怖がられ者の俺と、平凡な私

紫音

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4話*八色

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「優花オハヨー!」
「あれっ、ちーちゃん! 学校来れたのっ?」
「うん! 優花~!」
「わっ、なにさ~。甘えたさん?」 
「一ヶ月あってないと充電不足~!」
「なにそれっ」
 五月中旬。湿気の多い天気。
 楽しそうに笑う声。愉快そうな笑顔。嬉しさに比例して、体が無意識に動く。
 不登校気味の体調不慮生徒。
 井ノいのはら茅沙ちさ
 夜久の唯一無二の親友…とまでは行かないが、小学五年生からの、三年間の仲だ。
「あっ、ちーちゃん。紹介する」
「?」
 そう言い、金髪の生徒の机へ向かう夜久。最近、ずっと一緒にいる、もしかしたら、勘違いかも似れないが、夜久の理解者。
「きょー!」
「………うるせぇきこえてる」
 そう睨み返してくる男子生徒、神谷に、朗らかな笑を返す夜久。この笑顔を見れるのは、夜久の心を許した(までは行かないが)友人と、神谷の特権だ。家族にだって、見せたことのない笑顔なのだ。
「神谷恭。あたしの友達!」
「勝手に紹介すんな…」
「自分で出来んの?」
「チッ…神谷だ。お前、名前は」
 夜久と知り合い、神谷も丸くなった。まだ角目立つ性格をしているが、少し笑を見せるようになったし、無視の回数も減った。……極一部には
「井ノ原茅沙だよ、神谷くん? 宜しくね」
「……嗚呼」
 まだなれない人との会話に、戸惑うことも多いが、コミュ力…と言うか、迷惑力カンスト済みの夜久の手にかかれば、他人と軽い会話を話せるようになんて、あっという間にできる。
「あっ、そーだ!」
「? どうしたの?」
「恭とかちーちゃんに、私の友達、ほかにも紹介しようと思って! 恭はまだ教えてないし、ちーちゃんが居ない間にできた子もいるし。お昼みんなで食べよーっ」
 マイペースに話を進める夜久に、そっとため息を漏らす神谷。それを見た井ノ原は
「神谷くん、胃薬飲む?」
「い、いや、いい…」
 薬を勧めた。ちなみに頭痛薬、胃薬、鎮痛剤、睡眠剤や血圧上昇剤なんかは、医者の勧めで常備している薬だ。
「? 何してるの? ちーちゃん。ホームルーム始まるよ? 席つこうよ! 恭はまた後でねっ!」
 笑顔の夜久に、二人はため息をついた。




「お昼の時間だよーッ! 恭くんきしょー!」
「うわぁっ!?」
「優花ちゃん無理やりすぎ……」
 昼休みの一歩前。お昼用に設けられた時間は、普通なら給食の時間。この学校は何故か弁当だが……
「今日はいろんな人誘ってんの! 早く行こっ!」
 そういう夜久の目は、キラキラと輝いていた。


「スガ~、リュー、叶菜~、まゆゆ~、ケーン!」
「ノンブレスお疲れ様~」
「遅いよ優花ぁ、リューが退屈そうだった」
「俺!?」
「ごめんねぇ~、おひさぁ、スガエル」
「ちょっと待って! ラファエル風に言っても違うからね! 違うからね!?」
 賑やかだと、神谷は思った。
 マスクをした中性的な少年。
 制服を大胆に着崩している少年。
 色素の薄い髪の可愛らしい少女。
 短髪で活発そうな少女。
 本来来てはいけないはずのパーカーを着ている少年。
 個性溢れるメンツだと思った。
 この学校は拘束が緩い。その分求められるハードルは少し高いものの、頭髪、制服も学校内なら基本ルールは無い。学校に来るまではちゃんと着ましょうね。来たらもう体育着で一日過ごしていいですよ。という感じの学校で、流石に法律に反することは許可できないものの、良識の範囲以内のことなら許して貰える。
 だとしても…自由過ぎるだろ。そう思う。
「アレッ、後ろの子、新しい友達?」
「うんっ、紹介しようと思って! スガエルとケンはチーちゃんに会うのも初めてだもんね。紹介する!」
 夜久そう言うと弁当をマスクの少年に預け、よく聞けよー!、と言いながら、二人に拳を握って作っただけのマイクを指す。
「え、あ、えっと、井ノ原茅沙でーす、宜しくねー」
「で?」
「………神谷恭」
 簡単な自己紹介を指せ、じゃあそっちもおねがーい、と、活発そうな少女に降る夜久。
「全く…。私は、宮本みやもと真弓まゆ。クラスは一組で、部活はバスケ部。体育じゃあ頼りにしてくれていいよ! よろしく!」
 そう言うと、マスクの少年が、次僕行きます、と言いマスクを外した。やはり中所為的な顔立ちは。
菅原すがわらいく。クラスは宮本さんと同じで一組。特技は……無いかな。宜しくね」
 マスクをまた付け直すと、ふっと微笑んだ。井ノ原は、性別がどちらか一瞬わからなくなった。
 制服を着崩した少年が突然立ち上がった。
「俺は石川いしかわりゅう! なんでも出来て、男女ともに人気の高いんだぜ~! スゲェだろ?」
「嘘はいらないからねー」
「なっ、真弓、俺は嘘はついてねぇぜ!」
「みんな呆れてるんだからね? あ、こいつの言うこと八割がた気にしなくていいから」
 石川の笑顔は眩しく、太陽を見ているようだ。神谷はそう思った。
 次に、色素の抜けた少女が手を上げると
「私、琥月こづきかん! 好きなことはイタズラ。好きなものは卵焼きかなっ、よろしくね! アルビノっ子に見えた?」
 イメージをクラッシュした。大人しくミステリあるに見えた、ただの子供。アルビノのように色素が薄く、でも中身はただの子供。見た目詐欺もいい所だ。
「最後にけんだよ」
「…榎本えのもと顕弥けんや
「ケンもうちょい無いの?」
「ない」
 ケン、と呼ばれた少年、榎本は、まるで毒づきを決めるが如く、ストレートにパンチを食らわせる。
 それに夜久は苦笑いし、神谷と井ノ原に、それは邪気のない笑みでこういった。

「これが、私の仲間達! ようこそっ、日本歴史部・・・・・へ!」
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