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その後…とは限らない番外編

番外編5 魔王さまと最初のズットモ その1

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登場人物

デューク・トウジョウ : 現代知識を持ったまま異世界に転生した青年。チート能力を生かした優秀な魔法戦士。冒険者グループのリーダーをやっている。

エルザ・レインフォート : デュークの幼馴染の少女で、優秀な神官。デュークが転生者であることやチート能力を知っている。

ダイドー・ブレンドー : デュークの幼馴染の気のいい青年。非常にタフな戦士。同じくデュークの転生事情を知っている。

マオ・サットバ・ブラックサン : アイーダ大陸における歴代最強の魔族(魔力をもった知的種族の総称)たちの王。ゴスロリ美少女。素朴。セリアはんが大好き。

石川瀬利亜  地上最強のスーパーヒロインでモンスターバスター。ゴメラキラー、無敵のシードラゴンの異名を取る。まおちゃんのお姉ちゃんポジション。

シルバ・エンシェントドレーク: 魔王国の元帥。非常に誇り高い魔王軍一の実力者。まおちゃんの親戚で、まおちゃんを実の妹以上に大切に思っている。まおちゃんのお姉ちゃんポジション希望。



(SIDEデューク)
  数日前から俺たちはずっと逃げ続けていた。
 『奴ら』は本当に手ごわく、かつ、しつこかった。

 本拠地を離れて遠征をしていた時だった。 
 ある日なんの予兆もなく、謎の黒ずくめの集団が俺たちを襲いだしたのだ。

 彼らは戦闘能力はかなり高かったが、『チートを極めた』俺たちはもちろん、そのすべてを撃退し続けた。
 しかし、昼夜を問わず『奇襲をかけてくる』黒ずくめの集団の圧力は俺たちをどんどん精神的に追い込んでいった。

 しかも、あちこちに行商人やスラムのチンピラなどの一見民間人に扮装していて、いきなり牙をむいてきたことも何度もあり、出会う人たちすらどんどん信頼できなくなっていった。

 宿屋に泊まるのは危険だと判断し、森の中で野営の準備を進めているとき、ふいに俺たちの前に人影が現れた。
 それまでとは違い、俺たちの前に気配すら感じさせずにその人影が現れたときは心臓が止まるかと思った。

 俺とダイドーがはっとして剣の柄に手をかけたとき、その人影は笑いながら言葉を発した。

 「ふっふっふ、探すのに苦労したけど、ようやく見つけたのじゃ♪」

 俺たちの目の前には黒い衣装をまとった女の子が立っていた。

 「みんな、どうしたのじゃ?なんだか疲れているようなのじゃ?」
  女の子…まおちゃんは我々を心配そうに見やっている。

 
 「なんと?!正体不明の集団に襲われていたというのじゃな?それは本当に大変じゃったな。」
 
 過酷な一週間が始まったあの日以来初めて安心して話ができる相手に出会えて、俺たちはようやく一息をつき、まおちゃんといろいろ話をした。
 まおちゃんが魔王特製の防御結界を張ってくれたこともあり、やっと肩から力を抜くことができたのだ。

 「そうじゃ、実はわらわは今、様々な魔法アイテムの制作をアルテアちゃんから習っておるのじゃ。
 そして、作ったのがこれなのじゃ!!」
 某青い何とか型のロボットがするように効果音とともにまおちゃんは腰についたアイテムボックスと思しきポシェットから、宝石のついた首飾りを三つ取り出した。
 青、黄色、赤色の宝石のついた首飾りは淡い光で発光し、かなり強力な魔法の効果があることをその存在感から伺わせていた。

 「これは『守護のお守りタリスマン』なのじゃ。

 これをつけていると、様々な魔法や毒などに強力な耐性が得られるだけでなく、死ぬような強力なダメージを喰らったら、身代わりを引き受けて壊れて防いでくれるのじゃ!」

 「こんなすごいものをもらっていいの?」
 「当たり前じゃ!おぬしたちが安全に冒険ができるようにと心を込めて作ったのじゃ。」

 はにかむように答えるまおちゃんを見て、俺の心は温かさに満たされていった。
 エルザは思わずまおちゃんを抱きしめており、ダイドーは感極まって泣き出している。


 「そして、今のような暑いときのために、『温度調整グラス』も用意したのじゃ。
 みんなが大好きなびーるという飲み物もあるのじゃ♪」

 なんと、まおちゃんはセラミックぽいビアグラス?を我々の前に出してくれた。
 そこにアイテムボックスから取り出した瓶入りの『〇ビス・ビール』を嬉しそうに注いでくれている。
 なんて嬉しいことを!!
 前世でビール好きだった俺には最高のおもてなしだ!!
 この組み合わせはまおちゃんと親しい『瀬利亜さん』に教えてもらったそうだ。

 瀬利亜さんはさすがは転移者だけあって、様々なことを知っているのだね。
 「「「乾杯♪」」」

 俺たちがギンギンに冷えた『〇ビス・ビール』を口にしようとしたときに、パキーンと何かが割れる音ともに漆黒の槍状のものがエルザに向かって放たれていた!

