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ダメ男からイケメンツンデレ
しおりを挟む二年間、食べさせてあげていた男に、捨てられた。理由は、浮気相手に子供が出来てしまったから。
『わり、千晴妊娠させちまったから、わかれてくれ。つうかわかれろ。これ決定~』
『あはははっ、これ元カノ? 超ブッサイクぅ~! 仕事してない、って感じぃ?』
だけど、浮気相手と突然いえに突撃してきて、浮気相手と手を繋いで罵るようなヤツと、よく付き合っていたものさ。
「どうしよっかな~。やっぱ仕事メインの人生送ろうかなあ……あ~、でも…」
私は、仕事ではお硬いいちについているし、ぶっちゃけ殼潰しがいなくなるのだから、ストレスも減り、お金も安くなる。
あいつの母親には嫁いびりされていたから、胸がすーっとする。
でもその反面、義父さんには申し訳ないくらい良くしてもらった。ご飯を用意してもらえなかった(義母はメシマズ)ら、簡単なのできないけど、と、美味しい料理を出してくれたり。掃除を押し付けられてる時は、大変なところは全部義父さんがやってくれた。
「せめて、あの人にだけは恩返しがしたい…美味しいご飯を、出し返してあげたい…」
そう思いながら、私は一人になった自由な空間で、そっと瞼を閉じた。
あれからしばらくたった。時間の経過とは、速いもので、もう二ヶ月たっているんだ。本当に速い。
「せんぱ~い」
「ん? どうした波野さん」
「経済化の大和さんがお呼びですよ~」
「え? 何で…社長の使いかな…なんかミスあったかな…」
「さぁ?」
呼びに来たのは、後輩の波野さん。少しチャラチャラしてるけど、仕事モードでは真面目だし、きちんと将来図も成り立ってて、なおかつ礼儀が良い。慣れた人にはこんな感じだけど、それも許可をとるほど。
『あの…友達みたいな感じで、接してみていいですか…?け、敬語は使うので!』
ものすごく不安そうな顔でこっちを見る波野さんを、私はまだ覚えてる。凄く可愛かった。
「まあいいや。行ってくるね。もしわかんない所あったら、私のデスクにここが分かんない、って添えて置いといてくれない?」
「わかりました~。ありがとうございます、いってらっしゃいませ?」
笑顔で、ぴょんぴょんと飛びながら手を振る波野さん。可愛い……!!
「遅くなりました」
「…いや、待ってないから……付いてきて」
目の前にいるのは、超イケメンという名のレッテルが似合いそうな、綺麗な人だ。
さらさらとした黒髪。少しスーツは着崩しているけど、そこが似合っていてなんだが世間の顔面偏差値に偏りを感じる。
大和渉。社長息子だが、親の七光りを嫌い、平社員から始めた、今どき珍しいタイプの男の子。
私はここに来る前に、経済科にいたことがある。この会社に入ったばかりの頃は経済科。今は仕事が安定してきたため、別の業務をこなすよう言われた。
でも社長曰く、経済科に入るのは箱入りばかりだから、仕事の容量が悪い。だから教え方のうまい私に先輩になってくれ。と、謎の言葉とともに、経済科と、業務科を行ったり来たりする生活を続けている。
それもそれでたのしいから、満足しているけれどね?
大和君は、昨年に私が教えた子だ。珍しく容量が良く、言われた事はこなす。ただ唯一の欠点は、自分の気持ちを言葉に出来ないところだろうか。
「あれ? ブースじゃないんですか?」
「?」
「てっきり、仕事でわかんないところか、ミスがあったのかと思いました」
「いや……プライベートのようだから…」
そう言って彼は階段を上っていく。その階段は、一つの扉に繋がっている。
「屋上、ですか?」
「……嗚呼」
たしか昨日は雨で、屋上は滑るからと立ち入り禁止だったはずだ。
もちろん鍵がかかっているけれど、大和君はポケットから鍵を沢山取り出して、迷うことなく、一つの鍵を鍵穴にさした。
ドアが、開く────
「綺麗……!!」
それは、雨上がりの、空の鏡。漫画や小説のようなフィクションの世界にしかないと思っていた、水面の鏡。
雨の薄く溜まった地面に綺麗に日が当たって、反射しているのが、まるで、そう、絨毯やカーペットのようだ。
「こんなところに連れてきてどうしたのっ? すごく綺麗ね!」
大和君を見れば、彼は真剣な顔付きで、私にこう言うの。
「驚かないで、ください………。
俺が先輩を好き、って言ったら、先輩はどうしますか?」
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