真夜中の白魔術師

福澤賢二郎

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KARTE 4:紀平咲希

驚嘆

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《石垣洋介》
言葉が出ない。
心臓をあんなに切り刻んで再建するなんてあり得ない。
あの医師は殺人者か、それとも神なのか。
もうすぐ、答えが出る。
内山外科部長は怒りの形相で震えていた。
「なんて手術だ。人工弁を付けて死んでしまった場合であれば、説明もつくが、心臓を切り刻んで動きませんでしたじゃ洒落にならん」
山谷壮介の顔も青くなっている。
「もし、動かない場合は帝都医大の責任ですよね」
「それは違う。指示以外の手術をしようとしたお宅の息子さんの責任だ」
「いや、あれは息子じゃない」
「はぁ?」
手術室では心臓を動かそうとしていた。
洋介は患者の心臓を映したモニターを凝視していた。
「二人とも静かにしてもらってもいいですか。さあ、どうなることやら」
三人は静かにその時を待った。


《大垣由依》
動くはずだ。
由依は赤城拓哉を見る。
「ポンプオフ」
「了解」
杉田が震えている。
「本当に動くのか?」
「大丈夫」

目覚めて!
あなたは頑張り屋の咲希ちゃんなんだから!
お父さんとお母さんが待ってるよ!
由依は願った。

ドクン、ドクン、ドクン

心臓が一定の鼓動を刻み始めた。

由依の目から涙が溢れてくる。
赤城拓哉が由依の肩に軽く触れた。
「お前のおかげだ。完璧な体調管理だった」
この人の為に仕事が出来て嬉しかった。

杉田が言う。
「最後はリーダーの僕が閉じるから」
無事に閉胸をして傷口に赤城が薬を塗ってガーゼを当てた。
「なんの薬?」
「秘密だ」
あれが傷口を目立たないようにする秘密かもしれない。
由依は閲覧室を見上げた。
兄の洋介が恐い顔で睨んでいた。
たぶん、自分では出来ない事をやった医師に対しての嫉妬だと思う。

《藤堂直文》
藤堂は会議室にいた。
目の前には千葉と山谷がいる。
「おい、手術は成功した」
「ウソー」
千葉がはしゃいで椅子から立ち上がる。
「静かにしろ!」
「は、はい」
「いいか、今回の執刀医は山谷で、麻酔医は千葉だ。最高難易度の手術を若手二人が見事に成功させた。良いな」
「は、はい」
「もし、しゃべれば、お前達は殺される」
「しゅべりません」
「もう良い、行け!」
二人は慌てて出て行った。
さあ、あの人のところへ挨拶に行こうか。
藤堂も立ち上がり、会議室を出た。

《赤城拓哉》
俺は内科の事務室に戻った。
時間は十九時だ。
今日は当直だからこのまま、ここに泊まろう。
誰もいないと思ったが、柄本がいた。
「お前、どこにいたんだよ」
「咲希ちゃんの手術に立ち会っていたんだけど」
「ふ~ん、そうか。お先な」
柄本は意味ありげな質問をして帰宅した。

こらからは少し気をつけなくてはいけない。
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