上 下
7 / 8

ショーの開幕!

しおりを挟む




「LET,S・START!!」
 彼女は登校するなり、そう高らかに宣言するのだ。





「よしよし、セット完了…」
 真夜中の学校。
 学校内の電光掲示板の前で、月島はそう呟いた。
「夜のガッコって不気味だな…」
「…………………うん」
 黍島と御伽はそう呟き、御伽はそっと月島の袖を掴む。
 そういうのは黍島に…。と心の中で思うも、本人も、まして黍島すら無自覚な為、言わないでおいた。
「…楽しみだねぇ」
「明日…?」
「うん。明日、ぜーんぶバラするだ! 水に流して、泡すら残さず… 」
月島はそう言い、邪悪は笑みを浮かべた。
「私達に出来ることはこれくらいよ」
「あとは頑張ってね!」
「…ふぁいと」
 御伽の三姉妹は笑うと手を振り帰っていった。

 今夜、御伽と黍島は月島の元に泊まるのだ。
「黍島くんは…兄さんの部屋でいい? 大学生になって、家出ていったんだけど、まだ部屋の荷物まんまなんだ。ベッドはちゃんとシーツ変えるから…女子と相部屋は、私はいいんだけど母さんが…」
 月島家。両親は共働き、と月島は言い、料理は簡単なの作るね、と、自身の部屋に招待をして待たせた。
 二人は少しそわそわとしている。
「物…少ない」
「嗚呼。生活に最低限なものしかないな…」
「物欲がない…?」
「かもな。てか、人の部屋ジロジロ見るのもな…」
 そういいふたりは、また静寂に包まれた空間に、いたたまれない気持ちで一杯になった。
「! いい匂い…」
「あいつ、家庭的な面あるんだな」
 部屋からそっと出て、キッチンと思わしき場所を見てみれば、少し鼻歌気味に、黒いエプロンをした月島が、楽しそうに料理をしている。
「月島、なんか、楽しそう?」
「ああ。あれだけ見れば、普通の女の子、って感じなのにな」
「あの邪悪な笑……」
「スイッチのオンオフでもあるのかな…」
 二人の頭には、嫌われクラッシュをする際の、黒く、歪んだ笑がこびり付いている。あの無邪気な笑は、楽しそうに、その蛇眼を細め、嘲笑するように、他者を蹴落とすのだから。
「終わった終わった~…っておふたりさん? 部屋で待ってて欲しかったなぁ?」
「す、すまん…どうしたらいいか分からなくて…女子の部屋って初めてだし」
 二人に気づいた月島が、笑みを浮かべながらそう言えば、黍島は目線をずらしながらそう答えた。
「…友達の家、初めて」
 御伽も恥ずかしそうにそう言う。
 そんなふたりにキョトンとしながら、苦笑いし、月島は言う。
「明日早いし、さっさと食べちゃおっか!」
 今日の晩ご飯は、特別豪華だ──






「ふふっ、楽しいなぁ~楽しいなぁ~」
 朝早くに張り出された電光掲示板の前には、たくさんの人だかりが出来ている。
「黒塗りの過去って、こんなに人、呼ぶ?」
「まあね。人間ってゴシップ大好きだからさ」
 一緒に登校してきた御伽は、不思議そうに首をかしげた。
 黒髪、伸びてるなあ
 緊迫した空間にも関わらず、月島はぼんやりとそんなことを考える。
「直接手を下さないで、いなくなってくれればいいのにな」
「影矢、口悪い」
「す、すまん……」
 御伽と黍島の距離も縮んできたなあ、と月島は思いながら、自分だけ無い出会いにしょぼんとする。
 勿論、受験の妨げになるような出会いはいらないのだが。
「もう学校生活最後の嫌われクラッシュでしょ、これ。派手に終わらしてやろうかと思って」
「そういうの、フラグって言う」
 御伽のジト目に、はぁ、とため息を零しながら、そっと笑った。




しおりを挟む

処理中です...