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KARTE 5:石垣洋介
落日
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《赤城拓哉》
患者は三十代の男性患者で直径五センチ程度のパイプが胸から背中に向けて貫通している。
当然、意識はない。
山川が来るまで延命をするように指示があったようだが、時間がない。
やるしかない。
パイプを抜いた瞬間に大出血する。
それで終わりになっちまう。
そうだ。
洋介の手術を思い出した。
「由依、低体温にする。二十八度になったら教えろ」
「血流遮断をするのね」
「そうだ。八分は稼げる。それで終わらせる」
「わかった」
最高速で処置する。
“ちちんぷいぷい 速くな~れ”
《石垣洋介》
手術室に山川鉄二と入った。
「彼が赤城か?」
「そうだ」
「や、山川、パイプが刺さっていない」
「パ、パイプを既に抜いている!」
山川が動揺しているのがわかった。
「山川、見ろ。その割りに出血が少ない」
「なんで?」
「低体温だ」
「な、なんだと」
よく思いついたと感心してしまう。
それになんて捌きだ。
手の動きがまるで高速動画のように動いている。
山川が立ち尽くしている。
今、応援に入っても足手まといになるだろう。
洋介自身もついていけるか自信が無い。
「あの手術もアイツだ」
山谷の倅がやった手術もアイツがやったと確信した。
発想と技術が無ければ出来ない。
敗北感だ。
挑戦なんて気も起こらない程の圧倒的な敗北感が洋介を襲っていた。
「終わったようだ」
山川がぼそりと言った。
赤城拓哉が言う。
「由依、体温を上げろ」
「了解」
血流が再開する。
問題ない。
二分後、異変が起きた。
痙攣を始めて血圧が下がる。
どこかで出血している。
「失敗したのか?」
赤城は患者の頭に方に移動して素早く髪を剃り、皮膚を切ってめくる。
頭蓋骨があらわになった。
続けて、くりぬき始めた。
骨を砕く音が鳴り響く。
ここにいる全員が氷ついている。
洋介は叫んでいた。
「お前、なにをしているんだ!」
「脳圧が上がっている。恐らく出血して脳を圧迫している」
なんで冷静にいられるんだ。
検査もせず、表情を変えずに頭蓋骨に穴をあける。
技術とかの問題じゃない。
普通、腹部の処置で問題があったと考えるだろ。
頭蓋骨の一部を蓋を外す様にとった。
赤城が洋介を見る。
「覗いて確認するか?」
洋介は穴を覗き、そこに出血している事を確認した。
「吸引する」
一瞬、脳が見えたがすぐに血が溢れ真っ赤かな池をつくる。
赤城拓哉はそこに手を入れ縫合を始めた。
出血箇所があの一瞬で見えたのか?
こんな状態で脳を傷つけずに縫合できるのか?
