真夜中の白魔術師

福澤賢二郎

文字の大きさ
上 下
7 / 49
KARTE 2:上原さくら

上原さくら

しおりを挟む
《赤城拓哉》
内科に戻り、柄本孝男に外科の意向を伝えた。
「ありがとな。内科で治療するように外科から指示かあった事を医局長に伝えておくよ」
「織田の奴は何様なんだ?柄本さんは腹が立たないのか?」
「別に。アイツは俺達とは違う世界に住んでいる。無視しとけば良い。それより、外来に行け」
「織田の相手よりマシか」
外来に向かった。
これも新人の俺がやっている。
でも、文句は言えない。
憧れていた医者をやらせてもらっているから、今は満足だ。

午後の回診が終わり、藤堂から電話が入った。
「藤堂さん、勤務中だけど」
「おう、来週の水曜日、お前、夜勤な」
「なんで?」
「手術をしてもらう」
「誰の?」
「上原さくらさんだ」
「はぁ?」
「外科が拒んだ患者だ」
「金か?」
「そうだ」
「容態は?」
「自分で調べろ。今は内科で入院している」
「手術が出来ない状態だった場合は?」
「呼吸を出来るようにして、一旦、退院できるようにしてくれるだけで良いという事だ。そのぐらい出来るだろ」
「藤堂さん、いくらだ?」
「ちっ、サービスでやれよ」
「断る」
「三百だ」
「わかった」
藤堂は俺を使って金儲けをするわけだ。
でも、対等な関係にする。

翌朝、俺は上原さくらを調べた。
乳癌のステージフォーだ。
肺への転移も見られる。
完全な末期癌であり、外科手術は難しいだろう。
彼女は十階の個人部屋にいる。
ここは金持ちしか入れない。
扉をノックして入室した。
歳は四十三才。アパレル系の会社を経営しているらしい。
見た目はショートカットでキュートな感じだ。
「今日から担当する赤城です。宜しくお願いします」
「あなたは内科?」
「そうです」
「外科的治療は?」
「外科は難しいと判断しました」
「そう」
「ある人から今の苦痛を取り除き、一旦、退院出来るようにしろと言われました」
「最低限ね」
「もし、癌を完治させた場合の報酬はいくらになりますか?」
「あなた達、欲深いわね」
「俺も色々と訳ありで」
「今、契約した三倍の六千万を払うわ」
「六千万?」
「不足?」
「いえ、じゃあ、藤堂さんに二千万、俺に四千万でお願いします」
突然、噴き出すように彼女は笑いだした。
「出来ない事を真剣に考えるなんて馬鹿ね」
俺は診察を始めた。
聴診器を白い肌に当てる。
「私、二十歳の時に子供を捨てた」
「へぇ~、そうなんですか」
「あの子、凄い努力家なの。今、弁護士を目指して頑張ってる」
「会われているんですか?」
「ううん、遠くから見てるだけで私が親という事も知らない」
「名乗り出ないんですか?」
「今さら」
「そうですか」
「でも、もう一度だけ、あの子を一目見たい」
「勝手ですね」
「そう、勝手なの」
「子供からしたら迷惑ですよ」
「そうよね」
「でも、死ぬのだから、少しのわがままは許されるのでは」
「えっ」
「あなた、もう末期で死にます」
「君、凄くストレートね」
「娘さんから恨まれて死ぬ。あなたのした事の責任だ。幸せに死ぬなんてありえない」
「そうよね」
「娘さんは不幸でしたか」
「たぶん。そうね」
「あなたも不幸で死ねば良い」
「あなた、医者?」
「医者の前に人です。手紙とか届けたいのであれば届けます」
「えっ」
「謝罪して恨まれて、自分のした事を悔やんで死ぬ。そんな終わりも良いのでは」
「そうね。考えてみる。あなたが担当になって良かったわ」
「そうですか。仮に痛みを取る手術をしても退院は難しいです」
「ありがとう」

翌日、俺は娘宛ての手紙を託された。
どうやって渡そう。
少し後悔していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真夏の温泉物語

矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

好きすぎて、壊れるまで抱きたい。

すずなり。
恋愛
ある日、俺の前に現れた女の子。 「はぁ・・はぁ・・・」 「ちょっと待ってろよ?」 息苦しそうにしてるから診ようと思い、聴診器を取りに行った。戻ってくるとその女の子は姿を消していた。 「どこいった?」 また別の日、その女の子を見かけたのに、声をかける前にその子は姿を消す。 「幽霊だったりして・・・。」 そんな不安が頭をよぎったけど、その女の子は同期の彼女だったことが判明。可愛くて眩しく笑う女の子に惹かれていく自分。無駄なことは諦めて他の女を抱くけれども、イくことができない。 だめだと思っていても・・・想いは加速していく。 俺は彼女を好きになってもいいんだろうか・・・。 ※お話の世界は全て想像の世界です。現実世界とは何の関係もありません。 ※いつもは1日1~3ページ公開なのですが、このお話は週一公開にしようと思います。 ※お気に入りに登録してもらえたら嬉しいです。すずなり。 いつも読んでくださってありがとうございます。体調がすぐれない為、一旦お休みさせていただきます。

「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨

悠里
ライト文芸
高校生になる前の春休み。自分の16歳の誕生日に、幼馴染の悠斗に告白しようと決めていた心春。 会う約束の前に、悠斗が事故で亡くなって、叶わなかった告白。 (霊など、ファンタジー要素を含みます) 安達 心春 悠斗の事が出会った時から好き 相沢 悠斗 心春の幼馴染 上宮 伊織 神社の息子  テーマは、「切ない別れ」からの「未来」です。 最後までお読み頂けたら、嬉しいです(*'ω'*) 

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

僕の主治医さん

鏡野ゆう
ライト文芸
研修医の北川雛子先生が担当することになったのは、救急車で運び込まれた南山裕章さんという若き外務官僚さんでした。研修医さんと救急車で運ばれてきた患者さんとの恋の小話とちょっと不思議なあひるちゃんのお話。 【本編】+【アヒル事件簿】【事件です!】 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中※

処理中です...