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果実 派遣先の先輩を好きになりたくない
果実 第19話
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「こら。児嶋さん。ほんと、完全に酔っ払い……」
玄関先で倒れるように抱きついてきた児嶋さんが、酒の匂いのする息を吐いて、満足そうに口の端をあげた。
「抱っこ」
「……うん?」
玄関に座り込んだまま、ぎゅっと抱きしめる。児嶋さんは甘えるように頭をすりつけて、もっと、と言った。
「もっと?」
「もっと」
駄目だ、もう。キスしたい……。
「児嶋さん」
力を入れて抱きしめながら、頬に口付けた。このぐらいは許して。
「ん……もっと」
「え?」
びっくりして、児嶋さんの体を離して顔を覗き込む。
児嶋さんが私を見返す。瞳がぼうっと潤んでいる。
もう、いいって、……ことだよね、これ。
「ん……」
唇を、唇にゆっくりと触れ合わせる。児嶋さんは目をとじて、おとなしくされるままになっていた。その表情が満足げで。
めちゃくちゃ可愛い。
もう、どうしてしまおう。どうしたいんだ、私……。
彼女の体を抱きしめて、彼女ぜんぶ、存在ごと、撫でてしまいたい。もどかしい――。自分の手が2本しかないことが。肩や腕に触れて、撫でて。目の下に口付ける。体が、全部魂になってしまったように、ジンジンと響く。
「ん」
突然児嶋さんが身じろいだ。
目が合うと、彼女は顔中真っ赤に火照らせた。
「麻生さん、」
肩から背中へ手を滑らせると、彼女は私を押し返した。
「え、待って! ダメ!」
「え? だめ?」
児嶋さんの身体を引き離し、彼女の目を見た。何を考えているのだろう、そこにはうっすらと赤い肌をして、目を見開いて私を怯えてみている子供のような目があった。
大丈夫、大丈夫、何もしないから。そう言いたくなるような目。多少罪悪感にかられて、私は自分の行動をのろった。
「約束ですもんね。そうでした」
冷静に――冷静になれ。冷静に。せっかく、来てくれたんだ。前みたいに、部屋まで来てくれた。本当だったら口もきいてもらえないところを。
あれ? でも、今のは児嶋さんのほうから「もっと」って言ってなかったか? くらくらして、よくわからない――。
「パジャマ、着替えてください」
着替えを取りに立ち上がったとたん、児嶋さんは焦ったように私を見上げた。
児嶋さんに貸すパジャマ……なるべく綺麗に畳んであるものがいいよね。引き出しを漁る。
腰に、後ろからぎゅっと腕が回ってきた。一瞬手が止まりかけた。私は冷静を装った。
「酔うとさみしくなっちゃうんですか?」
声がかすれる。かわいくってくらくらする。パジャマを引き出しからひっぱりだす間、児嶋さんは後ろから抱きついたままでじっと私の手元を見ていた。
近い……。児嶋さんの息が顔にかかる。近すぎる。心が過剰反応を起こすのを、必死に気取られまいとした。手元を見ないでほしい、指先が震えている、ああ、なに緊張してるんだ、私は。
何秒か前には大胆に動けた私の身体は、いっぺん拒否されただけで、無視された時間を思い出して臆病になってしまっている。
「いいよ。着なくていい」
「パジャマがいいんです!」
思わず悲鳴のようになった。児嶋さんがきょとんと私の顔をのぞきこむ。
「パジャマのほうがミニスカートよりもムラムラしないんです。着てください! パジャマ萌えぐらいで充分です」
何を言ってるんだ……。でもどうせ酔ってる。このくらい言ってもいいだろう。パジャマを押し付けると、児嶋さんが私を正視した。彼女のほうも怒ってる顔だ、これは。
「萌えないよ!」
「……はい?」
彼女は私の手を自分の胸に当てさせた。
「ムラムラとか、ないでしょ?」
「いや、私、貧乳好きですよ?」
思わず言ってしまった。あったらあったでいいけど、なくっても、児嶋さんの胸は充分にエロいし、乳首が可愛い……。
「貧乳なんだ、私」
「え……ええと……」
彼女はぷうっと膨れた。隆史とやらは巨乳好きか? 巨乳好きの男になったつもりで児嶋さんを見ると、確かにたいへん貧相だ。
彼女はワンピースをバサッと脱いだ。
