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第二章 悪夢

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 京子の乗ったバスが橋を渡っていた。海が近く、川幅が広かった。川が流れていく先に海が見えた。釣り船なのか、小舟が浮かんでいた。穏やかな日差しが川面に反射していた。木々の緑が目に優しい。バスの窓の外に見える風景は平和そのものに感じられた。
 会議から二日後、厚生労働省と防衛省は、浦積市の住民全員の血液検査を実施することに決め、東京と千葉の公立病院や保健所から必要な人員が集められ、浦積市に送られた。
 病院や保健所には、浦積市在住の外国人が新型のインフルエンザを発症した疑いがあり、予防的措置として血液検査を行うと伝えられていた。さらに、無用の混乱を避けるために、情報は極秘扱いにすると付け加えられた。
 浦積市の小中学校、高等学校には、新型インフルエンザではなく、春に行われた身体検査で不備があったと連絡されていた。
 血液は小指から一滴採取され、国立感染症研究所と自衛隊病院に送られ検査されることになっていた。
 防衛省では、浦積市在住者と在勤者のリストを洗い出していた。さらに、七月の第一週に、電車や車によって浦積市を通過していった者のリストも検討され、可能な限り調査することとされた。
 バスに乗っている看護師達は、新型インフルエンザと信じているらしく、白衣の襟やマスクをかけ直したりして、緊張している様子が見て取れた。不安げに窓の外を見ている若い看護師もいた。
「大丈夫じゃないの、少し健康になるだけだから」
 京子は、谷垣の言葉を信じたかった。本当に少し健康になるだけであって欲しい。奇病の原因が、もし城戸の研究であったとしても、痩せて暴力的になり死んでいくのは、ごくまれな副作用だと願いたかった。
 バスが高校についた。ドアが開き、全員がマスクをかけ直した。
 京子は看護師の後からバスを下りた。
 何だろう……。臭いが気になった。肉が焼ける臭いだ。
 焼肉? 朝から?。朝食に焼肉でも悪くはないが……。
「僕もステーキを」
 谷垣の言葉が頭に浮かんだ。食欲が増す……。もしかしたら、町中が感染しているのかもしれない。健康になり、食欲が増し、朝から肉を焼いている……。
 京子は急に寒気を感じ、体が震えた。
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