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第二章 黒い実

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 神の座に向かうのは、ヨヌ、ソウザ、ニキ、そしてパトの四人に決まった。四人は、旅の支度を整えるために、一度各々の家に戻ることになった。
 城から自分の屋敷に戻ろうとしたヨシュアにアルスが近づいた。
「大役ですな」
「ああ、まさかヨヌが行くと言うとは」
「ご子息なら立派に役目を果たされるでしょう」
「だと良いが」
「それにしても、アバディーンの息子が一緒とは、ラビ様にも困ったものです」
「まあ、よい、何かあれば、あの息子を殺すように、ソウザには申しつけておくつもりだ」
「それが、宜しゅうございます」
 アルスがうなずいた。
「それにしても、黒い実に黒い鳥とは。まさか、あの者たちまで現れるようなことには」
「どうであろう。用心にこしたことはあるまい。ともかく、城壁を整え、警備の人間を増やさねばな」
「はい。明日の朝には、屈強な者達を選び、新たに衛兵にいたしましょう」
 アルスが言った。
「地下から、武器も出さねばならんかもしれんな」
「そんなことが……」
「用心に越したことはなかろう」
「そうですな」
「もし、どこかと戦になるようなら、ヨシュア様にラビになっていただかないと」
「何を言い出すのだ。そんなことができるわけが」
「いえ、今のラビ様では、祭りの準備はできても戦の指揮はできますまい」
「まあ、それは、その時でよかろう」
 ヨシュアはアルスに言った。顔には、満足そうな笑みが浮かんでいた。

 旅に出る四人が、準備を終えて、また城に戻ってきた。
「勇者たちよ、必ず、神の座まで行き、この神の水を届けるように」
 ラビが小さな青いガラス瓶をヨヌに渡した。ヨヌはそれを大切に肩からかけたバッグにしまった。
「急ぐように」
 ヨシュアが言い、ヨヌがうなずいた。
 パトはヨヌの横顔を見た、パトはヨヌが好きではなかった。いつも、冗談ばかり言って、若い女の子を追いかけて遊んでいる印象しかなかった。しかし、今見る横は強い意志を感じさせる顔だった。
 ヨヌがパトに手を出し、「よろしくな」と言った。
「ぼ、僕こそ」
 パトは、うまく声が出なかった。ヨヌはパトよりも年齢は三歳ほど上のはずだった。背は頭一つまではいかないが、半分ほどは高い。筋肉はパトの倍ぐらいあるだろう。遊んでいるだけでは、とても、これだけの立派は体にはならないだろう、とパトは改めて思った。
 四人を見送る人の数は少なかった。黒い実が見つかり、アモンの人々は家に帰るように命令されていた。
 城壁の門まで付いてきたのは、ラビとヨシュア、それにお付きの従者だけだった。
「気をつけていけ。息子よ」
 ヨシュアがヨヌに言った。
「神の樹が守ってくれるであろう」
「行って参ります」
 ヨヌが先頭で門をくぐって外に出た。ヨヌの後に三人が続いた。
 ラビとヨシュアは四人の姿が暗い森の中に消えていくまで、見続けていた。
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