「ちょっと……児嶋さん、このまえ自分が襲われたの、わかってます?」
パジャマを上から被せ、下から順番にボタンを留めてやる。児嶋さんは途中でぐらっとゆれてタンスに手をついた。
「抱っこ」
「ぜんぶ着てからにしましょ」
「抱っこ……!」
燃えるような、怒ってでもいるかのような視線。児嶋さんは自分から私に手を伸ばして、抱きついてきた。
児嶋さんの頭に顎を乗せて、私はどう動こうか、本気で迷いはじめた。
「わざとやってますよね?」
彼女は黙っている。掛け違ったボタンの合間から、魅惑的な素肌の匂いがあふれ出ている。ミニスカートよりパジャマのほうがムラムラしないと言ったのは誰だ? パジャマのほうが凶悪じゃないか? こんな、誘うような真似をされて、変な気を起こすなと……。
「児嶋さん。ねぇ。児嶋さん、本当に、今、私、押し倒したいんですけどね?」
児嶋さんは少し身体を離して、私をじっと見つめてきた。
「抱っこ」
「……そんなことしてると、襲いますよ」
胸元がはだけて、酒のせいかひどく火照った肌だった。
「いいよ」
喉元で、ずきんと欲求が耳をそばだてた。え。いいの。
「ほんとにしますよ。襲いますよ、いいんですか」
児嶋さんは潤んだ目で私を見ている。なに、そのうるうる加減。
「いいよ」
別に、胸なんかにムラムラするわけじゃないんです。あなたの存在にムラムラするんです。仕草とか、声とか、空気とかでもう駄目なんです。手つないだだけで濡れてるんです。そんな視線を使われたらこっちはスイッチ切り替わってしまう。
だいたい、抱っこ抱っこというが、抱っことセックスの差だって、私にはわからない。抱きしめたい気持ちと撫でたい気持ちは地続きだ。
くっつきたくて、溶け合ってしまいたくて。誰も知らないぐらいの児嶋さんが見たくて。どこまでだったらいいのかなんてわかりもしない。
手のひらを彼女の体に押し付け、擦り撫でるようにして、肩から腕を包むように抱きしめた。強く抱きしめて、それでもまだ足りない。彼女の顔をこっちに向けて口づけても、まだ足りない。私は彼女に入っていけないもどかしさに息を切らせる。
頬ずりをして、耳を噛んで、顔中にキスをした……。これだけで身体がふわふわと浮いてしまう。充分だけど……児嶋さんが喉の奥で、息を止めた音が聞こえたから。もっと聞きたくなった。
開いた胸元から手を滑らせた。指は彼女の肌を感じてまわり、徐々に敏感な先端を含んだカップの中に入り込む。
「や……」
「言いました。いいって」
優しく、説得するように。児嶋さんの耳元で言う。
親指で捏ねて、中指ではじいてつまんだ、彼女の声を早く聞きたくて。
「ん、……ん、」
もっと声をだして。息を乱して。私を呼んでください、そして抱きついて。
「うぅ……」
急に、声に涙の色が混じった。
児嶋さんが、私にしがみついたままで嗚咽を始めた。一瞬やめようかと思ったが、嗚咽の声がイくときの声にも似ていてゾクッときたのもあり、私はやめなかった。
「ダメですよ。……泣くとか。ここまで挑発しておいて、それはない」
「っ、う、」
彼女は私の手をはたきだした。
「いゃ、ぃぁ……ひぐぅ……うぅ、うぅえっ……!」
私は手を止めた。彼女は本格的に泣き出してしまっていた。
「さ、さわ、触らないで」
「な、なに? 自分のペースだったらいい……?」
「麻生さんの馬鹿! なにもしないで」
――エ~~……。
「それ……は、ひどくないですか……?」
私は体を離して、ベッドにもたれた。
「へこみました」
率直に言った。
私が悪いのか? いや確かに約束はした。でも、児嶋さんがいいといっても何もしないなんて、そんな約束していない!
児嶋さんは泣き顔のまま、ムッとした表情をした。ベッドにもたれた私の顔を覗き込み、そのまま胸に顔をうずめてきた。 これで私の機嫌が直ると思っているのだろうか。私は怒ってるわけじゃない、凹んでるだけだ。ちょっとほっといてくれれば、すぐにいつもの私に戻る。
「ちょっとほっといてください。怒ってるんじゃないんです。何もしないであげますから」
「抱っこ。麻生さん……」
「だから、そういうことしてると襲いますよって」
「だから、いいって」
うそをつけ。
ああ、もう。聞かない。聞かない。今のは聞かない。聞かなかった!
