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Dランク冒険者

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オレはリュート。カームの街を縄張りに小銭を稼ぐDランクの冒険者だ。
今日も朝からギルドで依頼を漁っていると、依頼ボードにオレ向きの依頼が張り出されているのを見つけた。

『スライムの核 採取』

カームの街から南に2時間も歩くと『胃袋の森』に出る。その森の中にある池にはスライムが腐るほどいるはずだ。
スライムは物理攻撃が効かない上に、酸性の体の一部を飛ばしてくる非常に鬱陶しい魔物ではあるが、ちょっとしたコツを掴めば簡単に倒す事が出来る。

オレは早速、依頼を剥がし、受付嬢のナリスへと持って行こうとした所で、他の冒険者とぶつかってしまった。

「オッサン、危ねぇだろうが、ボーっとしてるんじゃねぇよ!」
「す、すまない……」

オレがぶつかってしまった相手は冒険者になって3年でCランクになった、この街の中堅冒険者である。
才能溢れる若者からすればオレのような万年Dランクは塵芥に見えるのだろう。

「止めとけよ。万年Dランクのジジイと喧嘩とか……お前、雑魚臭が凄いぞ」
「はっ? オレはこんなジジイ相手にしてねぇし……」

「そうか? その割にはえらく怒ってたように見えたがな」
「は? オレは怒ってねぇから。こんなジジイなんか相手にするわけねぇだろ」

男は仲間の冒険者に揶揄われて、隣に併設されている酒場へと逃げるように行ってしまった。
同時にオレも周りからの哀れみを込もった視線から逃げるように、受付嬢のナリスの下へと歩いていく……

「ナリス、この依頼を受けたいんだ。処理してほしい」
「スライムですか。ソロだと少し危険ですが……」

「この年になって無茶はしないよ。無理と判断したら直ぐに引き上げるさ」
「うーん……分かりました。くれぐれも無理はしないで下さいね。絶対に気を付けて下さいよ」

「分かったよ、行ってきます」

こうしてオレはスライムを倒すべく、ギルドを後にした。





さて胃袋の森に到着するまでオレの話をしようと思う。
オレの名はリュート。今年で38歳になるベテランのDランク冒険者だ。

38歳。普通、成功した冒険者はこの年になるまでに金を貯めて商売を始めるか、土地を買って田舎に引っ込むかを選ぶ。
どちらにしてもいつまでも、命がけの冒険者を続けたりはしない。

そして成功しなかった者……それこそ、そういった者は遅くとも20代の内に、冒険者を諦めて別の生き方を探すのが一般的だ。
だがオレは38歳にもなって、未だに冒険者を続けている。何故か? 話はオレの幼少期に遡る。

オレはカームの街から半日ほど歩いた、小さな名も無い村の生まれである。
兄弟はオレの上に兄が2人、姉が1人の4人兄弟の末っ子だった。

農家の3男坊……小さな頃からオレに継がせる畑は無い事は聞かされており、開墾団に入って自分の畑を得るか、街に出て自分で職を探せと言われ続けていた。
それにはオレも納得していて、将来は開墾団に入り一生をかけて小さな畑を手に入れるのだと何の疑問にも思っていなかった。

そんな日常は簡単に崩れ去ると言う事をオレは知る事になる。魔物の襲来だ。
石の城壁がある街とは違い、村では防壁の類は木の柵で囲われている程度である。魔物に見つかれば簡単に壊されてしまうのだ。

その日はもう直ぐ収穫祭だという頃の、少し暑い秋の夜だった。

「敵襲だ!ま、魔物が出たぞ!!」

現れた魔物はゴブリン。悪食の小鬼である。
身長は150cmほどで、膂力は人と変わり無く、極稀に魔法を使う亜種も存在する。

そのゴブリンが30匹あまりの群れを成して、オレ達の村に襲い掛かって来たのだ。
紆余曲折あって、その日は女子供は家に隠れ、男衆がゴブリンと戦う事で何とか追い返す事に成功した……

次の日の朝、緊急で集まりが開かれたのは当然の事だったのだろう。
昨晩は村人総出で何とか撃退したが、ゴブリンはしつこい。”今夜にも再度の襲撃がある”と言う意見が大勢だった。

これにより村長は自分達の手には余ると判断し、直ぐに村の代表をカームの街へと走らせる事を決めた。
そして、その日の夕方には屈強な冒険者4人がやってきて、村の者が総出でもてなす事になったのだ。

