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10.がんはりぃや
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《俺》
ベッドで眠りかけた頃、携帯電話が鳴る。
真佑からだ。
「どうした?」
「翔にぃ、すぐに来て」
「どうしたんだ?」
「患者がショック状態で死にそうな状態になってる。助けて」
「鏡味さんや細井さんがいるだろ」
「鏡味さんも細井さんも他の患者を治療してる。戸田さんは無理だって。でも、助けられる患者なの」
「どのくらいもたせられる」
「たぶん、三十分」
「わかった。今から行く」
「うん、待ってる」
俺はすぐに着替えて部屋を飛び出し、愛車のジムニーに乗り込んだ。
《成瀬瑠衣》
飛び出した西島真佑が戻ってきた。
「今からこの人を三十分もたせる。そうすれば」
「そうすれば?」と成瀬は聞いた。
「そうすれば、助かる」
「私の失敗だ。受け入れを許可したのは私だ」
西島真佑は機器を操作しながら、戸田直人に話しかけた。
「戸田さん、三十分だけ、私を助けてくれませんか」
踞る戸田が顔をあげる。
「何をすれば、良いんだ」
「出血場所はわかりませんが、タオルで至るところを押さえて、出血量を減らします」
「わ、わかった」
「成瀬さんも」
戸田と成瀬はタオルを持ち、開腹した内側を押さえる。
「頼むよ。どうか血よ止まってくれよ」
出血量が格段に減った。
「そのまま、押さえて止血して。もう少しだから」
二十分ぐらい経過しただろうか。成瀬が西島真佑を睨む。
「あなたは、何を期待してるの。鏡味さん達はあと一時間はかかるよ」
その時、扉が開き、一人の男が現れた。
西島真佑の顔がぱっと笑顔になる。
「翔にぃ、この人、子宮外妊娠で卵管破裂。出血多量のショック状態」
「わかった」
戸田の声のトーンが下がり、泣き出す。
「三流じゃないか。もうダメだ」
「期待した私が馬鹿だ」
成瀬もため息をはく。
《俺》
なんだ、コイツら腹が立つな。
「戸田さん、そこを退いて第一助手の場所へ、あと、成瀬だっけ、手術を再開する。機械出しをしろ」
「なんて、偉そうに」
西島真佑が大きな声で言う。
「今は西島翔太に従うこと!」
おお、さすが、我が妹よ。
俺は執刀医の場所につく。
「さあ、はじめるぞ。真佑、頼むぞ」
「任せて。だから、手術に集中して」
俺はタオルを取る。
すると、出血量が一気に増える。
「戸田さん、吸引」
吸引するが、すぐに血が溜まる。
「無理だ」
「もう、このままやる」
俺は血の海になっている内臓へ手を突っ込む。
ちちんぷいぷい、いたいのいたいの、ど~こだ。
腹の中の情報が指先から頭へ流れ込んでくる。
続けて縫合をするふりをして、細胞分裂活性化させて傷口を修復していく。
戸田や成瀬には俺が血が溢れる腹の中でなにをしているかわからないだろう。
俺の手の動きにあわせて血が激しくバシャッバシャッと飛ぶ。
あっ、小さな細胞の塊がある。それを取り出す。少し人の様な形になっている。生まれてくる事が出来なかった細胞の集合体。
それを成瀬の震えた手に渡す。
そして、俺は真佑を見る。
「真佑、良くコントロールしたな。さすがだよ」
真佑がニコリと微笑む。
「翔にぃ、ご苦労様」
戸田が俺と真佑を交互に見る。
「まだ、終わってないだろ」
「戸田さん、吸引して」
吸引して血が無くやると綺麗な内臓が露になった。
傷口もほとんど確認出来ないぐらいに丁寧に縫合されている。
「信じられない。三流が、三流が。俺はおめぇの事を三流とは呼ばないよ。おい、成瀬も三流なんて呼ぶなよ。俺たちの命の恩人だから、いいな」
「わかった」
「戸田さん、閉腹を頼むよ。そして、この子は戸田さんが担当してくれよな」
「わかった。後は任せておけ」
「俺は帰って寝るよ」
「おお、そうしろ。明日もあるからな」
「じゃあ」
俺は手袋を外してゴミ箱へ投げ捨て、手術室を出た。
《戸田直人》
菅原麗子の腹を閉じながら、西島真佑に聞いた。
「なあ、西島翔太があそこまで出来る事を知っていたんだよな」
「まあ、そうですね」
「俺、感動した。あの見えない血の中で良く縫合が出来たよな。凄いわ。成瀬もそう思うよな」
「確かに、凄い。縫合の動きも速くて美しい」
「ありがとう」
「別にあたなを誉めてるワケじゃない」
「あっ、そうか。翔にぃが誉められた事が、ついつい嬉しくて」
戸田の縫合が終わった。
「でもな、俺が一番凄いと思ったのは動じる事の無かった図太さだ」
「鈍感なだけよ。もし、違うなら、物凄い数の修羅場を経験してる」
真佑は皆を見回す。
「戸田さん、成瀬さん、今夜の事はあまり、聞かれない限り話さないで」
「当たり前よ。三流に助けられたなんて知られたら、私たちが大変になる」
「まあ、そうだな。執刀医は俺。戸田直人だ。良いな」
この場にいた者だけが真実を知る。
