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番外編
遊園地デート
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「ちょっと、デートっぽいこと、してみる……?」
そう言って遊園地に誘ったのは、暑がりのはるかが、部屋の中でぐったりと突っ伏したまま、ほとんど動かなくなったからだった。
はるかは、
「デート? デートですかぁ! 児嶋さん、行きたいんですよね?」
目をキラキラさせた。
子供みたいだ、と思う。
夏バテ対策でもあるから、プールか、お化け屋敷がいいだろう。お化け屋敷の充実した遊園地を選んだ。
プールは、行くなら可愛い水着で行きたいし。可愛い水着を着るなら、もう少しダイエットしてからにしたいし。
心づくしの私のデートプランに、当日、はるかはけちをつけた。
「オバケ屋敷はきらいです」
「ええっ!? はるかが?」
「合理的じゃないものにお金を使って、その事業を発展させるということなんですよ?」
キリッとした横顔。……怖いのか?
「この『恐怖の回廊』、行かないとして、次どこに行きたいですか?」
顔を寄せて、はるかはマップを覗きこむ。
「あ、時間的にね、『病院の遺体置き場』だと、時間埋められるみたい。そしたらその次の『夜の林間学校』にあまり並ばないで行けるんだけど」
はるかはにっこりと笑い、甘えるように、私の目を覗きこんだ。
「とりあえず、ハンバーガーでも食べて、次行くとこを考えませんか? 私は『小人たちのマーチ』に行きたいです。すっごい可愛いみたいです!」
「あ、それはね、ここで行こうと思ってるんだけど、どう?」
私は書き出してきていたメモを、はるかに見せた。夕方の4時からの回なら、他のイベントがあるため、小人たちのマーチは並ばなくても入れる。
「ナンデスカ、コレ……」
メモを見て、怖い声を出す。
「こういう回り方できたらいいかなって。はるかの行きたいとこあったら、言って?」
「オバケ屋敷ばっかりじゃないですか……」
罠にかかった動物のような恨みがましい目つきで見られた。
「だって、ここ、お化け屋敷が凄いから、選んだんだよ?」
はるかは目を丸くし、マップをもう一度眺め、そして、愕然として肩を落とした。
「メニューがさっきの小人と、メリーゴーランド以外、ほとんどオバケ屋敷とか……! ありえない。ありえない、この遊園地!」
私ははるかの手を引いて、自然と『病院の遺体置き場』へと誘導した。
「この遊園地、どうしたらホラー嫌いの一般客にも受けて儲かるのかを、考えた方がいいですよ。子供連れを呼び込むなら、オバケ屋敷だけじゃだめだし、カップルを呼び込むならジェットコースターとか、ドキドキ系のものと観覧車を入れたほうがいいし、え、何、何に並んでるんですか」
並んでいる途中で、はるかは、外で待っていると言いだした。
「そんなに怖いの? すぐ終わるよ。私もいるし、大丈夫だって」
「遊園地は早めに切り上げて、映画いきません? 怖い怖くないの問題じゃないんですよね」
「何が問題なの?」
聞き返すと、はるかは答えにつまった。
「なんでお金払って怖い思いしなきゃなんないんですかぁぁ……! 意味がわかりませんよ」
「それでいったら、せっかく買った入園券、もったいないよ」
はるかはさらに返答につまった。
「……入園券を無駄にしてでも、早く、こんなアトラクションは意味がないと、遊園地側に伝えるべきです」
――バカバカしい。結局怖いだけだ、これは。
「私がせっかく考えたプラン、一言で却下なの……」
ちょっと寂しそうに言ったら、はるかは簡単に陥落した。
「しょんぼりさせたいわけじゃ、」
そう言って屋敷内までついてきた。
お化け屋敷のなかで、はるかは途中で座り込んでしまった。端っこだったので、そのまま抱きしめると、私の袖にしがみついてきた。
(か、可愛い……?)
「結構、情けない?」
そう言ってやったら、
「なんで児嶋さん、こんなものが好きなんですか」
と呟く。
「楽しいから」
「私が怖がるのも楽しいとかじゃ、ないですよね」
目を細めて、疑いの目を向けてくる。私は素直に答えた。
「今日はそれが楽しい」
怖い目をして睨んでくるので、抱きしめるのをやめる。はるかが泣きそうな目をして私の腕をつかまえた。本当に楽しくなってきた。
いつもの勢いはどこにいった?
