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KARTE 2:上原さくら
上原さくら
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《赤城拓哉》
内科に戻り、柄本孝男に外科の意向を伝えた。
「ありがとな。内科で治療するように外科から指示かあった事を医局長に伝えておくよ」
「織田の奴は何様なんだ?柄本さんは腹が立たないのか?」
「別に。アイツは俺達とは違う世界に住んでいる。無視しとけば良い。それより、外来に行け」
「織田の相手よりマシか」
外来に向かった。
これも新人の俺がやっている。
でも、文句は言えない。
憧れていた医者をやらせてもらっているから、今は満足だ。
午後の回診が終わり、藤堂から電話が入った。
「藤堂さん、勤務中だけど」
「おう、来週の水曜日、お前、夜勤な」
「なんで?」
「手術をしてもらう」
「誰の?」
「上原さくらさんだ」
「はぁ?」
「外科が拒んだ患者だ」
「金か?」
「そうだ」
「容態は?」
「自分で調べろ。今は内科で入院している」
「手術が出来ない状態だった場合は?」
「呼吸を出来るようにして、一旦、退院できるようにしてくれるだけで良いという事だ。そのぐらい出来るだろ」
「藤堂さん、いくらだ?」
「ちっ、サービスでやれよ」
「断る」
「三百だ」
「わかった」
藤堂は俺を使って金儲けをするわけだ。
でも、対等な関係にする。
翌朝、俺は上原さくらを調べた。
乳癌のステージフォーだ。
肺への転移も見られる。
完全な末期癌であり、外科手術は難しいだろう。
彼女は十階の個人部屋にいる。
ここは金持ちしか入れない。
扉をノックして入室した。
歳は四十三才。アパレル系の会社を経営しているらしい。
見た目はショートカットでキュートな感じだ。
「今日から担当する赤城です。宜しくお願いします」
「あなたは内科?」
「そうです」
「外科的治療は?」
「外科は難しいと判断しました」
「そう」
「ある人から今の苦痛を取り除き、一旦、退院出来るようにしろと言われました」
「最低限ね」
「もし、癌を完治させた場合の報酬はいくらになりますか?」
「あなた達、欲深いわね」
「俺も色々と訳ありで」
「今、契約した三倍の六千万を払うわ」
「六千万?」
「不足?」
「いえ、じゃあ、藤堂さんに二千万、俺に四千万でお願いします」
突然、噴き出すように彼女は笑いだした。
「出来ない事を真剣に考えるなんて馬鹿ね」
俺は診察を始めた。
聴診器を白い肌に当てる。
「私、二十歳の時に子供を捨てた」
「へぇ~、そうなんですか」
「あの子、凄い努力家なの。今、弁護士を目指して頑張ってる」
「会われているんですか?」
「ううん、遠くから見てるだけで私が親という事も知らない」
「名乗り出ないんですか?」
「今さら」
「そうですか」
「でも、もう一度だけ、あの子を一目見たい」
「勝手ですね」
「そう、勝手なの」
「子供からしたら迷惑ですよ」
「そうよね」
「でも、死ぬのだから、少しのわがままは許されるのでは」
「えっ」
「あなた、もう末期で死にます」
「君、凄くストレートね」
「娘さんから恨まれて死ぬ。あなたのした事の責任だ。幸せに死ぬなんてありえない」
「そうよね」
「娘さんは不幸でしたか」
「たぶん。そうね」
「あなたも不幸で死ねば良い」
「あなた、医者?」
「医者の前に人です。手紙とか届けたいのであれば届けます」
「えっ」
「謝罪して恨まれて、自分のした事を悔やんで死ぬ。そんな終わりも良いのでは」
「そうね。考えてみる。あなたが担当になって良かったわ」
「そうですか。仮に痛みを取る手術をしても退院は難しいです」
「ありがとう」