「自己嫌悪してるだけなんで。すぐに戻りますから」
「なによ……」
児嶋さんは恨めしそうに私を見つめ、ふいに立ち上がった。その指がさっき着せてあげておいて乱したままのパジャマの襟をつまみ、一番上のボタンをあけた。
玄関先で倒れるように抱きついてきた児嶋さんが、酒の匂いのする息を吐いて、満足そうに口の端をあげた。
「抱っこ」
「……うん?」
玄関に座り込んだまま、ぎゅっと抱きしめる。児嶋さんは甘えるように頭をすりつけて、もっと、と言った。
「もっと?」
「もっと」
駄目だ、もう。キスしたい……。
「児嶋さん」
力を入れて抱きしめながら、頬に口付けた。このぐらいは許して。
「ん……もっと」
「え?」
びっくりして、児嶋さんの体を離して顔を覗き込む。
児嶋さんが私を見返す。瞳がぼうっと潤んでいる。
もう、いいって、……ことだよね、これ。
「ん……」
唇を、唇にゆっくりと触れ合わせる。児嶋さんは目をとじて、おとなしくされるままになっていた。その表情が満足げで。
めちゃくちゃ可愛い。
もう、どうしてしまおう。どうしたいんだ、私……。
彼女の体を抱きしめて、彼女ぜんぶ、存在ごと、撫でてしまいたい。もどかしい――。自分の手が2本しかないことが。肩や腕に触れて、撫でて。目の下に口付ける。体が、全部魂になってしまったように、ジンジンと響く。
「ん」
突然児嶋さんが身じろいだ。
目が合うと、彼女は顔中真っ赤に火照らせた。
「麻生さん、」
肩から背中へ手を滑らせると、彼女は私を押し返した。
「え、待って! ダメ!」
「え? だめ?」
児嶋さんの身体を引き離し、彼女の目を見た。何を考えているのだろう、そこにはうっすらと赤い肌をして、目を見開いて私を怯えてみている子供のような目があった。
大丈夫、大丈夫、何もしないから。そう言いたくなるような目。多少罪悪感にかられて、私は自分の行動をのろった。
「約束ですもんね。そうでした」
冷静に――冷静になれ。冷静に。せっかく、来てくれたんだ。前みたいに、部屋まで来てくれた。本当だったら口もきいてもらえないところを。
あれ? でも、今のは児嶋さんのほうから「もっと」って言ってなかったか? くらくらして、よくわからない――。
「パジャマ、着替えてください」
着替えを取りに立ち上がったとたん、児嶋さんは焦ったように私を見上げた。
児嶋さんに貸すパジャマ……なるべく綺麗に畳んであるものがいいよね。引き出しを漁る。
腰に、後ろからぎゅっと腕が回ってきた。一瞬手が止まりかけた。私は冷静を装った。
「酔うとさみしくなっちゃうんですか?」
声がかすれる。かわいくってくらくらする。パジャマを引き出しからひっぱりだす間、児嶋さんは後ろから抱きついたままでじっと私の手元を見ていた。
近い……。児嶋さんの息が顔にかかる。近すぎる。心が過剰反応を起こすのを、必死に気取られまいとした。手元を見ないでほしい、指先が震えている、ああ、なに緊張してるんだ、私は。
何秒か前には大胆に動けた私の身体は、いっぺん拒否されただけで、無視された時間を思い出して臆病になってしまっている。
「いいよ。着なくていい」
「パジャマがいいんです!」
思わず悲鳴のようになった。児嶋さんがきょとんと私の顔をのぞきこむ。
「パジャマのほうがミニスカートよりもムラムラしないんです。着てください! パジャマ萌えぐらいで充分です」
何を言ってるんだ……。でもどうせ酔ってる。このくらい言ってもいいだろう。パジャマを押し付けると、児嶋さんが私を正視した。彼女のほうも怒ってる顔だ、これは。
「萌えないよ!」
「……はい?」
彼女は私の手を自分の胸に当てさせた。
「ムラムラとか、ないでしょ?」
「いや、私、貧乳好きですよ?」
思わず言ってしまった。あったらあったでいいけど、なくっても、児嶋さんの胸は充分にエロいし、乳首が可愛い……。
「貧乳なんだ、私」
「え……ええと……」
彼女はぷうっと膨れた。隆史とやらは巨乳好きか? 巨乳好きの男になったつもりで児嶋さんを見ると、確かにたいへん貧相だ。
彼女はワンピースをバサッと脱いだ。
「ちょっと……児嶋さん、このまえ自分が襲われたの、わかってます?」
パジャマを上から被せ、下から順番にボタンを留めてやる。児嶋さんは途中でぐらっとゆれてタンスに手をついた。
「抱っこ」
「ぜんぶ着てからにしましょ」
「抱っこ……!」
