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焼きりんご
焼きりんご 第7話
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一度あんな変な泣き方をしてしまったにも関わらず、はるかが私に触らなくなる事はなかった。
ただふざけてイチャイチャするだけだったり、その延長でだんだんと熱くなってしまったり、完全に最初からそういう目的だったり、きっかけはいろいろだ。ただ一ついえることは、はるかは、他の男性にくらべて、かなり丁寧だ。こっちがおかしくなりそうなほど、じっくりと触れてくる。
私はもうあんな風に悲しい気持ちが混ざったみたいに泣くことはなくなっていたけど、はるかのゆっくりと追い詰めてくる触れ方のせいで、最後には泣き出してしまうことがあるのは変わらなかった。そして、今度は別のことが気になりはじめた。
はるかが突然、ころんと体勢を変えて、目をとじる。
キスしてほしい、とはるかは言う。好きにしてくれてかまわない、とはるかは言う。いいですよ、児嶋さんがするなら、なれてなくても、痛くても、キスだけでも、抱っこだけでも、なんでも。何もしなくてもいいです。でも、何か怖いんですか。なにか怖いんなら、児嶋さんも私を好きなようにしていいですから――。
そう言われると、困ってしまう。はるかに触れたくはなるのだ。
でも、そんなことはなかなかできない。なにかされるよりも、自分がするほうが、気恥ずかしい。はるかに導いてもらって、同じようにしようとする。でも、うまくいかないのだ。
それに、はるかは私に爪を切らせてくれない。
私の趣味はネイルだった。もともと仕事でパソコンのキーボードに触れるときに邪魔にならない程度に短くはしてあるが、深爪まではいっていない。それでは傷つけるから、切ってしまった。それを、はるかは怒った。
短いなら短い爪に似合うようなネイルアートに切り替えればいいだけなのに、むしろそういう用途やTPOに合わせて考え出すことの方がよほど面白いのに。
私は別に趣味で力を入れてる爪を切ってまでそんなことしてほしいわけじゃないんです。っていうか何もしなくてもいいぐらいなんです。指いれないでください。それでいいじゃないですか。充分なんです。
そんなこといわれたって――。もともと人の中というのは未知の世界でありすぎた。外だけでどうにかしようとする、もともとそっちのほうが楽なんだろうとは思う。でも、それすらもうまくいかない。
言ってしまおう。爪は関係ない。わからないのだ、単に、どうしていいのかわからない。
力かげんがわからない、抵抗がある、恥ずかしい、急にいわれても、なかなかうまくいかない。女同士だからわかるなんて嘘だ、私とはるかでは体つきが違う、全く同じわけじゃない。
はるかには言っていないが、わたしは一人ですることがある。それなのにわからない。わたしにいいように触れても、はるかにとってそれが強いのか弱いのか、よくわからない。
男性よりもわかりにくい、どこまでしたら満足なのかがわからない。はるかは気持ちよさそうにはしているけど、ちゃんと満足できるところまで感じているのかいないのか、どうもピンとこない。ピンと来ないということは、つまりはるかはイってはいないんだと思う。ただ、嬉しそうだとは思う。
そして、女の直感は、カチリ、とはるかの今までに焦点を合わせて、はるかを探ろうとする。
ねぇ? はるか? なんでこんなに巧いの? いくらなんでも、やけに馴れていない?
戸惑いが、はるかにはあまりになさすぎた。もちろん私にあわせて、私のいいところを新しく探ってくれてはいる。でも、わかるのだ。
はるかは馴れている。沙耶だかなんだかといろいろ試したのかもしれないが、一人との経験だけで語れないほど馴れている。
妙にはるかは的確だった。探り方が的確だった。ちょっとしてみたことが、私には効かない、感じないようだと判断すると、無理に同じ触れ方はしないで、すぐに別の触れ方をした。
私の気持ちの変化にはるかは敏感だ。はるかの目は私の感情をとらえている、私の心を新鮮だと感じている。私の指や、髪や、肌に、これ以上ないというぐらい驚き、震えながら触れることがある。でも、自分のすることがそれでいいのか、みたいな戸惑いがあまりない。私はこんなに戸惑うのに。いったい、どんな経験があるの?
自分で女性に触れようとしたことは今までなかったから、気づかなかった。女性の扱いは難しい。自分がそうしようと思えば思うほど、わかってしまう。はるかはかなり上手い……。合わせ方がうまい、どこか柔軟で、余裕がある。
別に、はるかが過去に誰かと経験していることはイヤじゃない。そこまで私はウブでもない。というか、巧いなら巧くいてくれたほうが、リードしてもらえるし、痛くもないし、気持ちもいいし、別にそんなことはこだわらない。
私がこだわっているのはだから、はるかが一人の人間をどのくらい愛していたかということだった。それと比べて私をどのくらい好きなのかということだった。
経験があるかどうかはどうでもいい。過去は本当にどうでもいい。でも、何人とどんな経験があるのかは気になるよ。
それって、はるかの今までの恋愛のしかたって、結局これからどうなるかにすごく関係あるよね?
