上 下
33 / 47
シルクロード編

10 先行き不安

しおりを挟む
 「そうら、『火尖槍』!!」
 哪吒太子の持っている槍がいくつにも分かれ、それぞれが猛烈な炎を噴き出し始めた。
 「喰らえ、『業火結界』!!」
 恐ろしいほどの火炎の嵐がナースチャに襲い掛かっていく。

 しかし、ナースチャが剣を一閃するとあっという間に炎は蹴散らされていった。
 「今度はこちらからだな!」
 ナースチャが叫ぶと、『不死の騎士』は背中の翼を開いて、宙に舞いあがった。

 「こいつはおもしれえ!」
 哪吒太子も焔を吹く車輪に乗ると、同じくナースチャめがけて舞い上がっていった。
 哪吒太子は得物を八振りの剣に持ち替え、今度はナースチャの攻撃を何とか受け流している。
 『不死の騎士』が長さ3メートルを超える剣を一振りするたびに周囲には衝撃波が生じ、それだけでも哪吒太子を押し気味に見える。
 しかし……。

 「…くっ!世界を渡るのにあまりにも消耗したようです…。」
 エレーナさんが早くも脂汗をかきながら荒い息を吐いている。
 後で聞いたのだが、万全なら二~三時間くらい『武装化』が続くのだそうだが、この時のエレーナさんの状態は今にも力尽きそうな感じになっており、桜姫と僕は左右からエレーナさんが倒れないように何とか支えた。

 「…ナースチャ!感じているかと思いますが、私があまりもちません!申し訳ないけど、早く決着を付けてください!」
 「わかった!じゃあ、いくぜ!!」
 ナースチャが気合いを込めると、『精霊剣』がその輝きをさらに大きく増し、太陽以上の輝きに、僕たちは目を開けていられなくなった。

 「陽光剣!!」
 ナースチャが輝く剣を横に一閃し、哪吒太子の剣と来ていた鎧が、全てバラバラになって落ちた。

 「あれ、斬られたと思ったけど、本体は無事なの?」
 「ああ、これは『生きている者以外』を全て叩き斬る剣技なのだよ。」
 哪吒太子は地面に降り立ってへたり込み、ナースチャも武装を解いて荒い息をしている。

 そして、僕たちも結界が消え、荒れ地に元通り立っている。
 エレーナさんは…今度は桜姫が膝枕をしている。

 「参りました。『明らかに命に手心』加えてもらって、これ以上やったら恥だね。」
 哪吒太子は苦笑いしている。

 「少し聞きたいんだが、あんたが俺たちを攻撃する意図がわからないんだが…。どうみても『単に戦いたがる』という以上の理由があるんじゃないのか?
 妨害役がどいつもこいつも単なる悪役とは思えないような動きをしているようにしか見えないんだが…。」
 「…そうだね…。ネタばれさせちゃいけないけど、君の仲間に何人か『原作』に詳しい人がいるみたいだね。
 そういう人が『Wikiなんとか』を読んだらいろいろヒントがあるんじゃないのかね?俺でも推測くらいしかできないんだが…」
 「…な、あなたは何をおっしゃってるんですか?!!」
 ナースチャと哪吒太子の会話に桃花観音様は愕然としている。

 「おっと、これ以上いるとよろしくないことまで言ってしまいそうだ!
 じゃあ、ナースチャさん!ご武運をお祈りしますよ♪」
 にやりと笑うと、哪吒太子は再び焔を吹く車輪に乗って、天を駆けていった。

 「肝心なことは言わずに行っちゃうんだな…。」
 ナースチャが苦笑しながら哪吒太子の飛んでいった跡を目で追っている。

 「まったくだ、思ったよりいいやつだったね。
こんなことなら『きちんと口説いて』おけばよかった!」
 カイザスさんは相変わらず『悪い意味でブレない』ですね!!


 「ナースチャさん!エレーナさんの様子が!!」
 桜姫に膝枕されたエレーナさんの様子がおかしいようだ!
 僕たちは慌ててエレーナさんの方に駆け寄った。

 「ああ、私ダメかもしれない…。」
 「エレーナ!しっかりしろ!!」
 「…ナースチャが『キス』してくれたら、何とかなるかもしれない…。」
 いやいや、この人もカイザスさん並みにおかしいんですけど??!!