燃えるような、怒ってでもいるかのような視線。児嶋さんは自分から私に手を伸ばして、抱きついてきた。
児嶋さんの頭に顎を乗せて、私はどう動こうか、本気で迷いはじめた。
「わざとやってますよね?」
彼女は黙っている。掛け違ったボタンの合間から、魅惑的な素肌の匂いがあふれ出ている。ミニスカートよりパジャマのほうがムラムラしないと言ったのは誰だ? パジャマのほうが凶悪じゃないか? こんな、誘うような真似をされて、変な気を起こすなと……。
「児嶋さん。ねぇ。児嶋さん、本当に、今、私、押し倒したいんですけどね?」
児嶋さんは少し身体を離して、私をじっと見つめてきた。
「抱っこ」
「……そんなことしてると、襲いますよ」
胸元がはだけて、酒のせいかひどく火照った肌だった。
「いいよ」
喉元で、ずきんと欲求が耳をそばだてた。え。いいの。
「ほんとにしますよ。襲いますよ、いいんですか」
児嶋さんは潤んだ目で私を見ている。なに、そのうるうる加減。
「いいよ」
別に、胸なんかにムラムラするわけじゃないんです。あなたの存在にムラムラするんです。仕草とか、声とか、空気とかでもう駄目なんです。手つないだだけで濡れてるんです。そんな視線を使われたらこっちはスイッチ切り替わってしまう。
だいたい、抱っこ抱っこというが、抱っことセックスの差だって、私にはわからない。抱きしめたい気持ちと撫でたい気持ちは地続きだ。
くっつきたくて、溶け合ってしまいたくて。誰も知らないぐらいの児嶋さんが見たくて。どこまでだったらいいのかなんてわかりもしない。
手のひらを彼女の体に押し付け、擦り撫でるようにして、肩から腕を包むように抱きしめた。強く抱きしめて、それでもまだ足りない。彼女の顔をこっちに向けて口づけても、まだ足りない。私は彼女に入っていけないもどかしさに息を切らせる。
頬ずりをして、耳を噛んで、顔中にキスをした……。これだけで身体がふわふわと浮いてしまう。充分だけど……児嶋さんが喉の奥で、息を止めた音が聞こえたから。もっと聞きたくなった。
開いた胸元から手を滑らせた。指は彼女の肌を感じてまわり、徐々に敏感な先端を含んだカップの中に入り込む。
「や……」
「言いました。いいって」
優しく、説得するように。児嶋さんの耳元で言う。
親指で捏ねて、中指ではじいてつまんだ、彼女の声を早く聞きたくて。
「ん、……ん、」
もっと声をだして。息を乱して。私を呼んでください、そして抱きついて。
「うぅ……」
急に、声に涙の色が混じった。
児嶋さんが、私にしがみついたままで嗚咽を始めた。一瞬やめようかと思ったが、嗚咽の声がイくときの声にも似ていてゾクッときたのもあり、私はやめなかった。
「ダメですよ。……泣くとか。ここまで挑発しておいて、それはない」
「っ、う、」
彼女は私の手をはたきだした。
「いゃ、ぃぁ……ひぐぅ……うぅ、うぅえっ……!」
私は手を止めた。彼女は本格的に泣き出してしまっていた。
「さ、さわ、触らないで」
「な、なに? 自分のペースだったらいい……?」
「麻生さんの馬鹿! なにもしないで」
――エ~~……。
「それ……は、ひどくないですか……?」
私は体を離して、ベッドにもたれた。
「へこみました」
率直に言った。
私が悪いのか? いや確かに約束はした。でも、児嶋さんがいいといっても何もしないなんて、そんな約束していない!
児嶋さんは泣き顔のまま、ムッとした表情をした。ベッドにもたれた私の顔を覗き込み、そのまま胸に顔をうずめてきた。 これで私の機嫌が直ると思っているのだろうか。私は怒ってるわけじゃない、凹んでるだけだ。ちょっとほっといてくれれば、すぐにいつもの私に戻る。
「ちょっとほっといてください。怒ってるんじゃないんです。何もしないであげますから」
「抱っこ。麻生さん……」
「だから、そういうことしてると襲いますよって」
「だから、いいって」
うそをつけ。
ああ、もう。聞かない。聞かない。今のは聞かない。聞かなかった!
「自己嫌悪してるだけなんで。すぐに戻りますから」
「なによ……」
児嶋さんは恨めしそうに私を見つめ、ふいに立ち上がった。その指がさっき着せてあげておいて乱したままのパジャマの襟をつまみ、一番上のボタンをあけた。
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