真夜中の白魔術師

福澤賢二郎

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KARTE 2:上原さくら

深夜の手術

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《赤城拓哉》
上原さくらの胸を十二センチ程度開く。
「まずは肺を切開して癌を取り除くぞ」
メスを入れて肺を裂く。
大部分が赤黒い腫瘍で犯されている。
悪性なのは間違いない。
生かせる箇所が無い。
一気に切除する。
四分の一ぐらいを残して肺を切り、取りだした。
そして、小さな声で呪文を唱えて良質の細胞を分裂して増やしていく。
杉田が除き込む。
「どれどれ、こ、こんなに切除して大丈夫てすか?」
「問題ない」
杉田や石垣からは開口が十二センチ程度だから俺の手は見えない。
感触から上手く細胞は増殖している。
最後に細胞と細胞を融合させて繋ぎ合わせて肺の再建は終了だ。
肺が膨らみ、そして、縮む。
問題無い。
「次は乳癌の切除を行う。メス!」
乳房の下からメスを入れてひっくり返すようにめくる。
機械出しの看護士が少し驚いたように目を見開いた。
「ドクターZ、全摘しないのですか」
「裏から癌細胞を摘出して再建をする」
俺は抉るように癌細胞を取りきる。
どす黒い肉の塊を見る。
これが原因だ。
乳房を縫うふりをして細胞を復元していく。
縫い終わる頃にはふっくらとしていた。
左右の遜色はない。
我ながら見事だ。
閉じていない胸部の穴から手を突っ込み、リンパ節に触れる。
目を閉じる。
じいさんから教わった呪文を唱える。

ちちんぷいぷい 悪いところはどーこだ?

俺の意識が上原さくらの血管から体へ流れていく。
黒いゲジゲジを三個見つけた。
燃えろ!
するとゲジゲジは黒い燃えカスとなって血管内に散っていった。

終わった。

傷口を縫い合わせてガーゼで覆う。
その時に密かにキズ口に薬を塗りながら傷も修復して消しておいた。
これで温泉に気兼ねなく入れるだろう。
石垣由依は俺の方を見ている。
「君、何をしたの?」
「天才麻酔医、素晴らしい体調管理だった」
「この手術は何?」
俺は第三手術室を出た。

屋上でコカ・コーラを飲む。
東の方が明るくなり始めている。
夜明けか。

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