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第六章 暴走
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佐竹は、千葉の富田に電話をかけ、事件のあらましを尋ねた。
新たに見つかったミイラは二体だった。高齢者を狙ったひったくりを調べているときに、千葉市内のアパートで見つけた。
山井淳次と大沢大樹。遺体は大沢の部屋で見つかった。部屋のようすから、二人でエロビデオを見ながらビールを飲んでいたようだった。
二人は組んで高齢者を狙ったひったくりを繰り返していた。
調べてみると、小尾が大阪にいたころの知り合いだった。
「大阪にいられなくなって、東京に逃げてきたようなことを……」
三人が話していたのを居酒屋の店員が覚えていた。二人が東京に出てきたのは二週間前らしい、まともな男ではないが麻生圭子との繋がりはなさそうだった。
アパートの住人からの証言によれば、深夜まで話し声が聞こえていたということだった。もし、深夜、酒を飲んでいたのがミイラでなければ、発見されるまで、半日ほどでミイラになったことになる。
電話の最後に、富田が、
「見ますか? ミイラ」と聞いてきた。
「いや、結構です」
佐竹はあわてて断った。隣で鈴木も必死で首を振っていた。
「恵美ちゃん」
鈴木が場違いな声をだした。科捜研の山田恵美が姿を見せた。
「恵美ちゃん。今日は、何の……」
恵美は鈴木を無視して、和泉の前に進んだ。
「和泉さん。何だか、変なんです」
「何かあったの?」
「国の農業試験所で栽培している作物が枯れているって連絡が……」
「枯れてる……」
「他にも、大学の研究所やバイオ企業の農地とか、報告がどんどん増えているンです。何が起きてるのか不安で」
「もしかして、みんな遺伝子組み換えの」
「ええ……」
「まさか……暴走、してる」
「それって……もしかしてり、姉の……」
亮子が不安そうな表情で和泉にたずねた。「いや、そんな……バカなことは。ありえなません……そんなこと」
和泉のつぶやきが次第に小さくなっていった。
何が起こってる。嫌な雰囲気だ。佐竹は鳥肌が立つのを感じていた。次々と植物が枯れ、ミイラが増えていく。
「佐竹さん」
鈴木が佐竹に顔を向けた。おどおどしている目だった。どうやら鈴木も同じらしい。
鈴木の目は、佐竹に、「逃げましょう」と訴えていた。
恵美が、鈴木をにらみ付けた。鈴木が喧嘩に負けた犬のように顔を伏せた。
「まあ、そうだな」
佐竹は、覚悟を決めたようにつぶやいた。一応、刑事だ。事件からは逃げられない。
「見つけないと……」
和泉がつぶやき続けていた。英子が不安そうに和泉を見ていた。
「どこだ、あの花は」
麻生圭子の花はどこにいる。考えられるのは……。
「植物園……」
和泉、恵美、そして亮子、三人の口から同じ言葉が出た。
人を隠すなら人の中に、花を隠すなら花の中に……。
和泉が植物園に向かって歩き出した。
恵美と亮子が和泉の後を追いかけて行く。
「いくぞ」
佐竹が歩き出した。
「ええ」
鈴木は佐竹と並んで歩き出した。諦めたのか、おどおどとした表情は消えていた。
新たに見つかったミイラは二体だった。高齢者を狙ったひったくりを調べているときに、千葉市内のアパートで見つけた。
山井淳次と大沢大樹。遺体は大沢の部屋で見つかった。部屋のようすから、二人でエロビデオを見ながらビールを飲んでいたようだった。
二人は組んで高齢者を狙ったひったくりを繰り返していた。
調べてみると、小尾が大阪にいたころの知り合いだった。
「大阪にいられなくなって、東京に逃げてきたようなことを……」
三人が話していたのを居酒屋の店員が覚えていた。二人が東京に出てきたのは二週間前らしい、まともな男ではないが麻生圭子との繋がりはなさそうだった。
アパートの住人からの証言によれば、深夜まで話し声が聞こえていたということだった。もし、深夜、酒を飲んでいたのがミイラでなければ、発見されるまで、半日ほどでミイラになったことになる。
電話の最後に、富田が、
「見ますか? ミイラ」と聞いてきた。
「いや、結構です」
佐竹はあわてて断った。隣で鈴木も必死で首を振っていた。
「恵美ちゃん」
鈴木が場違いな声をだした。科捜研の山田恵美が姿を見せた。
「恵美ちゃん。今日は、何の……」
恵美は鈴木を無視して、和泉の前に進んだ。
「和泉さん。何だか、変なんです」
「何かあったの?」
「国の農業試験所で栽培している作物が枯れているって連絡が……」
「枯れてる……」
「他にも、大学の研究所やバイオ企業の農地とか、報告がどんどん増えているンです。何が起きてるのか不安で」
「もしかして、みんな遺伝子組み換えの」
「ええ……」
「まさか……暴走、してる」
「それって……もしかしてり、姉の……」
亮子が不安そうな表情で和泉にたずねた。「いや、そんな……バカなことは。ありえなません……そんなこと」
和泉のつぶやきが次第に小さくなっていった。
何が起こってる。嫌な雰囲気だ。佐竹は鳥肌が立つのを感じていた。次々と植物が枯れ、ミイラが増えていく。
「佐竹さん」
鈴木が佐竹に顔を向けた。おどおどしている目だった。どうやら鈴木も同じらしい。
鈴木の目は、佐竹に、「逃げましょう」と訴えていた。
恵美が、鈴木をにらみ付けた。鈴木が喧嘩に負けた犬のように顔を伏せた。
「まあ、そうだな」
佐竹は、覚悟を決めたようにつぶやいた。一応、刑事だ。事件からは逃げられない。
「見つけないと……」
和泉がつぶやき続けていた。英子が不安そうに和泉を見ていた。
「どこだ、あの花は」
麻生圭子の花はどこにいる。考えられるのは……。
「植物園……」
和泉、恵美、そして亮子、三人の口から同じ言葉が出た。
人を隠すなら人の中に、花を隠すなら花の中に……。
和泉が植物園に向かって歩き出した。
恵美と亮子が和泉の後を追いかけて行く。
「いくぞ」
佐竹が歩き出した。
「ええ」
鈴木は佐竹と並んで歩き出した。諦めたのか、おどおどとした表情は消えていた。
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