洋介の思考がパニック状態になる。
「吸引する」
血は溢れてこなかった。
「もう大丈夫だ」
「大丈夫だと!脳を傷つけているかもしれないだろ。そうすれば後遺症がでる」
「それも大丈夫だ。多少あるかもしれないが、リハビリで元に戻るレベルだ」
「なぜ、そう言い切れるんだ!」
「わかるんだ。山川先生、あとはお願いしてもいいですか」
「赤城、すまない。それと、今日は助かった。この患者の結果はまた連絡する」
「ここで手術した事は内緒でお願いします」
「わかった」
洋介は屋上で夕日を眺めていた。
そこに山川鉄二が現れた。
「洋介、今日は凄いもの見ちまったな」
「ああ」
「あんな凄い医師がいるなんてな」
「凄すぎて挑戦する気も起こらない」
「お前も十分に凄いぞ。今日の手術でも大絶賛だったんだろ」
「そうだ。でも、それすらも霞めてしまうものを見た」
「そう落ち込むな」
「俺、外科医をやめるよ」
「お、おい」
綺麗な夕日だった。
石垣洋介の落日。
患者は三十代の男性患者で直径五センチ程度のパイプが胸から背中に向けて貫通している。
当然、意識はない。
山川が来るまで延命をするように指示があったようだが、時間がない。
やるしかない。
パイプを抜いた瞬間に大出血する。
それで終わりになっちまう。
そうだ。
洋介の手術を思い出した。
「由依、低体温にする。二十八度になったら教えろ」
「血流遮断をするのね」
「そうだ。八分は稼げる。それで終わらせる」
「わかった」
最高速で処置する。
“ちちんぷいぷい 速くな~れ”
《石垣洋介》
手術室に山川鉄二と入った。
「彼が赤城か?」
「そうだ」
「や、山川、パイプが刺さっていない」
「パ、パイプを既に抜いている!」
山川が動揺しているのがわかった。
「山川、見ろ。その割りに出血が少ない」
「なんで?」
「低体温だ」
「な、なんだと」
よく思いついたと感心してしまう。
それになんて捌きだ。
手の動きがまるで高速動画のように動いている。
山川が立ち尽くしている。
今、応援に入っても足手まといになるだろう。
洋介自身もついていけるか自信が無い。
「あの手術もアイツだ」
山谷の倅がやった手術もアイツがやったと確信した。
発想と技術が無ければ出来ない。
敗北感だ。
挑戦なんて気も起こらない程の圧倒的な敗北感が洋介を襲っていた。
「終わったようだ」
山川がぼそりと言った。
赤城拓哉が言う。
「由依、体温を上げろ」
「了解」
血流が再開する。
問題ない。
二分後、異変が起きた。
痙攣を始めて血圧が下がる。
どこかで出血している。
「失敗したのか?」
赤城は患者の頭に方に移動して素早く髪を剃り、皮膚を切ってめくる。
頭蓋骨があらわになった。
続けて、くりぬき始めた。
骨を砕く音が鳴り響く。
ここにいる全員が氷ついている。
洋介は叫んでいた。
「お前、なにをしているんだ!」
「脳圧が上がっている。恐らく出血して脳を圧迫している」
なんで冷静にいられるんだ。
検査もせず、表情を変えずに頭蓋骨に穴をあける。
技術とかの問題じゃない。
普通、腹部の処置で問題があったと考えるだろ。
頭蓋骨の一部を蓋を外す様にとった。
赤城が洋介を見る。
「覗いて確認するか?」
洋介は穴を覗き、そこに出血している事を確認した。
「吸引する」
一瞬、脳が見えたがすぐに血が溢れ真っ赤かな池をつくる。
赤城拓哉はそこに手を入れ縫合を始めた。
出血箇所があの一瞬で見えたのか?
こんな状態で脳を傷つけずに縫合できるのか?
洋介の思考がパニック状態になる。
「吸引する」
血は溢れてこなかった。
「もう大丈夫だ」
「大丈夫だと!脳を傷つけているかもしれないだろ。そうすれば後遺症がでる」
「それも大丈夫だ。多少あるかもしれないが、リハビリで元に戻るレベルだ」
「なぜ、そう言い切れるんだ!」
「わかるんだ。山川先生、あとはお願いしてもいいですか」
「赤城、すまない。それと、今日は助かった。この患者の結果はまた連絡する」
「ここで手術した事は内緒でお願いします」
「わかった」
洋介は屋上で夕日を眺めていた。
そこに山川鉄二が現れた。
「洋介、今日は凄いもの見ちまったな」
「ああ」
「あんな凄い医師がいるなんてな」
「凄すぎて挑戦する気も起こらない」
「お前も十分に凄いぞ。今日の手術でも大絶賛だったんだろ」
「そうだ。でも、それすらも霞めてしまうものを見た」
「そう落ち込むな」
「俺、外科医をやめるよ」
「お、おい」
綺麗な夕日だった。
石垣洋介の落日。
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