そして、戸田の頭には翔太の手術映像が焼き付いていた。
ベッドで眠りかけた頃、携帯電話が鳴る。
真佑からだ。
「どうした?」
「翔にぃ、すぐに来て」
「どうしたんだ?」
「患者がショック状態で死にそうな状態になってる。助けて」
「鏡味さんや細井さんがいるだろ」
「鏡味さんも細井さんも他の患者を治療してる。戸田さんは無理だって。でも、助けられる患者なの」
「どのくらいもたせられる」
「たぶん、三十分」
「わかった。今から行く」
「うん、待ってる」
俺はすぐに着替えて部屋を飛び出し、愛車のジムニーに乗り込んだ。
《成瀬瑠衣》
飛び出した西島真佑が戻ってきた。
「今からこの人を三十分もたせる。そうすれば」
「そうすれば?」と成瀬は聞いた。
「そうすれば、助かる」
「私の失敗だ。受け入れを許可したのは私だ」
西島真佑は機器を操作しながら、戸田直人に話しかけた。
「戸田さん、三十分だけ、私を助けてくれませんか」
踞る戸田が顔をあげる。
「何をすれば、良いんだ」
「出血場所はわかりませんが、タオルで至るところを押さえて、出血量を減らします」
「わ、わかった」
「成瀬さんも」
戸田と成瀬はタオルを持ち、開腹した内側を押さえる。
「頼むよ。どうか血よ止まってくれよ」
出血量が格段に減った。
「そのまま、押さえて止血して。もう少しだから」
二十分ぐらい経過しただろうか。成瀬が西島真佑を睨む。
「あなたは、何を期待してるの。鏡味さん達はあと一時間はかかるよ」
その時、扉が開き、一人の男が現れた。
西島真佑の顔がぱっと笑顔になる。
「翔にぃ、この人、子宮外妊娠で卵管破裂。出血多量のショック状態」
「わかった」
戸田の声のトーンが下がり、泣き出す。
「三流じゃないか。もうダメだ」
「期待した私が馬鹿だ」
成瀬もため息をはく。
《俺》
なんだ、コイツら腹が立つな。
「戸田さん、そこを退いて第一助手の場所へ、あと、成瀬だっけ、手術を再開する。機械出しをしろ」
「なんて、偉そうに」
西島真佑が大きな声で言う。
「今は西島翔太に従うこと!」
おお、さすが、我が妹よ。
俺は執刀医の場所につく。
「さあ、はじめるぞ。真佑、頼むぞ」
「任せて。だから、手術に集中して」
俺はタオルを取る。
すると、出血量が一気に増える。
「戸田さん、吸引」
吸引するが、すぐに血が溜まる。
「無理だ」
「もう、このままやる」
俺は血の海になっている内臓へ手を突っ込む。
ちちんぷいぷい、いたいのいたいの、ど~こだ。
腹の中の情報が指先から頭へ流れ込んでくる。
続けて縫合をするふりをして、細胞分裂活性化させて傷口を修復していく。
戸田や成瀬には俺が血が溢れる腹の中でなにをしているかわからないだろう。
俺の手の動きにあわせて血が激しくバシャッバシャッと飛ぶ。
あっ、小さな細胞の塊がある。それを取り出す。少し人の様な形になっている。生まれてくる事が出来なかった細胞の集合体。
それを成瀬の震えた手に渡す。
そして、俺は真佑を見る。
「真佑、良くコントロールしたな。さすがだよ」
真佑がニコリと微笑む。
「翔にぃ、ご苦労様」
戸田が俺と真佑を交互に見る。
「まだ、終わってないだろ」
「戸田さん、吸引して」
吸引して血が無くやると綺麗な内臓が露になった。
傷口もほとんど確認出来ないぐらいに丁寧に縫合されている。
「信じられない。三流が、三流が。俺はおめぇの事を三流とは呼ばないよ。おい、成瀬も三流なんて呼ぶなよ。俺たちの命の恩人だから、いいな」
「わかった」
「戸田さん、閉腹を頼むよ。そして、この子は戸田さんが担当してくれよな」
「わかった。後は任せておけ」
「俺は帰って寝るよ」
「おお、そうしろ。明日もあるからな」
「じゃあ」
俺は手袋を外してゴミ箱へ投げ捨て、手術室を出た。
《戸田直人》
菅原麗子の腹を閉じながら、西島真佑に聞いた。
「なあ、西島翔太があそこまで出来る事を知っていたんだよな」
「まあ、そうですね」
「俺、感動した。あの見えない血の中で良く縫合が出来たよな。凄いわ。成瀬もそう思うよな」
「確かに、凄い。縫合の動きも速くて美しい」
「ありがとう」
「別にあたなを誉めてるワケじゃない」
「あっ、そうか。翔にぃが誉められた事が、ついつい嬉しくて」
戸田の縫合が終わった。
「でもな、俺が一番凄いと思ったのは動じる事の無かった図太さだ」
「鈍感なだけよ。もし、違うなら、物凄い数の修羅場を経験してる」
真佑は皆を見回す。
「戸田さん、成瀬さん、今夜の事はあまり、聞かれない限り話さないで」
「当たり前よ。三流に助けられたなんて知られたら、私たちが大変になる」
「まあ、そうだな。執刀医は俺。戸田直人だ。良いな」
この場にいた者だけが真実を知る。
そして、戸田の頭には翔太の手術映像が焼き付いていた。
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