受けた俺たちは、次々にステータスを確認していく。
 俺はあまり乗り気ではなかったので、最後にやることにして様子を見ていた。
 先生も含めた全員が、それぞれのギフトに鑑定と言語理解のスキルを持っていて、さらに各々で複数の属性魔法やスキルを所持しているらしい。ちなみに鑑定とは、対象の情報を見るためのスキルだ。
 そうして順番がきて、俺も皆と同じように水晶玉に手を載せた。
 次の瞬間、近くにいた騎士が驚愕きょうがくの声を上げる。

「こ、これは!」
「何事ですか……えっ!?」

 マリアナも同様に、驚きの声を上げる。
 その理由は、表示されている俺のステータスにあった。

「召喚された方ならば必ず持っているはずのギフトがありません……それに、称号にも勇者の表記がないではありませんか!」

 マリアナの言う通り、俺のステータスは次のようなものだった。


  名前 :結城晴人
  レベル:1
  年齢 :17
  種族 :人間(異世界人)
  スキル:鑑定 言語理解
  称号 :異世界人


 ギフトや勇者の称号どころか、属性魔法の一つすらない。
 あるのは鑑定と言語理解のスキルのみだった。

「いったいなぜ……いえ、とにかく私は父上に、ユウキ様のことを報告してきます。勇者様方はこちらで少々お待ちください」

 そう言ってマリアナが出ていくと、御剣たち三人がニヤつきながら近付いてきた。

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