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後輩の勇ましさ

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「冗談キツイよ?」
「冗談……そうなりますよね……いや、今のは忘れてください。そして用もすみました。お時間を取らせました」
 そういい大和君は踵を返す。
 ──そうなりますよね?
「本当に、そう思ってくれてるの…?どこから? どういう案件で? 私、あなたの先輩でしかないんだよ?」
 本の短い関係なのに、彼は好きだと言ってくれたのだろうか?
 それとも、罰ゲーム? 恋人に捨てられた哀れみ?
「………本当は、伝える気なんからなかったんですよ…」
 彼はそっと、涙を目に貯めて、そう言った。


「先輩が幸せそうに、彼氏が出来た、って言うから、言葉に出せないけれど、祝おうと思って。口には、出さないようにしようと思って……でも、出来なかった…別れたって聞いたから、もし、伝わるなら、って…」
 彼が言い終わる時に見てしまった。
 彼は、スーツのポケットを、強く握りしめていた。
「でも、やっぱり、嘘に聞こえますよね。だから忘れてください。やっぱ、一線は超えるべきじゃないんですよね。そもそも、恋事で傷ついた人に、気持ち伝えるなんて、無神経でしたよね…」
 彼は、自分の心情を口に出せない。そう思っていた。でもどうだろう、今の彼は、凄く饒舌だ。
 ───私を好きになってくれる?

「本当に、私が、好き…?」
 そう尋ねると、こちらを向かないまま、大和君は言葉を発した。
「わるい、です…か?」
 その言葉を聞いたら、何故か、胸が、暖かくなった。嬉しさで。心が、満たされた──。
 大和君とは、付き合いは多くない。
 でも、私を、好きでいてくれる人が、居るのなら───
「ううん……ありがとう。返答は、イエスでお願いね」
 こうしか返答は、出来なくなってしまう。







「大和君、この物件良くない?」
「そうですね」
「あっ、こっち間取りがいい!」 
「そうですね」
「あ~、マンションの方が防犯性はいいのかな?」
「そう──」
「言わせないよ!」
 私が大和君がスマホをいじる手を辞めさせる。そもそも、不動産屋の店員さん目の前に、失礼じゃない!
「一緒に選ぶの。新居なんだから!」
「御夫婦が共にありたい、という証である家は、二人で決めた方がいいですよ」
 不動産屋の店員さんも微笑んでくれる。
 すると、彼は少し頬を赤くしていた。何故だろう?
(……先輩可愛すぎて…直視するの恥ずかしい……てか夫婦って…!!)
 大和君は、不動産のパンフレットや、出してくれた資料を見ると、あっ、と声を漏らした。
「ここは?」
 それは、更地だった。何も無い、土地。
 ふざけてるのかと彼を見ると、彼は少し微笑んで、
「いっそなら、全部をふたりで、って再スタートで、家を建てませんか…?」
 そう言った。
 私は大和君の綺麗な黒い目を見てしまう。
 ──この子、本当に年下なのかな?
(! 何言ってんだよ俺………!!)
「い、今の、キャンセル!」
 何も言わない私が、不快に思ったと勘違いしたのか、彼は慌てて席を立って、真っ赤な顔でキャンセルを申し出る。
 けれども私は、告白を受けた以来の可愛らしい後輩の男らしさを、忘れるわけがない。

「そうしよっか! この土地に、新居を建てます!」
 そう言うと、不動産屋の店員さんは、そっと微笑んでくれた。




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