真夜中の白魔術師

福澤賢二郎

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KARTE 2:上原さくら

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《赤城拓哉》
藤堂に呼び出しがあり、帝都医大の屋上に呼び出された。
屋上では藤堂が煙草を吹かしながら夜空を見上げていた。
こちらに気づき振り向く。
「上原さくらの手術はありがとな。儲けさせてもらった」
「こっちも儲けさせてもらったから礼はいい」
「でもよ、上原さくらとの交渉はお前の仕事じゃないよな」
「そうだな」
「二回目は無い」
「覚えておくよ。でもさ、俺がいなければ報酬は手に入らなかった。覚えておけよ」
「生意気な奴だ」
「藤堂さんよ、仲良くやろう」
「お前次第さ」
藤堂は煙草を捨て、屋上から降りて行った。
俺は煙草を拾い、灰皿に入れた。
「藤堂さんよ、俺は負けないぜ」

《石垣由依》
石垣由依は帰ろうと思い、帝都医大を出た。
出口のところで外科のエースである織田裕太が待っていた。
「よっ!」
「こんなところで、どうしたんですか?」
「飲みに行かないか?」
「交際については断ったはずですが」
「今日は違うんだ」
「じゃあ、何ですか?」
「上原さくらの事だ」
「あ、ああ、手術の事ですか」
「そうだ。絶対に助からない患者だった。それが、なぜ?」

あの時の手術を思い出していた。
赤城拓哉の手は速くスムーズに動き、裂いては繋ぎ合わせる。
どこであれほどの技術を修得したのだろう。
目の前にいる織田よりも優れているのではないかと思った。
赤城拓哉が病院から出てくるのが見えた。
目と目が合った時に胸がなんだか締め付けられる。
そのまま、無言で横を通り過ぎて行く。
何故、声をかけて来ないんだ少しムカついた。
背中見送る。
「織田さん、私にもわかりません。じゃあ、帰ります」
石垣由依は赤城拓哉を追いかけるように歩きだした。

赤城拓哉が後ろを歩く石垣に気づき振り向く。
突然でビックリする。
「帰りはこっちの方向か?」
「そう。横浜駅から一駅のところ。赤城は?」
「俺はあそこ」
かなり高い建物のマンションを指す。
かなり高額な家賃だと容易に想像できた。
「金持ちだな」
「違う。知り合いが借りてくれている」
「そうなんだ」
「病院から近くて助かっている」
「良いな。私なんか終電に乗れないと病院に泊ちゃう」
「そうか。部屋とベッドは余っているからそんな時は泊まりに来るか?」
「今、私の事を誘った?」
「勘違いするな。藤堂さんの手術に参加しているから大変かなと思っただけだ」
「心配ご無用。ねぇ、内科医の赤城とは随分と態度が違うけど、どっちが本当の赤城なん?」
「今が本当の俺だ」
「そう」
「俺、こっちだから。じゃあな」
「また、明日」
赤城は左側の路地を行き、別れた。
石垣由依の心は弾んだ気持ちと少し寂しい気持ちが入り混じっていた。
「帰ろう」
冷たい風が通って行く。
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