オーロラの雨

銀色小鳩

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オーロラの雨

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もしきみが

ひとりで暗闇をみつめ

うずくまるようになったら

思い出してほしい



オーロラの写真をみた日のことを



きみの小さなゆびが図鑑をめくり

まだ見たことのない写真のオーロラを目に映したとき

きみの目が見ていたのは図鑑の紙面ではなく

広大な宇宙だった



目の中に夢を映すきみを取り戻せるなら

わたしは空から何度でも雨を降らせたい



とんとん

とん

ぽつ ぽつぽつ



きみの可愛いつむじ

きみのまだ細い頼りない肩

思い出して 思い出してと

何度もたたこう



この子はちゃんと 育つのか

大人になって 困りはしないか



これしちゃだめ、あれしちゃだめ

これしておきなさい、あれしておきなさい



ごめんね

おかあさん、焦って

本来自由だったきみの目まで

暗闇にしずめてしまうんじゃないかと思うことがある



足元のおぼつかないきみに

危ないよ

そっちいっちゃだめ

何度も制止のことばをかけたら

ゼロか百かしかないきみは

たちすくんでしまう



本来自由だったきみの目まで

きみの未来まで

暗闇にしずめてしまうんじゃないかと思うことがある



いつか宇宙の塵になったとき

ただの暗闇の中にわたしは滑り込み

疲れきった時にきみをひととき守る隠れ家になる



隠れ家のことは

隠れたいときだけ思い出せばいい

進むときには忘れていてほしい



もしきみが

ひとりで暗闇をみつめ

うずくまるようになったら

思い出してほしい



とんとん

とん

ぽつ ぽつぽつ



雨がきみの肩をたたいたら

空をみあげてほしい



現実で起こる摩擦は

ただの色としてそこにある

図鑑の写真から宇宙が見えたように

雨雲からもきみならオーロラを見ることができる



また始まる戦いの前に、ひととき

オーロラの雨で傷ついた目を洗って

良いも悪いもなにもない

ただの空間に包まれるように一人浮かんで

透明なきみの目で見上げれば



そこには

衝突するほどに発光する多色の宇宙

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