真夜中の白魔術師

福澤賢二郎

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KARTE 3:松山大輔

その時に

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《唐沢雅明》
唐沢は出勤して外科事務所で杉田を探した。
「おい、杉田、松山さんの状態を見に行くぞ」
「かまいませんが」
十階の松山の部屋に入る。
だが、そこには誰もいない。
「杉田、松山さんは?」
「う~ん、そう言えば今朝早く退院されました。今頃は空港ではないでしょうか」
「なんだと。昨日、手術をした分だろ。出来るわけない。お前は許したのか?」
「まあ、そうですね。問題なさそうだったんで」
「私の許可をなんでとらないんだ。私の患者だ」
「えっ、そうなんですか?僕はあなたは諦めたと聞きましたよ」
「な、なんだと」
「それに、あなたは僕にお金くれないし、言う事きく必要あります?」
「もう、行け」
「は~い」
唐沢雅明は権威ある整形外科医だ。
こんなに馬鹿にされたのは始めてだ。

《赤城拓哉》
松山大輔が退院して七日が過ぎていた。
食堂で柄本孝男と昼ご飯を食べていると、石垣由依が隣に座る。
「ここ、良い?」
「どうぞ」
「今日のニュースを聞いた?」
「なんの?」
「あっ、今からやるよ」
テレビから昼のワイドショーが流れてきた。

アナウンサーは少し興奮済みだ。
「松山大輔投手が復帰しました。信じられないです」
松山大輔の投球シーンが映し出される。
英語が飛び交っている。
いきなり、百六十キロの豪速球を投げ込む。
九人連続三振を達成し、且つ、最後の速球は百七十ニキロの豪速球でメジャー記録も更新した。
ケガする前は百五十キロぐらいだったのが、いきなり百七十キロだ。
大騒ぎするのも無理は無い。
松山大輔のインタビューに切り替わる。
「松山投手、素晴らしい投球でした」
「ありがとうございます」
「靭帯断裂との事で、今季絶望、いや、復帰出来ずに引退とも言われていましたが、見事な復帰でした。日本で治療したと聞きましたが」
「帝都医大の唐沢教授のおかげです。球団専属の医師は信じられないと言っていましたから」
「ありがとうございました。次の登板も期待しています」
上手く締めくくり、別のニュースに切り替わった。

石垣由依は俺の方を見る。
「凄いね」
「さすが、松山大輔だな」
「違うよ、君だよ」
「な、なんだよ、気持ち悪いな」

柄本孝男は裏で杉田と揉めている唐沢雅明を見ていた。
「唐沢教授は今日から有名人になりそうだ」
俺は唐沢雅明に少し同情した。
これから多忙と苦悩の日々を過ごすだろう。
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