その席でオレは兄と一緒に育てた芋を母に茹でてもらい、冒険者の中でも一番強そうな者へと持っていった。

「こ、これ、食べて……」
「お、すまんな、坊主。うん、美味い芋だ。これは坊主が作ったのか?」

「うん、兄ちゃんと一緒に作った」
「そうか、こんなに美味い芋を貰ったんだ。元気一杯で魔物なんて簡単に倒してやるぞ」

「本当に?」
「ああ、オレ達に任せておけ」

きっと子供好きな気の良い冒険者の、軽いリップサービスだったのだろう。
しかし言われた方の子供には、小さくではあるが確かに熱い何かが芽生えた瞬間だった。

そうして宴が進んで行くと、昨日の夜と同じように見張りからの声が響き渡る。

「て、敵襲!ゴブリンだ。またゴブリンが来たぞ!」

冒険者達は素早かった。剣士2人は速やかに剣と盾を装備し、斥候の男など既に扉を開けて走り出している。そんな3人を魔法使いが肩を竦めて追いかけていく。

4人は歴戦の風格を醸し出しており、オレの目にはその姿が何処かの英雄のようにすら見えていたのを覚えている。
そして、その後の戦闘も凄まじかった……剣士が剣を振ればゴブリンの血が飛び散り、魔法が夜空を明るく照らす度にゴブリンは燃えていく……

4人は30分ほどの戦闘で殆どのゴブリンを、ほぼ無傷で倒してしまったのだ。

「おおおおおお、ありがとう!」「これで、これで村が救われた」「ありがとうございます、ありがとうございます」「おお、こんなに簡単にゴブリンを」

感謝と賞賛の声が響く中、4人の冒険者は笑顔を浮かべ手を振っている。オレは願ってしまった……あの人達のようになりたいと。
そして夜中に家を抜け出して、弟子入りを頼もうとしたオレは、更に衝撃の姿を見てしまう……

「××××、××××。××××××××……」
「ハッハッハッ……この村を救ってやったのはオレ達だ。お前らはしっかりと体で奉仕するんだぞ」
「そうですよ、ほら、もっとしっかりと動いて!」
「ウヒヒ。報酬の減額の代わりだからな。ほらもっと、こうだ!」
「ふんふんふんふんふんふんふんふん!」

あれは隣の○○のおばさん……
綺麗だって噂の■■のお姉さんもいる……

将来は村1番の美人になるだろうって言われてる◇◇ちゃんまで……
そこには4人の冒険者と10代半ばから30歳ぐらいまでの女性7、8人が素っ裸になって、嬌声ををあげている姿があった。

オレはこの時、逃げるように自宅へと走りながら、この世界の真実を悟ったのである。
隣のおばさんは旦那さんと仲が良いと評判だった……■■のお姉ちゃんも恋人と幸せそうにしてたのを何度も見ている……◇◇ちゃんも……

それが、皆あんな格好で嬉しそうに……

チカラ、チカラだ。この世の中、チカラがあればどんな物でも手に入る。
オレは誓った。あの冒険者達のように、金も女も全てを手に入れてやる!と……





4人は次の日の朝になると爽やかに村を立ち、直ぐに村は何事も無かったかのような空気に包まれていった。
村はそのまま数日もするといつもの毎日に戻っていったが、オレだけはどうしてもあの光景が忘れる事が出来なかった。オレは学んでしまったのだ。強ければ全てが手に入る事を。

その日からオレは15歳になるまでの間、野山を駆けて体力を作り、自作の木剣を振りながら過ごしていった。
家の手伝いを放り出して修行に夢中になるオレに、当然ながら家族も良い感情は無く、15歳になると直ぐに家から追い出されてしまった。

追い出されたオレは、これ幸いとカームの街へ流れ着き、紆余曲折の末、待望の冒険者になったと言う訳だ。
冒険者になった初めの頃は本当に楽しかった。

同じような境遇の者とパーティを組んで、初めてゴブリンを倒した時には自分が英雄にでもなったような気分で、踊り出したいほどだったのを覚えている。
そしてカームの街では、村とは比べ物にならないほど垢抜けた女冒険者や町娘、新たな女達との出会いがあった。

そして、ここでも村と同じように、女達が『強い者』へと殺到していく姿を見る事となる。
強い者はどれだけ女達へ不誠実を働いても赦されていた。

口では何と言っても、女達は最後には必ず強い者へと返っていくのだ。





そんな中、パーティーでも動きが出て来る。仲の良い仲間であっても、それが2年、3年と経つと当然ではあるが『差』が出来てしまう。
徐々に才能の高い者同士と低い者同士、能力によってパーティが組まれていく事が多くなっていった。

そんな動きの中にあり、能力が低い者同士にも付いていけない者が現れる。オレの事だ。
普通、オレのような者は自分の才能の無さを恨みつつも、いつしか現実を受け入れ冒険者から足を洗っていく。

極稀に冒険者にしがみつく者もいたが、そうした者は早々に命を失うか、怪我を負って強制的に冒険者を続けられなくなっていった。
そんな中ですら、オレはあの日の光景を忘れる事が出来なかったのだ。

こうして38歳にもなりながらも、子供の頃に見た光景が忘れられずに、必死になって冒険者と言うヤクザな仕事にしがみついている。

そんな底辺のDランク冒険者がオレ、リュークと言う男である。






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