 漆黒の槍はまっすぐにエルザの心臓に突き刺さる寸前、まおちゃんの渡したお守りが砕けてばらばらになり、同時にエルザの手前で地面に落ちた。

 「何をするのじゃ!!」
 全員が凍り付いた中、真っ先にまおちゃんが正気を取り戻し、今まで抑えていた魔王としての圧倒的な闇の気配を開放した。
 そして、エルザの前に立ち、エルザに漆黒の槍を放ったと思われる人影をにらみつけている。

 人影は40代くらいに見える精悍な男で、漆黒のローブをまとって暗殺者のように見える。
 そのまとっている強者の気から前世で俺たちが戦った魔王軍四天王クラスの強敵だ。

 まおちゃんからもらった守護のお守りタリスマンがなければ、エルザは心臓をつら向かれて確実に命を落としていただろう。

 さらに、周りにはこの男のほかにもいくつもの人の気配が感じられた。この男の仕業なのか、あるいは別の人物の仕業かはわからないが、まおちゃんの張った魔法の結界を壊すほどの魔法の実力があるようだ。

 「たくさんいて、邪魔なのじゃ!!」
 まおちゃんが叫ぶと、その体からすさまじい魔力が放出された。
 「 『集団麻痺グループパラライズ』なのじゃ!」
  
 黒ローブの男ははっとして周りを見渡すとほぼ同時に、先ほど感じた人影からの気配が消えていた。

 「うぬ?!こいつだけは麻痺の魔法に抵抗したのじゃ!!ただものではないのじゃ!!」

 まおちゃんが油断なしに黒ローブの男を睨みつけている。

 おそらく予想外の強敵の出現に男が逡巡する中、まおちゃんがあることに気づいて叫んだ。

 「ふぁああ!!わらわが心を込めて作った魔法のグラスが全部壊れたのじゃ!!エルザにあげたお守りもバラバラなのじゃ!!」
 ……そこが気になるのだね、まおちゃん。
 緊張した雰囲気が少しだけ緩んだ時、ふいに新たな人影が現れた。

 「まおちゃんが心を込めた力作が悪人の手によってぶち壊されたということね!!まったくもって許しがたいことだわ!!」
……先ほど話題になった瀬利亜さんがまおちゃんの横に立っていて、いつの間にか黒ローブの男を睨みつけていた。

 「瀬利亜ちゃん!!
 妾が友達にあげた力作をそいつらがぶち壊したのじゃ!!」
 「そう、やっぱり犯人はこいつらなのね!きっちりとお仕置きが必要だわね!」

 「待て!なんかいろいろおかしい!!」
 事情についていけないような黒ローブの男が思わず叫んでいる。
 うん、俺も全く同感だ。

 「なんだと!!まお様の力作が悪人どもの手によって壊されただと!!」
 さらにすさまじい闇の気配とともに上空から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 そして、軍服をまとったシルバさんが俺たちのそばに舞い降りてきた。
 第一周目と異なり、まとちゃんの友達認定された俺たちに対して、シルバさんは終始暖かく接してくれていた。
 普段は温厚で優しい人だったようだ。

 そのシルバさんが眉を吊り上げて激怒している様は、第一周目で敵として現れた時よりずっと迫力があった。

 「なるほど、そいつが犯人…はああ?!そいつは帝国の宮廷で見たことがあるぞ!」
 シルバさんが目を剥いて黒ローブの男を睨みつけている。

 「驚いたわね。まさか、まおちゃんの渾身の力作を破壊した事件に帝国が絡んでいるなんて?!」
 「人間の国として最大の国だとて、思い上がりも甚だしいわ!」

 「待ってくれ!それ、誤解だから!!」
 瀬利亜さんとシルバさんのあまりのやり取りに黒ローブのおそらく帝国の軍人は冷や汗をだらだら流しながら弁解している。
 うん、俺たちを暗殺しようとした相手とはいえ、なんか同情の気持ちが少し湧いてきたのと、どうして帝国が俺たちを狙ったのかがわからないのが本当に困ったことだ。

 「周りの連中はどうやら雰囲気から暗殺集団のようね。つまり、帝国はその『暗部』を総動員してでも、まおちゃんの力作を破壊したかったということね!なんて恐ろしい陰謀なのかしら!!」
 「瀬利亜様!まことにもって許しがたいことです!!帝国に厳重抗議をせねばいけませんね!!」
 瀬利亜さんとシルバさんが盛り上がる中、まおちゃんは二人を見て、うんうんとうなずき、エルザとダイドーは完全に固まっていた。

(続く)
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