真夜中の白魔術師

福澤賢二郎

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KARTE 4:紀平咲希

咲希ちゃん、まだ。

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《赤城拓哉》
紀平咲希の診察の為、一般病棟の病室に向かった。
咲希の病棟は四人部屋でみんなのアイドルだ。
「おはよう。咲希ちゃん」
「あっ、赤城先生だ。おはよう」
「診察の時間だよ」
「は~い」
側で心配そうに母親が付き添っている。
聴診器で心臓の鼓動を確認する。
だいぶ、乱れている。
「調子はどう?」
「少し苦しい」
「そうか。了解。あんまり、無理しちゃ駄目だよ」
「うん、ありがと」
俺は病室を出ると、母親が追いかけて呼び止めた。
「あの、咲希はあまり良く無いでしょうか」
「そうですね。良いとはいえないです」
「手術は何時になります?山谷先生は?」
「山谷になるべく早く手術するように言います」
「お願いします。本当にあの子、苦しいんです。でも、無理していつも笑うんです。わ、私はどうすれば良いでしょうか」
俺は会釈してその場を去った。

アイツは何をしてるんだ!
体力が残っているうちに手術をしないと助からない。
怒りで腸が煮えくり返るようだ。

俺は外科の事務室に足早に向かった。
入口で山谷を呼びだす。
「内科の先生がどうしました?」
「あの紀平咲希ちゃんの手術ですが、日程は何時になりました?」
「まだ、検討中です」
「早くしないと咲希ちゃんの体力がもちませんよ」
「そ、そんな事はわかっているんだよ!」
「じゃあ、早く決めろ」
「な、なんだと!内科ふぜいが生意気なんだ」
「咲希ちゃんが死んだら、全部、お前のせいだ」
山谷が俺の襟元を掴み上げる。
その時、織田が側までゆっくりと歩いてきた。
「山谷、やめろ。さっさっと、手術の日程を決めてしまえば内科なんかに文句はいわれないんだ。お前のせいで外科の評判を落とす」
「くっ、織田さん、簡単に言うけど、この手術は相当なリスクがありますよ」
「じゃあ、やらないのか」
織田はそう言って事務所を出ていった。
「山谷先生は来月から実家の総合病院へ戻るんですよね」
「そうだけど。それが」
「父親に相談してみてはどうですか」
「な、なんで」
「この帝都医大では味方が居なそうだったので」
「余計なお世話だ!」
「そうですよね。じゃあ、人殺しになる前にお願いしますね」
俺も織田に続くように事務室を出た。

藤堂さんよ、山谷のオヤジとしっかり話しろよ。
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