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ロク・殺意
しおりを挟む紅き悪魔、そう名乗った天使に、俺は笑った。
クラスメイトを迎えに来て、まさかこんなことに巻き込まれるとは思わなかった。しかし何故だろう。すごく楽しい…………!!
「なら悪魔さんよ。俺も気が変わった。帰りてぇ」
『……』
「なら互いに目標は同じ。奴らの討伐だ。その先はどうなるかはわからんが、そこまでの道筋は変わらない」
──共闘をしないか?──
そう持ちかけた俺の言葉に、まゆがぴくりと動いていた。
『…貴様、名はなんという』
「灰崎疾風。ただの最底辺クラスの生徒だ」
ニヤリと笑った俺の顔は、どれほどまでに醜かったのだろう。
天使は俺を一瞥すると俺に右手を向けてきた。
『…我はアザゼル。一時的に、お前に魔力の一部を開け渡そう』
大きな魔法陣から放たれる魔力は、俺を飲み込もうとしているようにも見える。が、俺の中に収まり、右手に赤い紋様が現れた。
『安心しろ。あとで我が魔力を回収すれば、その印は無くなる』
「赤い悪魔紋…まさか俺につくとはなあ…だが、助かるぜ…」
俺らのすぐ目の前で、雷鳴が轟いた。
木々は焼け、瘴気は散乱し、焦げ臭い匂いが森に充満した。
『不意をつけ』
俺はその言葉から1度後退し、まだ焼けていない森の中に潜んだ。何故か体内の魔力が抜けていく感覚は消えていた。
「…尊様」
『……』
「こんな所へお逃げになられていたのですね。お父様もお母様もお探しになっていていますよ」
『……』
場をちらりと伺えば、天使は聡明な瞳で前を見つめていた。
「さあ帰りましょう」
『……』
「み、こと…さま…?」
何も言わぬ天使に、相手の男は手を伸ばす。
─パシンッ─
乾いた音が響いた。
『…我に触れるでないわ。愚かな人間風情が』
冷たい声でそう言った。
「尊様? ご冗談がすぎる御様子。まるで、悪魔に魅入られたような声色でございます。何をなさっているかわかりませんが、直ぐに我々と帰宅を願い申し上げます」
『………殺すのか』
すると、天使の力が、ふっと抜けたように見えた。
「私をまた………殺すんでしょう……? あの檻の中に閉じこめて…冷たい箱庭の中で…今度は飼い殺しではなく、精神的にも物理的にも……」
幼い少女の声。消えて無くなってしまいそうな、か細い声。
「私は嫌なの。あの空間に帰るのが。私を、道具としてしか認知してないあの空間に行くのが!」
少女のまま作り出された魔方陣は、先程の天使のよりも少し小さい、それでも強大なものだった。
「自壊せよ 全てを闇として飲み込め『常闇空間』」
巨大な闇の塊が現れ、全てのものを飲み込もうとする。
涙を流し、震える声で詠唱を唱える少女。胸が痛かった。
『…頑張ったな、尊…』
ボソリと、そう聞こえた。
『暗黒の騎士よ 全てのものを切り裂け『転輪剣舞闇』』
俺はそっと愛刀をしまい、自分の出る幕など無いのではないかと思う。
だが、その時に感じた。
にびた光を帯びる、微かなオーラを。
「……光魔術師がいるのか…」
愛刀を腰にたずさえ、我が一家に伝わる手のむきと位置で、戦闘態勢に入る。
膝を大きく曲げ、前かがみになり、地面を大きくける。俺は走り出した。
「散在する魔の粒子よ 我に力を貸したまえ 火力増幅!!」
左足で地面を蹴り、右足で捻り位置を固定。右足を軸に、決してその場から動かぬように、左足を踏みしめ刀を構える。
雷により森が燃え空が見える。その空に昇る太陽に反射し、俺の愛刀は輝いた。
火力増幅の魔方陣を一度削除。
「超硬化加速魔法!!」
俺の体と刀が水色の光を帯る。
刺客より放たれたのは光の無数の弓。
だが俺には、全て見えたように見えた。普段はありえない視覚や聴覚に、これが天使様から与えられた力なのだと感じた。
「灰崎流剣術 魔女狩り!」
古代、魔女を狩るために編み出されたと言われる剣術は、特徴があった。
一、一撃で仕留められるように全精力を剣へ注ぐこと。
二、決して体の位置を魔法陣展開終了まで動かしてはならぬこと。
三、大きな振動が襲うため、体幹と筋力のないものには扱えない。
「天使様。始めようぜ? ごみ拾いをな」
事情は深く知らずとも、先程の少女の縋るような、苦しい心の叫びを聞き、俺の中で何が切れた。
こいつらを殺してやりたい。そう思ってしまった。
『……』
少女の姿のまま、天使は俺の事を見すえていた。
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