真夜中の白魔術師

福澤賢二郎

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KARTE 3:松山大輔

光栄です

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《赤城拓哉》
定時を迎え、自分のマンションに帰り、夕食とシャワーを浴びてリラックスしていた。
リビングからは横浜の夜景が一望出来る。
俺はソファーに深く座り、遠くにキラキラと輝く街を見ながら考えていた。
太平洋の向こうには姉が眠り続けている。
姉は母と共に拐われて数年前にニューヨークで保護された。
彼女は脳死していると言われているが、俺が治そうと思う。
そして、真相と母の行方を明らかにする。
それまで、高額な費用を払い続ける覚悟だ。

時間だ。
帝都医大の魔境である十階に行こう。
そこには金が落ちている。

《藤堂直文》
藤堂は帝都医大の109号室に高級なワインと食事を持ち込み、
ここの患者と再会を祝っていた。
患者の名前は松山大輔。
今はメジャーリーグのマリナーズに所属している現役メジャーリーガーだ。
彼は腕に致命的な怪我をしてしまい、復帰は不可能と言われている。
松山大輔が呟く。
「もうダメかもな」
「それで良いのか?」
「本心では最後のワールドシリーズでチームの力になりたい」
「そうか」
「有名なドクターに見てもらったんだ。俺の靭帯は完全に断裂しており、復活は無いと断言された」
「帝都医大の専門医も同じ見解だったんだな」
「そうだ。だから、現役引退を決意する為にお前を呼んだ」
「そんな事だと思ったよ。もう一人、俺の信頼する医者に見てもらわないか。今日、呼んでいるんだ」
「別に構わないが」
そして、ドアがノックされた。
「ちょうど来たところだ」

《赤城拓哉》
部屋には藤堂と見た事のある男がワインを飲んでいた。
「藤堂、若いな」
「ああ、でも、腕は確かだ」
「あんた、もしかしてマリナーズの松山じゃない?」
藤堂が立ち上がる。
「そうだ。見てもらいたいのはメジャーリーガーの松山投手だ」
「いくら?」
「診断で三十だ」
「オーケー」
俺は松山大輔に近づく。
「君の名前は?」
「必要ない。それより、カルテとか無い?」
松山はテーブルに置かれていた封筒を手渡した。
その封筒にはカルテとエックス線のフィルムとMRI画像があった。
フィルムを光に照らす。
靭帯が極端に細くなっている箇所が幾つかある。
繋ぎ合わせるのは至難の技だ。
もし、仮に繋げても直ぐに断裂するだろう。
でも、俺の力ならなんとかなると思う。
「もし、治して以前の様に投げれた場合は三千万もらう」
「失敗した場合は?」
「何にもない。そもそも、もう投げれないのだからな」
「そうだな。でも、それじゃ面白くない。手術費用はそっちもちだ」
「良いだろう。藤堂さん、準備をしてくれ」
「わかった」
藤堂はニヤリと笑う。
「なんだよ!」
「おい、紀平咲希はどうするんだ?」
「救う」
「どうやって?」
「俺が治す」
「誰がその段取りをするんだ?」
「藤堂さん、あんたに決まっている」
「いくらだ?」
「ちっ、金を取るのかよ」
「商売だからな」
「山谷のオヤジに貰え」
「そうしよう」

藤堂は俺の方にワイングラスを掲げた。
なんだか、藤堂の一人勝ちじゃないか。
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