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第2話 卒業したら、さよならだよね
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二月になって、私たちが一緒に帰る日はうんと少なくなった。登校日が少なくなったことは、私の感情を平穏へと導いていた。
佳恵がコイバナを繰り広げてこようと、惚気を聞かせてこようと、その日を乗り切ればしばらく会わなくて済むのだ。私の執着は道端で溶けかけた雪の山だ、人に踏まれて黒くあとがついたまま、ゆっくりと消えるのを待つだけだ。
「炬燵、結局出さなかった」
「え~~。炬燵ないと無理。佐知、風邪ひくゾ」
佳恵の風邪ひくゾ、はおどけるような響きがある。久しぶりの登校日でも、やはり私から寄り道の提案はしない。
バス停に向かういつもの道も、あと数日で見納めだ。
「さっさと帰ろ」
「佐知」
佳恵の声は、いつでも私に特別に響く。後ろからでも。
「もうすぐ卒業だね」
佳恵の話す「卒業」は、私が「卒業」に感じるのと同じような意味を持ってはいない。ただの世間話だ。
私にとってこの卒業は、卒業したらみんなで会おうとか、そういう世間話の中に滑り込んではいかない内容を含んでいる。すべての季節を美しくした不思議な原因との決別だ。
ときめきは要らない。恋愛も青春も要らないから、ただ自分を否定しないでいられる環境と、大切な人の幸せを遠くから願える平和な時間が欲しい。穏やかな孤独が欲しい。
「佐知とも、もう会わなくなるんだね」
佳恵の声が、後ろから私を刺した。言葉が出なかった。
なに? どうしてそんな、会わなくなるのが当たり前みたいに。
卒業したらもう会わなくなるんだね。
卒業しても遊ぼうよ。そんなこと言わないで。会おうよ、卒業しても。
普通の友達にだったら、そう返していただろう。卒業してもまた集まろうとか、会おうとか、そんな言葉を交わし合った友人たちとは明らかに違う、会わなくなるのが当然という物言いでも。
佳恵にもわかっているのだ。私たちには何もない。卒業しても二人だけで会うような、共通の趣味も、話題も、何もない。私たちにあったのは、時間と、空間だけだ。あの豊かな、一緒に味わった時間と空間だけ。
「そうだね」
私の声は冷たい響きを帯びた。そうしなければ、ひゅうという音とともに、嗚咽しそうだった。
せめて、佳恵からは、もう少し一緒にいたいという素振りが欲しかった。
わかってる。私がそうしたがったんだ。私がもう、好きでいるのを、終わりにしたかったから。
わかってる。わかってる……。
佳恵は黙り込み、何も言わずに私の後ろから付いてきた。一言も交わさずにバスを待ち、バスが来て乗り込む時に、言った。
「バイバイ」
「うん……」
自分から、「またね」と言いたくない。感情はまだ私を放してくれない。どんなに、もっと優しくするべきだった、もっと伝えるべきだったと思っても、いつも後から思うばかりで、思った事の十分の一も伝えることができない。
言えよ。またねって。明日ねって。卒業しても会おうって。言えよ。
「バイバイ」
私は四文字を口から放ち、手を振った。
バイバイ、だって。
卒業式でも佳恵は言うだろう。バイバイ、と。私も言うだろう。
佳恵は冷たい。
冷たいのは私だ。自分からそうなるようにしていたくせに。卒業しても遊ぼうと言われたら、困るのは私だっただろうに。
それでも。
可愛い。私、白い花が一番好き。小さいともっと好き。ユキヤナギとか、カスミソウ。
喋れてるじゃん今。
同じだよ。私も、あなたの前で本当の気持ちを喋れたことは、一度もないよ。
伝えたい言葉は音も立てずに降り積もり続け、三年目の桜が散ったあとも未だ解ける萌しは見えない。
佳恵がコイバナを繰り広げてこようと、惚気を聞かせてこようと、その日を乗り切ればしばらく会わなくて済むのだ。私の執着は道端で溶けかけた雪の山だ、人に踏まれて黒くあとがついたまま、ゆっくりと消えるのを待つだけだ。
「炬燵、結局出さなかった」
「え~~。炬燵ないと無理。佐知、風邪ひくゾ」
佳恵の風邪ひくゾ、はおどけるような響きがある。久しぶりの登校日でも、やはり私から寄り道の提案はしない。
バス停に向かういつもの道も、あと数日で見納めだ。
「さっさと帰ろ」
「佐知」
佳恵の声は、いつでも私に特別に響く。後ろからでも。
「もうすぐ卒業だね」
佳恵の話す「卒業」は、私が「卒業」に感じるのと同じような意味を持ってはいない。ただの世間話だ。
私にとってこの卒業は、卒業したらみんなで会おうとか、そういう世間話の中に滑り込んではいかない内容を含んでいる。すべての季節を美しくした不思議な原因との決別だ。
ときめきは要らない。恋愛も青春も要らないから、ただ自分を否定しないでいられる環境と、大切な人の幸せを遠くから願える平和な時間が欲しい。穏やかな孤独が欲しい。
「佐知とも、もう会わなくなるんだね」
佳恵の声が、後ろから私を刺した。言葉が出なかった。
なに? どうしてそんな、会わなくなるのが当たり前みたいに。
卒業したらもう会わなくなるんだね。
卒業しても遊ぼうよ。そんなこと言わないで。会おうよ、卒業しても。
普通の友達にだったら、そう返していただろう。卒業してもまた集まろうとか、会おうとか、そんな言葉を交わし合った友人たちとは明らかに違う、会わなくなるのが当然という物言いでも。
佳恵にもわかっているのだ。私たちには何もない。卒業しても二人だけで会うような、共通の趣味も、話題も、何もない。私たちにあったのは、時間と、空間だけだ。あの豊かな、一緒に味わった時間と空間だけ。
「そうだね」
私の声は冷たい響きを帯びた。そうしなければ、ひゅうという音とともに、嗚咽しそうだった。
せめて、佳恵からは、もう少し一緒にいたいという素振りが欲しかった。
わかってる。私がそうしたがったんだ。私がもう、好きでいるのを、終わりにしたかったから。
わかってる。わかってる……。
佳恵は黙り込み、何も言わずに私の後ろから付いてきた。一言も交わさずにバスを待ち、バスが来て乗り込む時に、言った。
「バイバイ」
「うん……」
自分から、「またね」と言いたくない。感情はまだ私を放してくれない。どんなに、もっと優しくするべきだった、もっと伝えるべきだったと思っても、いつも後から思うばかりで、思った事の十分の一も伝えることができない。
言えよ。またねって。明日ねって。卒業しても会おうって。言えよ。
「バイバイ」
私は四文字を口から放ち、手を振った。
バイバイ、だって。
卒業式でも佳恵は言うだろう。バイバイ、と。私も言うだろう。
佳恵は冷たい。
冷たいのは私だ。自分からそうなるようにしていたくせに。卒業しても遊ぼうと言われたら、困るのは私だっただろうに。
それでも。
可愛い。私、白い花が一番好き。小さいともっと好き。ユキヤナギとか、カスミソウ。
喋れてるじゃん今。
同じだよ。私も、あなたの前で本当の気持ちを喋れたことは、一度もないよ。
伝えたい言葉は音も立てずに降り積もり続け、三年目の桜が散ったあとも未だ解ける萌しは見えない。
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