気持ちいいのはイヤじゃない。でも、気持ちよすぎて、そのときは何も考えられないけど、ここまでなのは怖い。
たぶん、逆にこれが遊びから始まったような関係だったら、私はそこまで不安にはならなかったんだと思う。でも、はるかの目はものすごく真剣で。はるかを見ていると、この子は私に恋をしているんだというのが伝わってくる。強烈で、強すぎる感情を、はるかの瞳はときどき伝えてくる。友情や愛情なら長く続くだろう、でも、はるかのこの感情は、生々しくて、怖くなる。はるかはこの気持ちが冷めたとき、どうするんだろう? ぷいとどこかへいなくなってしまうのだろうか。私に直接こんなに強い跡をのこして。
ただふざけてイチャイチャするだけだったり、その延長でだんだんと熱くなってしまったり、完全に最初からそういう目的だったり、きっかけはいろいろだ。ただ一ついえることは、はるかは、他の男性にくらべて、かなり丁寧だ。こっちがおかしくなりそうなほど、じっくりと触れてくる。
私はもうあんな風に悲しい気持ちが混ざったみたいに泣くことはなくなっていたけど、はるかのゆっくりと追い詰めてくる触れ方のせいで、最後には泣き出してしまうことがあるのは変わらなかった。そして、今度は別のことが気になりはじめた。
はるかが突然、ころんと体勢を変えて、目をとじる。
キスしてほしい、とはるかは言う。好きにしてくれてかまわない、とはるかは言う。いいですよ、児嶋さんがするなら、なれてなくても、痛くても、キスだけでも、抱っこだけでも、なんでも。何もしなくてもいいです。でも、何か怖いんですか。なにか怖いんなら、児嶋さんも私を好きなようにしていいですから――。
そう言われると、困ってしまう。はるかに触れたくはなるのだ。
でも、そんなことはなかなかできない。なにかされるよりも、自分がするほうが、気恥ずかしい。はるかに導いてもらって、同じようにしようとする。でも、うまくいかないのだ。
それに、はるかは私に爪を切らせてくれない。
私の趣味はネイルだった。もともと仕事でパソコンのキーボードに触れるときに邪魔にならない程度に短くはしてあるが、深爪まではいっていない。それでは傷つけるから、切ってしまった。それを、はるかは怒った。
短いなら短い爪に似合うようなネイルアートに切り替えればいいだけなのに、むしろそういう用途やTPOに合わせて考え出すことの方がよほど面白いのに。
私は別に趣味で力を入れてる爪を切ってまでそんなことしてほしいわけじゃないんです。っていうか何もしなくてもいいぐらいなんです。指いれないでください。それでいいじゃないですか。充分なんです。
そんなこといわれたって――。もともと人の中というのは未知の世界でありすぎた。外だけでどうにかしようとする、もともとそっちのほうが楽なんだろうとは思う。でも、それすらもうまくいかない。
言ってしまおう。爪は関係ない。わからないのだ、単に、どうしていいのかわからない。
力かげんがわからない、抵抗がある、恥ずかしい、急にいわれても、なかなかうまくいかない。女同士だからわかるなんて嘘だ、私とはるかでは体つきが違う、全く同じわけじゃない。
はるかには言っていないが、わたしは一人ですることがある。それなのにわからない。わたしにいいように触れても、はるかにとってそれが強いのか弱いのか、よくわからない。
男性よりもわかりにくい、どこまでしたら満足なのかがわからない。はるかは気持ちよさそうにはしているけど、ちゃんと満足できるところまで感じているのかいないのか、どうもピンとこない。ピンと来ないということは、つまりはるかはイってはいないんだと思う。ただ、嬉しそうだとは思う。
そして、女の直感は、カチリ、とはるかの今までに焦点を合わせて、はるかを探ろうとする。
ねぇ? はるか? なんでこんなに巧いの? いくらなんでも、やけに馴れていない?
戸惑いが、はるかにはあまりになさすぎた。もちろん私にあわせて、私のいいところを新しく探ってくれてはいる。でも、わかるのだ。
はるかは馴れている。沙耶だかなんだかといろいろ試したのかもしれないが、一人との経験だけで語れないほど馴れている。
妙にはるかは的確だった。探り方が的確だった。ちょっとしてみたことが、私には効かない、感じないようだと判断すると、無理に同じ触れ方はしないで、すぐに別の触れ方をした。
私の気持ちの変化にはるかは敏感だ。はるかの目は私の感情をとらえている、私の心を新鮮だと感じている。私の指や、髪や、肌に、これ以上ないというぐらい驚き、震えながら触れることがある。でも、自分のすることがそれでいいのか、みたいな戸惑いがあまりない。私はこんなに戸惑うのに。いったい、どんな経験があるの?
自分で女性に触れようとしたことは今までなかったから、気づかなかった。女性の扱いは難しい。自分がそうしようと思えば思うほど、わかってしまう。はるかはかなり上手い……。合わせ方がうまい、どこか柔軟で、余裕がある。
別に、はるかが過去に誰かと経験していることはイヤじゃない。そこまで私はウブでもない。というか、巧いなら巧くいてくれたほうが、リードしてもらえるし、痛くもないし、気持ちもいいし、別にそんなことはこだわらない。
私がこだわっているのはだから、はるかが一人の人間をどのくらい愛していたかということだった。それと比べて私をどのくらい好きなのかということだった。
経験があるかどうかはどうでもいい。過去は本当にどうでもいい。でも、何人とどんな経験があるのかは気になるよ。
それって、はるかの今までの恋愛のしかたって、結局これからどうなるかにすごく関係あるよね?
気持ちいいのはイヤじゃない。でも、気持ちよすぎて、そのときは何も考えられないけど、ここまでなのは怖い。
たぶん、逆にこれが遊びから始まったような関係だったら、私はそこまで不安にはならなかったんだと思う。でも、はるかの目はものすごく真剣で。はるかを見ていると、この子は私に恋をしているんだというのが伝わってくる。強烈で、強すぎる感情を、はるかの瞳はときどき伝えてくる。友情や愛情なら長く続くだろう、でも、はるかのこの感情は、生々しくて、怖くなる。はるかはこの気持ちが冷めたとき、どうするんだろう? ぷいとどこかへいなくなってしまうのだろうか。私に直接こんなに強い跡をのこして。
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