 「……えーーーと…エレーナ?」
 ナースチャが何とも言えない気まずい表情に変わる。

 その時、僕のつけていた腕輪が以前ベヒモスを撃退した時のように金色の光を放った。
 「レベルアップおめでとうございます!哪吒太子を撃退したことで、みなさまレベルアップしました。特に巧人君の貢献が大きかったので、それ以外に『ご褒美』があります♪」
 僕の腕輪から身長三〇センチくらいのSDキャラ風の女性が姿を現し、宙に浮いている。
 僕が二度召喚された際に助けてくれた魔法使い(女神?)アルテアさんと同じ声をしており、姿もアルテアさんによく似ている。

 「本人の自己申告も含め、『もう戦力にならない?』エレーナさんを無事帰還させてあげますね♪」
 SDアルテアさんがニコニコ宣言すると、エレーナさんががばっと起き上る。

 「あ、なんだか、急に元気が出てきたな♪」
 「ダメでーす♪ドクターストップでーす♪」
 SDアルテアさんが呪文を唱えると、空中に魔方陣が浮かび上がり、たくさんの光の触手がそこから出てきて、エレーナさんにしがみついた。

 「待って!ちょっと待って!せっかく来たのに――!!」
 「ほーら、この程度の魔法を自力で振りきれないようでは、危なくて仕方ありませーん♪大人しく元の世界で『二人が仲良くなって帰還』するのを待ってくださーい♪」
 エレーナさんが抵抗空しくどんどん魔方陣に引き込まれていく。

 それでもがんばって引きずられまいとしていたが、ついにエレーナさんの上半身が魔方陣に飲み込まれた。
「くっ!巧人さん!責任もってナースチャを守るのよ!なにかあったら承知しないんだから!!」
 僕に向かって叫ぶとエレーナさんはそのまま魔方陣の中に姿を消した。

 「さあて、それじゃあ私も引っ込みますか♪」
 「アルテアさん、待って!今回の事件、いろいろおかしいよね!」
 SDアルテアさんに向かってナースチャが叫ぶ。

 「そうねえ…。確かにいろいろ裏はありそうだけど…ちょっとヒントが足りないわね…。まあ何かあったらまた呼んでね。召喚エネルギーがたまっていたら出てくるから♪
 じゃあ、『お二人とも仲良く』ね♪」
 僕たちに手を振るとSDアルテアさんは姿を消した。


~~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆~~


 僕たちは少し休憩し、旅を再開することにした。
 僕たち四人はもちろん、元祖三蔵法師一行も桃花観音様も無事だった。

 そして、元祖孫悟空は……まだヘタレているんですが?!!
 あなたは『エ◎ァンゲ◎オンの主人公』ですか?!

 「三蔵法師様、もう放っておきましょうよ。悟空の兄貴は置いておいて、われわれだけで天竺を目指しましょう。」
 沙悟浄さんは元祖三蔵法師に一生懸命声を掛けている。思ったよりずっといい人だったのだね。
 「やめましょうよ。沙悟浄の姉御。俺たち三人では妖怪が来たらまともに対処できませんよ…。」
 …猪八戒も相変わらずのヘタれぶりのようです…。

 「そうですよ、三蔵法師さん!もし皆さんが怪我とかされてリタイアされたら…『私の責任問題』になるじゃないですか!!」
 桃花観音様は、悟空よりさらに質が悪いよね?!

 「思ったんだが、三蔵法師さんと沙悟浄は我々と合流してはどうだろうか?」
 カイザスさんがにこっと笑う。

 「かぶる場合は適度に役割を変えるのだよ。元祖三蔵法師様はそのままで、ナースチャも孫悟空のまま。桜姫は『マスコット』、私は『沙悟浄』で沙悟浄は『猪八戒』。そして巧人は『馬』役でどうだろうか?」
 「いえ、カイザスの兄貴。私本名が沙悟浄なんですが、猪八戒に変える意味はあるのでしょうか?」
 沙悟浄さんが当然のツッコミを入れる。

 「…で、ではだね……。元祖三蔵法師様とナースチャ、沙悟浄、巧人はそのまま。
 そして、、私は『風車の佐七』、桜姫は『お風呂忍者』でどうだろうか?」
 それは西遊記ではなく、『水戸黄門』ですよね?!

 「カイザスさん!待ってください!それでは私のお風呂が覗かれるみたいじゃないですか!!」
 桜姫がぷりぷりしている。

 「はっはっは!ご安心を!私が覗くのは巧人だけです♪」
 「「「「「……。」」」」」

 「おーい、ここは砂浜でなくて、砂漠だよ。首まで埋められたら脱出が大変じゃないか?!」

 こうして我々は人数を増やして『前途多難な』旅を再開したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

まじぼらっ! ~魔法奉仕同好会騒動記

ちありや
ファンタジー
芹沢(せりざわ)つばめは恋に恋する普通の女子高生。入学初日に出会った不思議な魔法熟… 少女に脅され… 強く勧誘されて「魔法奉仕(マジックボランティア)同好会」に入る事になる。 これはそんな彼女の恋と青春と冒険とサバイバルのタペストリーである。 1話あたり平均2000〜2500文字なので、サクサク読めますよ! いわゆるラブコメではなく「ラブ&コメディ」です。いえむしろ「ラブギャグ」です! たまにシリアス展開もあります! 【注意】作中、『部』では無く『同好会』が登場しますが、分かりやすさ重視のために敢えて『部員』『部室』等と表記しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

処理中です...