真夜中の白魔術師

福澤賢二郎

文字の大きさ
上 下
39 / 49
KARTE 5:石垣洋介

救命とは

しおりを挟む
《赤城拓哉》
受入れ口で救急車を待つ。
俺以外に医師が一名と看護士三名がいた。
三十代後半ぐらいの医師だ。
「私の名前は山川鉄二だ。応援をありがとう。感謝する」
「当然です」
「そうだな。でも、ここでは当たり前の事が当たり前ではない」
「なんだか、苦労していますね」
「帝都医大は?」
「帝都医大?あまり、そういうの俺には関係ないんで」
「そうだな。救命には関係ないよな」
「そんな事より、情報を下さい」
「今から五名の患者が来る。トリアージされた赤が二名と黄色三名が来る」
「あんた以外の医師は?」
「いない。私と君の二人だ」
「なぜ?」
「医院長の命令に逆らえる奴がいないからだ」
「そうか」
柄本が丁度良いところに来た。
「ツカさん!」
「すまん。遅くなった。手術室の準備は出来ている。由依もスタンバイしてる。みんな、患者を救いたいという気持ちはあるようだが、誰かが責任取らないと動けないみたいだ」
「誰が指示したの?」
「ご令嬢さ」
「由依か」
「正解」
山川が尋ねた。
「君は?」
「帝都医大の医師で柄本と言います」
「帝都医大は凄いな」
柄本が微笑む。
「違います。医師なんですよ」

救急車が到着した。二名を乗せている。
タグは赤と黄色
赤は腹部からの出血が酷い。内臓破裂だろう。
黄色は唇の色が紫。手をかざす。
肋骨折れてが右側の肺を破っている。
「ツカさん、黄色を頼む。たぶん、気胸だ」
「どうするんだ?」
「肺に管を入れて外圧を下げて肺を膨らませるんだ。研修医でもできるさ。そして気道確保だ。一次処置で良い。あとは俺がやる」
「わかった」
柄本と看護士一名で搬送していく。
次だ。
「赤色は俺が処置します。手術室へ搬送する」
「頼む」
俺はその患者と手術室に向かった。
必ず助ける。

《石垣洋介》
モニターの向こうにいる世界の医師から大絶賛を受けた。
オンビートでの心臓再建。
満足出来る内容だった。
閲覧室を見る。
由依がいない。
マイクで閲覧室に話しかけた。
「幸太郎、由依は?」
「アイツ、救急患者を勝手に受け入れて出て行きやがった」
「なんで、お前がそこにいるんだ?」
「えっ?だって、受入れ禁止だろ」
「ここは病院だ。医療を提供する場だろ!」
「でも、親父が」
「構わん。すぐに対応しろ!副医院長の命令だ」
「わ、わかった」
洋介は第一手術室を出る。

これから手術しようと手洗いをして準備している山川鉄二を見つけた。
洋介は駆け寄る。
「山川、すまん」
「かまわんさ。お前の方は大丈夫か?」
「成功さ。それより、状況は?」
「だいぶ落ち着いた。現在、手術中の患者が一名。そこに応援へ行く」
「何名来たんだ?」
「五名だ。赤二名、黄三名だ」
「何名の医師で処置した?」
「実質は二名だ」
「お前と誰だ?」
「帝都医大の赤城という医師だ」
「内科医だろ」
「ありえん。間違いだろ。内臓破裂と気胸の患者の手術を終えて三人目の手術をしている。相当な技術があるはずだ」
「今、どこだ?」
「第三手術室だ。そこで、パイプが貫通した患者の手術をしている」
「出来るのか?」
「延命処置をお願いしている。だぶん、俺やお前でも助けられない」

二人は第三手術室に急いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様のボートの上で

shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください” (紹介文)  男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!  (あらすじ)  ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう  ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく  進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”  クラス委員長の”山口未明”  クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”  自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。    そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた ”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?” ”だとすればその目的とは一体何なのか?”  多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった

雪町フォトグラフ

涼雨 零音(すずさめ れいん)
ライト文芸
北海道上川郡東川町で暮らす高校生の深雪(みゆき)が写真甲子園の本戦出場を目指して奮闘する物語。 メンバーを集めるのに奔走し、写真の腕を磨くのに精進し、数々の問題に直面し、そのたびに沸き上がる名前のわからない感情に翻弄されながら成長していく姿を瑞々しく描いた青春小説。 ※表紙の絵は画家の勅使河原 優さん(@M4Teshigawara)に描いていただきました。

宇宙に恋する夏休み

桜井 うどん
ライト文芸
大人の生活に疲れたみさきは、街の片隅でポストカードを売る奇妙な女の子、日向に出会う。 最初は日向の無邪気さに心のざわめき、居心地の悪さを覚えていたみさきだが、日向のストレートな好意に、いつしか心を開いていく。 二人を繋ぐのは夏の空。 ライト文芸賞に応募しています。

ドクターダーリン【完結】

桃華れい
恋愛
女子高生×イケメン外科医。 高校生の伊吹彩は、自分を治療してくれた外科医の神河涼先生と付き合っている。 患者と医者の関係でしかも彩が高校生であるため、周囲には絶対に秘密だ。 イケメンで医者で完璧な涼は、当然モテている。 看護師からは手作り弁当を渡され、 巨乳の患者からはセクシーに誘惑され、 同僚の美人女医とは何やら親密な雰囲気が漂う。 そんな涼に本当に好かれているのか不安に思う彩に、ある晩、彼が言う。 「彩、      」 初作品です。 よろしくお願いします。 ムーンライトノベルズ、エブリスタでも投稿しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

凍蝶の手紙*画材屋探偵開業中!

sanpo
ライト文芸
冬の朝、突然舞い込んだ手紙は凍った蝶に見えた。僕は相棒の来海サンと謎解きの旅へ……

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】のぞみと申します。願い事、聞かせてください

私雨
ライト文芸
 ある日、中野美於(なかの みお)というOLが仕事をクビになった。  時間を持て余していて、彼女は高校の頃の友達を探しにいこうと決意した。  彼がメイド喫茶が好きだったということを思い出して、美於(みお)は秋葉原に行く。そこにたどり着くと、一つの店名が彼女の興味を引く。    「ゆめゐ喫茶に来てみませんか? うちのキチャを飲めば、あなたの願いを一つ叶えていただけます! どなたでも大歓迎です!」  そう促されて、美於(みお)はゆめゐ喫茶に行ってみる。しかし、希(のぞみ)というメイドに案内されると、突拍子もないことが起こった。    ーー希は車に轢き殺されたんだ。     その後、ゆめゐ喫茶の店長が希の死体に気づいた。泣きながら、美於(みお)にこう訴える。 「希の跡継ぎになってください」  恩返しに、美於(みお)の願いを叶えてくれるらしい……。  美於は名前を捨てて、希(のぞみ)と名乗る。  失恋した女子高生。    歌い続けたいけどチケットが売れなくなったアイドル。  そして、美於(みお)に会いたいサラリーマン。  その三人の願いが叶う物語。  それに、美於(みお)には大きな願い事があるーー

処理中です...