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第1章

第43話:馬車の中で

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 俺はアルカディア王国国王に謁見した時の様子を話た。
 そこでフィアを見ると、すやすやと寝息を立てていた。どうやらお昼ねタイムのようだ。

「国王はいい人だったけどなぁ」

 フィアの頭を撫でながらそう言った。

「他はのう……じゃがご主人様があそこで暴れたからのう?」
「しょうがないだろ? 俺に剣を向けたんだから死ぬ覚悟くらい出来ているはずだ」
「結局騎士はほぼ全員殺しておったようじゃが?」
「アイツらが悪い」
「同感じゃ」

 俺とゼノアがそんな会話をしていたが、フィリップさんやクレアは顔が真っ青になっていた。

「どうした?」
「い、いや、それは本当なのかな? 謁見の間で暴れたって」
「そ、そうですよ。流石に不味いんじゃ……指名手配」

 俺もそう思う。
 ならやるなよって話なんだが、それは俺達が強すぎるからどうとでもなるってこと。
 正直国相手でも負ける気はしない。

「心配すんな。国が相手だろうと俺達は負けないからな」
「うむ!」
「それは喜んでいい事なのか……」
「そうですね。お父様、アキトさん達にはどうするので?」
「む? そうだな。アキト殿にゼノア殿。何かほしい物はあるかな?」

 恐らく助けたのはお礼なのだろう。
 ゼノアと顔を見合わす。

「ゼノアは何かあるか?」
「無いのじゃ」
「だよなぁ~」
「アキト殿。金なら用意は出来るが?」
「金は……要らないな。魔境の魔物を売れば相当な金にはなるから」
「そうか……」

 フィリップさんは残念そうな表情をした。
 クレアも「む~」と唸って悩んでいた。
 そんなこんなで数分後、クレアが口を開いた。

「アキトさんどこかに家とかあるのでしょうか?」
「家って事は住んでいる家ってこと?」
「はい」

 家はある。
 そう、魔境にだ。

「魔境にはある。保存の魔法をかけてあるから当分大丈夫だけどな」
「そうですか。なら私達の国に住みませんか?」
「……それは配下か家臣になって欲しいって事でいいのか?」

 クレアは慌てて否定する。

「違います違います! そうではなくて」
「どういうことだ?」
「はい。レスティン王国はとても住みやすい所だと思います。王都には沢山の人で賑わっておりますし、沢山の品もありますので」

 俺ではなく、フィリップさんが口を開いた。

「クレア、良い案ではないか! 屋敷ならうちで用意する。無論金は取らん」

 フィリップさん。屋敷は要らないんだよ。
 こう、こじんまりとした小さな家が欲しいんだよ。

「うーむ。まだ王都を見ないから何とも言えないな」
「そうか。なら助けてくれた礼もある。謁見を一週間後にするからそれまでに決めてはくれないか?」

 一週間か。王都を見て回るには全く問題はないな。
 それに一週間もあれば、治安や経済性もある程度は分かるだろう。

「分かった。だけど屋敷に関しては待ってほしい。王都を回りながら一軒家の良い物件を探したいんだ」
「分かった」

 そう言うとクレアは喜んでいた。

 俺は話を変える。

「そう言えば、アルカディア王国から俺に関して何かを言われたらどうするんだ?」
「それは考えてなかったな……」

 俺は罪人だろう。
 そんな人を、レスティン王国がこんなやり方で歓迎したら何か言われるに違いない。
 いや、いい案を思い付いた。

「フィリップさん」
「どうした?」
「戦争だとか言われたら、俺達の事は何らかの罪をしたって事で国外追放にでもしてくれ」
「……それは出来ん。私とクレアの命を助けてくれた恩人だ。その様な事は断じて出来ない」
「そうです! 命の恩人にその様な事は出来ませんよ!」

 こうまで思ってくれるのは悪くはないな。
 何か悪い言い方をしてしまったようだ。

「分かった。俺が悪かった。アルカディア王国が何かを言ってきても知らない振りでもしてくれ。多分あの国王だ。そんな事はしないだろうよ。するとしたら貴族くらいじゃないか?」
「分かった。確かにあの国の国王はとても温厚なら人だ。そうはならないとは思う」
「信じるしかないか……」
「うむ」

 話が終わり、クレアの話になった。

「クレアは何歳なんだ?」
「十八です。来年からは王立魔法高等学院に入学します」
「王立魔法高等学院?」
「はい。世界でもトップクラスの学院です」
「へぇ~、そんなのがあるのか」

 フィリップさんも会話に加わってきた。

「アキトも入学してみてはどうだ? 歳もそう変わらんようだし」
「確かに俺も十八になってはずだ」
「同じ歳だったのですか!」

 クレアは俺の両手を取って、澄んだ目をキラキラと輝かせていた。
 思わずドキッとするも、表情には出さないようにした。

「ち、近いって」

 クレアは気づいたのか、一気に顔を真っ赤にさせた。

「す、すみません!」
「気にしないでくれ」
「私なんかが……」
「そう卑下するな。クレアは可愛いじゃん。俺が知ってる人の中でもトップクラスだ」

 そう言ってクレアに微笑んでやる。

「は、はぅ~」

 そこに、ゼノアが俺の脇をつねった。

『痛いってゼノア。どうした?』
『……ご主人様はその様な女が好きなじゃな?』

 !?
 ゼノアは念話で俺にそう言った。
 正直に言うとクレアは凄く可愛いのは間違いない。
 俺のタイプだ。
 だが、ゼノアも劣らずに可愛い!

 俺は慌てて否定しようとした。

『ち、違うんだこれは──』
『何が違うのじゃ?』
『……すみません。俺のタイプです』
『正直で良いのじゃ。別にご主人様が何をしようと、私はご主人様に付いて行くだけじゃ』
『うっ、あ、ありがとう!』
『よ、よすのじゃ。恥ずかしいではないか』

 ゼノアを見ると顔を逸らした。
 だが、耳が赤い事から照れたのだろう。
 やはり俺の嫁は可愛い。

「あの、どうしました?」

 無言な俺達が気になったのか、クレアが聞いてきた。

「い、いや、大丈夫だ。少し考え事をしていただけだ」
「そうですか。何かあったら言って下さい。私もお父様も相談に乗りますから」
「ああ、ありがとう」

 そんな光景を見たフィリップさんが口を開いた。

「ハッハッハ。クレアは満更でもないようだな。どうだアキト殿? クレアを嫁に欲しくないか?」

 その発言に、クレアはバッとフィリップさんに振り返った。

「お、お父様急に何を言って!」
「そうだ。フィリップさん」
「二人揃って……分かった分かった。すまんな」

 そう言ってフィリップさんはニコニコしていたのだった。
 
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