KAKERU 世界を震撼させろ

福澤賢二郎

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駆の章

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《空山隆之介》
僕は奥三河の山奥で友達の駆くんとサッカーボールを追いかけて遊んでいた。
一日中駆けていた。
駆くんとは同じ家に住み、ずっと、一緒。
勉強は屋敷に先生が来て教えてくれた。
生徒は僕と駆くんだけ。
図工で犬を書く事があった。
駆くんが僕の絵を覗き込む。
「隆之介、これは何?」
「犬だよ」
「どこがだよ」
いつも笑顔の駆くん。
駆くんは勉強も出来て絵も上手い。
そして、一番上手なのがサッカーなんだ。
走るのが速くボールも自分の体の一部の様に扱う。

今日も天気が良くボールを追いかけて山を駆けた。
「ねぇ、駆くんはサッカーが好き?」
「大好きさ、隆之介は?」
「よく分からない。どこのポジションがやりたいの?」
「俺はディフェンダー」
「どうして?普通、フォワードとかじゃないの」
「だって、一番サッカーの上手い奴と勝負が出来るじゃん」
「ふ~ん」
「ワールドカップに出場して世界で一番上手い奴とサッカーやるのさ」
「ふ~ん」
前を行く駆くん。

《桐谷里帆》
私は週末だけ奥三河の屋敷にいた。
そこでは、いつも駆くんと隆之介がいた。
二人はサッカーに夢中。
時々、私も入れてくれた。
夜は外でバーベキュー。
いつもはお手伝いさんが食事を用意してくれるけど、ここでは自分達で火を付けて材料を切って焼いて食べた。
とても楽しかった。
勉強も一緒にした。
私と駆くんは日本語、英語、スペイン語がしゃべれたけど、隆之介だけは日本語、英語だけでスペイン語は変な発音になってしまい、皆で笑っていた。
十六才になった時、父から聞いた。
駆くんが私の許嫁だと。

《空山隆之介》
駆と出会ってから十六年が経った。
大きな葬儀場にいる。
目の前には大きな駆の写真と花。
棺の中を覗く。
駆が安らかな表情で寝ている。
俺達はいつも一緒だった。
「駆、お前は幸せだったか?」
涙が止まらない。
ずっと、ずっと、一緒だった。
俺は泣いた。泣き続けた。
後ろから肩を叩かれる。
駆の父親だ。
「隆之介、今まで有難う。君の様な友達がいて駆は幸せだったはずだ」
「まだ、一緒にやりたい事があったんはずなんです」
駆は呼吸器系で重大な病気があり、田舎で療養する必要があった。駆が田舎で寂しくならないように父親は孤児院から俺を引き取り、兄弟の様に一緒に育てたんだ。
「これからは自由に生きてくれ。何でも君の願いを聞こう」
これから何をしたら良いのかわからない
駆が笑った。
「あの~、俺をサッカーの日本代表に選抜して下さい。ワールドカップに出たいんです」
「ワールドカップ?」
「そうです。駆の夢です。俺が叶えたいんです」
「わかった。手配しよう。でも、辛いだけかもしれないぞ」
「かまいません」
俺は立ち上がった。
さあ、やってやる。


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