翌日、俺は娘宛ての手紙を託された。
どうやって渡そう。
少し後悔していた。
内科に戻り、柄本孝男に外科の意向を伝えた。
「ありがとな。内科で治療するように外科から指示かあった事を医局長に伝えておくよ」
「織田の奴は何様なんだ?柄本さんは腹が立たないのか?」
「別に。アイツは俺達とは違う世界に住んでいる。無視しとけば良い。それより、外来に行け」
「織田の相手よりマシか」
外来に向かった。
これも新人の俺がやっている。
でも、文句は言えない。
憧れていた医者をやらせてもらっているから、今は満足だ。
午後の回診が終わり、藤堂から電話が入った。
「藤堂さん、勤務中だけど」
「おう、来週の水曜日、お前、夜勤な」
「なんで?」
「手術をしてもらう」
「誰の?」
「上原さくらさんだ」
「はぁ?」
「外科が拒んだ患者だ」
「金か?」
「そうだ」
「容態は?」
「自分で調べろ。今は内科で入院している」
「手術が出来ない状態だった場合は?」
「呼吸を出来るようにして、一旦、退院できるようにしてくれるだけで良いという事だ。そのぐらい出来るだろ」
「藤堂さん、いくらだ?」
「ちっ、サービスでやれよ」
「断る」
「三百だ」
「わかった」
藤堂は俺を使って金儲けをするわけだ。
でも、対等な関係にする。
翌朝、俺は上原さくらを調べた。
乳癌のステージフォーだ。
肺への転移も見られる。
完全な末期癌であり、外科手術は難しいだろう。
彼女は十階の個人部屋にいる。
ここは金持ちしか入れない。
扉をノックして入室した。
歳は四十三才。アパレル系の会社を経営しているらしい。
見た目はショートカットでキュートな感じだ。
「今日から担当する赤城です。宜しくお願いします」
「あなたは内科?」
「そうです」
「外科的治療は?」
「外科は難しいと判断しました」
「そう」
「ある人から今の苦痛を取り除き、一旦、退院出来るようにしろと言われました」
「最低限ね」
「もし、癌を完治させた場合の報酬はいくらになりますか?」
「あなた達、欲深いわね」
「俺も色々と訳ありで」
「今、契約した三倍の六千万を払うわ」
「六千万?」
「不足?」
「いえ、じゃあ、藤堂さんに二千万、俺に四千万でお願いします」
突然、噴き出すように彼女は笑いだした。
「出来ない事を真剣に考えるなんて馬鹿ね」
俺は診察を始めた。
聴診器を白い肌に当てる。
「私、二十歳の時に子供を捨てた」
「へぇ~、そうなんですか」
「あの子、凄い努力家なの。今、弁護士を目指して頑張ってる」
「会われているんですか?」
「ううん、遠くから見てるだけで私が親という事も知らない」
「名乗り出ないんですか?」
「今さら」
「そうですか」
「でも、もう一度だけ、あの子を一目見たい」
「勝手ですね」
「そう、勝手なの」
「子供からしたら迷惑ですよ」
「そうよね」
「でも、死ぬのだから、少しのわがままは許されるのでは」
「えっ」
「あなた、もう末期で死にます」
「君、凄くストレートね」
「娘さんから恨まれて死ぬ。あなたのした事の責任だ。幸せに死ぬなんてありえない」
「そうよね」
「娘さんは不幸でしたか」
「たぶん。そうね」
「あなたも不幸で死ねば良い」
「あなた、医者?」
「医者の前に人です。手紙とか届けたいのであれば届けます」
「えっ」
「謝罪して恨まれて、自分のした事を悔やんで死ぬ。そんな終わりも良いのでは」
「そうね。考えてみる。あなたが担当になって良かったわ」
「そうですか。仮に痛みを取る手術をしても退院は難しいです」
「ありがとう」
翌日、俺は娘宛ての手紙を託された。
どうやって渡そう。
少し後悔していた。
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