白衣の騎士

福澤賢二郎

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2.西都総合病院

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《俺》
今日は西都総合病院のアルバイトの日。
ここは帝都大付属と違い、居心地が良い。
威張る奴もいない。
術衣に着替えて手を洗っていると、助手に入ってくれる小松七菜がやってきた。
若いけど、関西医大学出身で優れた医師だ。
「西島さん、今日も宜しく」
「こちらこそ」
「でも、良いんですか?」
「何が?」
「今日の患者は帝都医大で手術不可能と言われた患者でしょ」
「何の問題もないさ。さあ、行こう」
「はい」
俺は手を乾燥させて手術室に入った。

手術室に入ると機械だし、麻酔科医などスタッフが冷たい視線で俺を見る。
まあ、当たり前だ。帝都医大から来た医師は威張り散らし、上手くいかなければ、周りのせいにしてきたらしいからな。

執刀医の位置に立ち、目の前に小松が立つ。
閲覧室を見上げると西都総合病院の外科部長と数人がいた。
「西島さん、お偉いさんに注目された手術になりました」
「そうだけど、関係ない」
「そうですね。手術に集中します」
「さあ、始める。肝臓癌による肝臓摘出及び肝臓再建を行う」
俺は機械だしに向けて右手を差し出すと、ワンテンポおいてメスを手渡される。
メスを走らせて開腹していく。
幾つかな内臓を動かしながら肝臓部の視野を確保した。
どす黒く変色した肝臓。
小松七菜が動揺しています。
「これは無理です。肝臓は三分の一は残せないと機能しない」
「問題ない。摘出する」
俺は全摘して取り出す。
周りもざわつき始めた。殺す気かという奴もいる。
側においた台に摘出した肝臓を置いた。その横には本人の細胞で培養した細胞シートがある。
これだけでは意味をなさないけどね。
俺は取り出した肝臓を切り開き、良質の細胞部分を取り出してシートに置く。
そして、母から引き継いだ力を発動させる。

‘’ちいちんぷいぷい、痛いの痛いの飛んでいけ‘’

良質細胞が猛烈活性して分裂増殖を起こし、細胞シートに定着していく。
それを誰にも悟られない様に素早く少しだけ残した肝臓へ繋ぎ合わせる。この力は誰にも知られてはいけない。

そして、俺にはもう一つの武器がある。
それは親父から叩き込まれた医療の知識と技術だ。
悪魔の南の島を思い出した。小さな時から何人もの人間を斬らされ、縫い合わせた。
いかん、いかん。今は手術に集中だ。

細胞分裂と縫い合わせる事を高速で繰り返す。三分ぐらいだろうか新たな肝臓が出来上がる。
俺は新たに出来た肝臓を持ち上げて、患者の内臓へ戻す。
周りの人は戦々恐々としている。
こんなの見た事ないし、理解も出来ていないし、パニックだろう。
仕上げだ。新たな肝臓へ血管を繋ぎ合わせていく。
同時に細胞分裂を促してやる事で多少粗く縫い合わせても丁寧な仕上げとなる。
「は、速すぎる。そして、綺麗」
小松七菜や機械だし、麻酔科医達も唖然として見る。
彼らには物凄い高速で繋ぎ合わさせれいる様にしか見えないはずだ。
そして、数分で完了。
「さあ、ペアンを外そう」
「はい」
小松七菜が恐る恐るペアンを外す。
肝臓が綺麗なピンク色へ変わっていく。
「どうして。これは奇跡」
「小松さん、閉腹を頼むよ」
「はい」
小松は丁寧に閉じて行く。俺はずっとここにはいられないから彼女がこの患者を受け持つ様になる。
もう、問題ないだろう。
無事に終わり。
「皆、ありがとう」
「お疲れ様でした」
そして、俺は手術室を出た。

これで帝都医大が出来ないと言った案件を三件、ひっくり返した事になる。
手術室の外では、泣いて泣いて目を赤くした奥さんが待っていた。
「先生、どうでしたか?」
「成功です。問題ありません。また、一緒に暮らせます」
「ありがとうございます」

人を救い感謝される事は嬉しい。
でも、手術する度に悪魔の日々と鬼の様な親父と最後の言葉を思い出す。

お前は神か悪魔か。
人がお前の能力を知った時、お前にどこまで望むのか。
帝都医大という魔城には欲望に魅せられた怪物達が蠢いている。
怪物達よ、待っていろ。本当の怪物を教えてやる。

笑っていやがった。
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