真夜中の白魔術師

福澤賢二郎

文字の大きさ
上 下
49 / 49
KARTE 6:白石真依

目覚め

しおりを挟む
《藤堂直文》
杉田から電話が入った。
藤堂はまだ、クラブにおり、女を抱き寄せて胸をもてあそんでいた。
「あとは目覚めるだけだな。連絡、ありがとさん」
女の乳首を強く弾くと、短く息を吐くように呻いた。
「俺の夢、叶うか終わるか。赤城拓哉、お前次第だ」

《俺》
内科医の事務所で仮眠をとり、白石真依が目覚めるのを待った。
手術は上手くいったはず。
それでも、不安はぬぐいされない。
翌日の夕方、携帯電話が鳴る。
ナースステーションからだ。
(看護士の内藤です。白石さんが目覚めました)
「わかった、すぐに行くよ」

白石真依の病室は個人部屋の特別室だ。
ノックをして入る。
脳外の石川と看護士、そして、鈴木聡一郎の三人がいた。
聡一郎は俺の顔を見て少し驚いたようだ。
「内科医の赤城です」
「いつかの坊主だな。覚えている。さあ、見てくれ」
白石真依を見る。
頭は包帯でぐるぐるに巻かれている。
でも、優しく微笑んでいる真依は綺麗で、神々しく、優しい。
「真依さん、おはよう」
「おはようじゃないですよ。もう、夕暮れですもん」
「そうだな」
「赤城先生?」
「どうしました?」
「私、赤城先生と以前に会った事ありませんか。なんか、初めての感じがしないんです」
「えっ、俺の事、覚えてない?」
「やっぱり、お会いした事ありますよね」
「本当に覚えていないのか?」
石川が俺の肩を掴み、引き離した。
俺は石川を睨んだ。
「ここ一年ぐらいの記憶が無い」
コンビニのバイトを始めたぐらいだ。
「そんな、残酷な事」
石川由依も病室に来ていた。
「大丈夫だ。俺が思い出させてやる。この一年で有った事をきちんと話す」
白石真依の前に戻ろうとした時、鈴木聡一郎が前に立った。
「坊主、それは必要無い」
「必要無いなんて、あんたの都合だろ」
その時、白石真依が鈴木聡一郎を呼んだ。
「お父様、私、いつからピアノを弾ける?目覚めてわかった事があるの」
聡一郎が真依の方を振り返った。
「なんだい?」
「私、ビアノが大好きなの。お母様との約束を思い出したの」
俺は聡一郎を退けて真依の前に出た。
「お母さんとの約束?」
「そう、私は世界一のピアニストになると約束したの。だから、ビアノを引き続けないといけない」
「そうなんだ」
「私聞きました。赤城先生が私を助けてくれたんですよね」
「そうだよ」言葉が続かないよ。
「赤城先生には感謝してます。私を応援してね」
「もちろんだよ」
「何故なんだろうな。ホント、今日が初めてじゃない感じ」
「気のせいさ。夢を実現させなよ」
「世界一のピアニストになる事?」
「そうだよ」
「世界一にピアニストになる事はお母様との約束であって夢じゃないよ」
「じゃあ、夢は?」
「ちょっと、寄って。赤城先生にだけ教えてあげる」
「何?」
俺は真依に耳を寄せた。
真依がすぐ近くにいる。抱き締めたい衝動を必死に耐える。
「私の夢はお嫁さんになって、好きな人に料理を作ってあげるの。そして、笑顔で楽しく食事する。わぁー、恥ずかし」
照れたように笑う真依。
俺も笑顔で返す。
真依と過ごした日々を思い出した。
君は俺に笑顔で料理を出してくれて、楽しく食事したよ。
俺は忘れない。
「じゃあ、約束も夢も両方とも叶えないといけないな」
「そうだよ。私、がんばるから」
「おう、がんばれ」
「ありがとう」
俺は震える膝を押さえて病室から出た。

自然と屋上に向かっていた。
真っ赤かな夕日が沈み始めて、夜が迫っている。
一時間程経ったのだろうか。
真っ赤な夕日から街のネオンが輝く夜景となっていた。
「おい、いつまでそうしているつもりだ」
俺は声の主を振り返った
「藤堂さんかよ」
煙草の煙を吐き出す藤堂がいた。
「お前、クビ。もう、白石真依に関わるな」
「そのつもりだ」
「そして、借金もチャラだ。好きなところへ行け」
「好きなところ?そんなところ無い」
「じゃあ、俺と来るか。大儲けさせてやる」
「断る。もう、あんたとは組まない」
「そうか」
「一つ退職祝いで車と家をくれ」
「いいだろう。今、住んでるマンションとジャガーをくれてやる」
「いや、違うんだ。綺麗な海の見えるところだ。島でも良いな」
「わかった。探しといてやる」
「頼むぜ」
「帰るわ」
「ああ」
藤堂は歩きながら言った。
「あっ、それとな、さっき、若い綺麗な女医がお前の背中を見て泣いていたぞ。美人を泣かすのはよくないな」


俺は夜空を見上げた。
無免許医師はやめて、真面目に働くよ。
また、コンビニのバイトかもしれないけどさ。

そして、活躍する君を遠くから応援するよ。           

がんばれ!
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

一会のためによきことを

平蕾知初雪
ライト文芸
――8月、僕はずっと大好きだった〇〇ちゃんのお葬式に参列しました。 初恋の相手「〇〇ちゃん」が亡くなってからの約1年を書き連ねました。〇〇ちゃんにまつわる思い出と、最近知ったこと、もやもやすること、そして遺された僕・かめぱんと〇〇ちゃんが大好きだった人々のその後など。 〇〇ちゃんの死をきっかけに変わった人間関係、今〇〇ちゃんに想うこと、そして大切な人の死にどう向き合うべきか迷いまくる様子まで、恥ずかしいことも情けないことも全部書いて残しました。 ※今作はエッセイブログ風フィクションとなります。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

風月庵にきてください 開店ガラガラ編

矢野 零時
ライト文芸
正夫のお父さんはお母さんと別れてソバ屋をやりだした。お父さんの方についていった正夫は、学校も変わり、ソバ屋の商売のことまで悩むことになった。 あ~、正夫とお父さんは一体どうなるのだろうか?

昇れ! 非常階段 シュトルム・ウント・ドランク

皇海宮乃
ライト文芸
三角大学学生寮、男子寮である一刻寮と女子寮である千錦寮。 千錦寮一年、卯野志信は学生生活にも慣れ、充実した日々を送っていた。 年末を控えたある日の昼食時、寮食堂にずらりと貼りだされたのは一刻寮生の名前で……?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...