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ゴ・堕天使

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『主の敵を、全てなぎ倒す』

 赤い目。枯れる木花。瘴気に溢れる森。
 まずい…死ぬ…
「まてまて! 何か聞いてはいけないことを聞いたのであれば謝ろう! 即刻森からも退却する! だから、瘴気を出すのを止めてくれ!」
 俺がそういえば、彼女らしき・・・・・モノは、俺にくるりと振り返る。
 こいつが、少女の言っていた天使様なのだろうか。
 顔に赤い文様が出ていた。俺は、文献でそれを見たことがあった。
「赤い悪魔印っ…! なんで…!」
「…邪魔立てをするな人間。私は、主の望む─────!!」
 突如鳴り響く雷鳴に、俺も天使もそちらを見る。
 天使は唇を噛むと、俺にむきなおる。
『貴様の相手をする前に、殺さねばならぬものができた』
「…さっきの雷か」
『貴様には関係がない。そうそうにこの場を立ち去れ』
 目だけでも、この天使の怒りが伺えた。
「…無理だ。この雷、相当の魔術使いだ。そんなヤツら斥けて逃げるなんて、俺に不可能だ。見つけるのは得意でも、隠れるのは苦手なんでな」
 俺がため息混じりに笑えば、天使は俺に対して問いかけてくる。
『お前は何しに来た』
「教室に誘いに。あとは、今度あるクラス対抗戦に出て欲しかった、って言うのもあるな。まあそれは二の次で。うちのいいんちょが全員教室に揃いたい、なんて抜かすから、迎えに来た」
『何故この森を見た時入ろうと思った』
「難攻不落なら自分の命大事さに入りなんてしねーよ。たまたまだ、たまたま。出てこれそうって自身がたまたま湧いたから入ったんだよ」
『貴様は何故逃げない』
「いったろ?隠れるのは苦手なんだ。隠れて無様に死ぬくらなら、正面切って爽やかに死にたいね」
 俺は笑うと、自分に魔法をかけた。
 愛刀を抜き取り、その愛刀に額をくっつけるという、兄貴の教えてくれた、刀との会話の出来るという、秘密の魔法。勿論そんな魔法は存在しないし、無機物の感情を読み取るなんて不可能な芸当、存在するほうがおかしい。
『…………来るぞ』
 天使様は俺にそう告げた。
 雷鳴は近づき、俺らのすぐ側に来ている。
「散在する魔の粒子よ。我に力を貸した前………火力増幅モア・ブースト
 愛する刀に願いを込め、俺は足に火力増幅をかける。
「で、これ、誰が襲ってきてんの?」
『…主の敵…尊の実の親と、その手下共だ』
「………は………?」
 俺は自分の耳を疑った。肉親が…何故……?
『詳しい説明は主に求めろ』
 そういう天使。少女の身なりのまま、片手を前へかざす。
『光を許さん地獄の果て 業火に燃やされ灰となれ 紅蓮地獄ぐれんじごく
 巨大な黒い炎が、巨大な魔法陣から解き放たれる。
 見たことがない。こんな強大な魔力と、魔法陣……
『光を穿て 殺戮の槍よ 無限闇槍ダーク・ランス
 信じられない。
「に……二重………詠唱………?」
 本来魔法は、ひとつの魔方陣を閉じてから、もうひとつの魔方陣を展開する。出なければ、魔力は枯渇し、暴走する危険があるから。
 だが今俺のそばで起きているのは、片手で豪華をだし、片手で殺戮の槍を生み出す二重詠唱。
 およそ八○○年前、伝説の魔法師と歌われた『赤の魔法師』。火の魔法使いだったが、二種類の魔法を同時に発動し、戦況を一変させたと言われている、伝説の魔法師。
 『赤の魔法師』以来、誰も叶わなかった二重詠唱。
 それが、今、俺のそばで起こっている…
「あ、あんた…ほんとうに、なにもの…」
 天使は俺を見ると、黒い短い髪を揺らし、低い声でこう告げた。

『我は、主の守護をするもの。主を守る、血に飢えた紅き悪魔』
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