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四:心の奥底の優しさ

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「おはよう、悠音ちゃん。今日うちでケーキ食べてかない?」
「え……と……」
「あっ、新しいキーホルダー作らせて!悠音ちゃんよう!」
「いや、あの…」
「諦めてくれ、完全に気に入っちまったらしい」
「え? え?」
 私はその日から、積極的に悠音ちゃんに話しかけた。最初は無視してきたけれど、最近では会釈をして、少しお話に付き合ってくれるように。
 悠音ちゃんは今年で受験生だが、既に運動で推薦校が決まっているらしく、受験勉強も問題ないらしい。
「…分かりました」
 最近私の中で、悠音ちゃんをコーディネートしたり、悠音ちゃんっぽいお人形を作るのがブーム。旦那さんも一緒になってやってくれる。
「悠音~」
「悠音ちゃんー!」
 前まではいなかった友達が、前の事件で悠音ちゃんが優しいことを知り、出来たらしい。
 他にも、「DQN」というあだ名はいつしか聞かなくなり、彼女は、怖がられてはいるものの、今までのような腫れ物扱いはなくなった(と聞いた)。

 私の壊れたお人形も、悠音ちゃんや旦那さんが必死に町内や町外の街を駆け回って布を見つけてくれ、私はいくつものネットショップで同じ色の糸を見つけた。
 おばあちゃんのお人形を継ぎ接ぎして、少し不格好に治ったお人形。
「じゃあ…楽しみにしてます」
「! うんっ!」

 私のお人形は、壊れても、優しい人を呼んでくれた。
 私のお人形は、壊れても、新たな出会いをくれた。

 私のお人形は、壊れても、壊れないでいてくれた。



 あの女の子は、本当は心の底が優しくて、それを表に出せないだけだと、おしえてくれた。








 ちょっとした後日談をしよう。

 あの後、山崎さん夫婦は離婚。
 元々、私のお人形を壊す前から、色々と問題を起こしていたらしく、その度に泰晴さんは、お金渡し、謝罪、面会、話し合い…たくさんのことに疲れていたらしい。
 そして、今回のことが最後の引き金となり、離婚したらしい。
 しかも梓那さん、家事もろくにやらなかったし、浪費癖も激しく、その上子供に虐待まがいなこともしていたらしい。
 結果的に、山崎夫婦は離婚、親権は泰晴さんに、梓那さんには多額の慰謝料と、娘さんを病院に通わさせるための医療費、これからの生活に対する援助金、そして、私たち夫婦への賠償金がかせられた。
 一人で払える訳もなく、浪費癖のあった梓那には貯金もなかったらしい。そのため親を呼び、親の人に一括、とは行かないものの払ってもらい、後に親に梓那さんが返金する、ということになったらしい。
 その後、娘さんと共にうちに来てご飯を食べて行った泰晴さんは「しんけんとれてよかった…もしとれなかったら、おれしんでた…」と酔いつぶれて言っていた。
 本当に娘さんを愛してるんだなあ、と実感しました。

 こうして、私の修羅場物語は終わりを迎えました。 
 めでたしめでたし
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