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執行猶予? そんなもの、付いてきませんよ?
しおりを挟む「ここからは胸糞悪い話が多いからねぇ。苦手な人は、退室しときな」
不敵な笑みを浮かべる月島。
「あんた、ほんと相当やらかしてるね…むしろ尊敬するレベル。いや、本当に素晴らしいよ。うん、誰でも褒められるレベル。こんなに人を…ボロボロにしても、なお人の愛に執着して、人を殺そうとするなんて、ホントすごい。尊敬しちゃうなあ、智香ちゃんは」
「う、わ…前科二十八件…?」
「しかも数人死んでる…」
「中には男性も混じっていますが…全員、可憐、と呼ぶに相応しき容貌の方ばかりですね」
真波が愕然とし、黍島が苦虫を噛み潰したような顔をし、西園寺が納得する。
三人が見ているのは、彼女の前科と過程。今に至るまでの経緯に何があったのか、今まで何をしてきたのか、生徒会会計長である、洒井が主力の限りを尽くし調べた結果が載っている。
イジメ、嫌われの前科が二十八件。乗っ取りや、その他の悪行を含めると、とんでもない数になろう。
主に、愛され系女子、が狙われており、中には男もいるが、まあ、学校事情が複雑なのだろう。きっとそれは。
「小学五年生の頃からで、って、たった四年間で…?」
その中には、耐えられなくなった境遇に自殺する者もいた。
それは、未来あるピアニスト、天才的頭脳、抜群の運動神経、中を舞うような豊富な雑学。才能は違って言えど、全員、生きていたら将来が輝いていたであろう人たちばかり。
「ふぅん…あんたさ、これ許させると思ってる? さっき、私にさ、生まれた地位から顔立ちから親から学体力、全部に恵まれたっていうけど、愛だの恋だのには、恵まれなかったみたいだねぇ? そして、出会う人の運にも。だって私に会ったんだから、運の尽きだねぇ?」
──ツイてないなんて、残念だね
彼女は、そう蔑む目でわらう。
「執行猶予、必要かなぁ? こぉのぉ人ぉ~」
ニヤ、と笑う月島。そして、役者の如く手を大きく振り、書類を振りまく。
「さぁさぁご覧あれ! 悪行の限りを尽くす女は、この先に何が待つでしょう? 天国か地獄か、白か黒か、さぁさぁ皆さんご考えを! 孤独ありけり女の末路!」
それはまるで、歌舞伎の獅子のように、天涯孤独の女を嘲笑うように。静かに、その傷を抉っていく。
「ふふっ…らしいなぁ、智ちゃんは。役になりきっちゃう癖、昔からなんにも変わってない」
左手を大きく回し、腰を九十度に曲げ、美しい礼をする月島。
まるでそれは、めくるめく演劇が、一部の公演が終わり、役者の幕が引く様だ。
「……」
「黍島くん?」
「…御伽は、こんな風な強い味方がいるのに、どうしてあんな、ショックを受けたんだろうな」
「……多分、過去に何かあったんじゃないかな? 御伽流紋長は、何時もみんなから一線を引いてた。皆で写真を撮る時も、ご飯食べる時も、カフェに寄る時も、必ず一歩後ろで、皆に調子を合わせてた」
そう呟く二人に、周りは気づいただろうか。
「はぁ、はぁ…ヒュッ…かハッ」
一人、着物を乱しながら、畳に手を付き、浅い呼吸を繰り返す黒髪の美しい少女。
そして─
「アンタホント信頼されてないよねぇ? ははっ、お母様にもお父様にも信頼されないで、部活の人から元か、可哀想を通り越して哀れねぇ、ほんと面白~い!」
金髪の少女は、高らかに笑った。
顔立ちは、黒髪の少女の方が美しいだろう。
だが金髪の少女は、黒髪の少女を蔑むように笑う。
「早く帰ってきなさいよ。そして、また私にこき使われなさいよぉ? 悪くはしないであげる」
黒髪の少女は、瞳を大きく開き、静かに崩れた。
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