KAKERU 世界を震撼させろ

福澤賢二郎

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駆の章

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《空山隆之介》
変わった奴だ。
大海信吾が一緒に夕飯を食べようと誘ってきた。
小柄だが、スピードがある選手だ。
浪速の黒豹と呼ばれているらしい。
俺は断る理由もなく、了承した。

合宿を行っている街は田舎だか、美味しい飲食店は沢山あるらしい。
その中の一件でリザレというスペイン料理の店に入っていた。
店の中はかなり繁盛している。
「なんで里帆がいる?」
「大海さんから誘われたんです」
「そうや、男だけじゃ楽しくないやろ」

パエリヤや肉料理を幾つか頼んでいた。
「ここの店、結構いけるで」
確かに美味しい。
大海信吾が真剣な質問をしてきた。
「ズバリと聞くで」
「どうぞ」
「日本代表の権利を金で勝ったんか?」
「正確には違います。試してもらう権利を買いました。それがガーナ戦です」
「そうか。まだ合宿に残っているのは監督の判断やな」
「そうだと思います。コネや金だけで日本代表には入れないでしょ。全国民が見てますからね」
「そうやな」
「そんな事が聞きたかったんですか?」
「そうや、悪いか」
「ふ~ん。俺はてっきり里帆と付き合ってるのか?なんて質問かと想像してました」
「そんな質問はせん。もし、好きなってしもうた場合は奪いとるさかい」
里帆が拍手。
「男はそうですよね」
「そうや」
「頭の片隅に置いときます」
「もう一つ質問や」
「どうぞ」
「お前、どこでサッカーをしてたんや?」
「奥三河の山の中で」
「意味がわからんわ。とこのチームや」
俺は隠すつもりも無かったので身の上を全て話した。
孤児だった事、駆の事、駆の夢の事、その夢を叶える為にここにいる事。
大海信吾と里帆は泣いていた。
「な、な、なんて人生なんや。お前、全て人の為に生きてるやんか」
「俺は幸せでしたよ。ずっと駆と一緒だったから」
「そうかもしれんが。よし、ワイはお前と里帆ちゃんを応援するで」
里帆が嬉しそうな笑顔になる。
「大海さん、隆之介をお願いします」
「任しとけや」
二人は乾杯をし直して楽しそうに飲んでいる。

駆、見ているか。
俺は必ず駆の夢を叶えてみせるからな。


《桐谷里帆》
気が付くと隆之介におんぶされていた。
少し飲んで寝てしまったらしい。

小学生だった時、駆と隆之介を追いかけて山で迷子になった時があった。
その際に足を捻って歩けなくなって、泣きながらうずくまっていた。
日は沈み、暗闇に一人。恐怖に押し潰されていた。
その時、私を探し当ててくれたのが隆之介だったよね。
私をおぶって山道を帰ってくれた。
ねぇ、その時の事を隆之介は覚えてる?
私はしっかりと覚えてるよ。

“俺がいるから、大丈夫だ”

その一言が私の心を強くしてくれた。
試験の時や緊張した時は必ず君を思って“大丈夫”を唱えたよ。

もう暫く寝たフリをしていよう。

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