「先に行くとか、最悪の人間がすることですから」
はるかの家に戻ると、はるかはベッドの上のクッションを並べ直し、座って、やっと
「落ち着いた」
と言った。
「次は私がどこ行くかプラン練ります」
自衛なのか復讐なのか。
「でも、はじめのとこで慣れたのか、ほかのお化け屋敷はあまり怖がってなかったんじゃない? 慣れたんじゃない?」
「一番最初のは、あれが怖かったんですよ、ずっと真後を無言でついてきてた女の子」
「そんなのいたっけ?」
「ほら、後ろから顔覗き込まれたじゃないですか」
「どのへんで?」
「ずっとですよ。入り口入ってから出口の直前の垂れ幕のとこまで、」
「…………」
そんなについてきてたら、覚えていそうなものだけど。はるかの方ばかり見ていたからかな。はるか可愛かったし。ほんとにはるか可愛かったし。
「ピッタリついて、…………」
はるかは言うのをやめた。
「映画デートしなおしましょう。コメディ借りてあります」
そう言って遊園地に誘ったのは、暑がりのはるかが、部屋の中でぐったりと突っ伏したまま、ほとんど動かなくなったからだった。
はるかは、
「デート? デートですかぁ! 児嶋さん、行きたいんですよね?」
目をキラキラさせた。
子供みたいだ、と思う。
夏バテ対策でもあるから、プールか、お化け屋敷がいいだろう。お化け屋敷の充実した遊園地を選んだ。
プールは、行くなら可愛い水着で行きたいし。可愛い水着を着るなら、もう少しダイエットしてからにしたいし。
心づくしの私のデートプランに、当日、はるかはけちをつけた。
「オバケ屋敷はきらいです」
「ええっ!? はるかが?」
「合理的じゃないものにお金を使って、その事業を発展させるということなんですよ?」
キリッとした横顔。……怖いのか?
「この『恐怖の回廊』、行かないとして、次どこに行きたいですか?」
顔を寄せて、はるかはマップを覗きこむ。
「あ、時間的にね、『病院の遺体置き場』だと、時間埋められるみたい。そしたらその次の『夜の林間学校』にあまり並ばないで行けるんだけど」
はるかはにっこりと笑い、甘えるように、私の目を覗きこんだ。
「とりあえず、ハンバーガーでも食べて、次行くとこを考えませんか? 私は『小人たちのマーチ』に行きたいです。すっごい可愛いみたいです!」
「あ、それはね、ここで行こうと思ってるんだけど、どう?」
私は書き出してきていたメモを、はるかに見せた。夕方の4時からの回なら、他のイベントがあるため、小人たちのマーチは並ばなくても入れる。
「ナンデスカ、コレ……」
メモを見て、怖い声を出す。
「こういう回り方できたらいいかなって。はるかの行きたいとこあったら、言って?」
「オバケ屋敷ばっかりじゃないですか……」
罠にかかった動物のような恨みがましい目つきで見られた。
「だって、ここ、お化け屋敷が凄いから、選んだんだよ?」
はるかは目を丸くし、マップをもう一度眺め、そして、愕然として肩を落とした。
「メニューがさっきの小人と、メリーゴーランド以外、ほとんどオバケ屋敷とか……! ありえない。ありえない、この遊園地!」
私ははるかの手を引いて、自然と『病院の遺体置き場』へと誘導した。
「この遊園地、どうしたらホラー嫌いの一般客にも受けて儲かるのかを、考えた方がいいですよ。子供連れを呼び込むなら、オバケ屋敷だけじゃだめだし、カップルを呼び込むならジェットコースターとか、ドキドキ系のものと観覧車を入れたほうがいいし、え、何、何に並んでるんですか」
並んでいる途中で、はるかは、外で待っていると言いだした。
「そんなに怖いの? すぐ終わるよ。私もいるし、大丈夫だって」
「遊園地は早めに切り上げて、映画いきません? 怖い怖くないの問題じゃないんですよね」
「何が問題なの?」
聞き返すと、はるかは答えにつまった。
「なんでお金払って怖い思いしなきゃなんないんですかぁぁ……! 意味がわかりませんよ」
「それでいったら、せっかく買った入園券、もったいないよ」
はるかはさらに返答につまった。
「……入園券を無駄にしてでも、早く、こんなアトラクションは意味がないと、遊園地側に伝えるべきです」
――バカバカしい。結局怖いだけだ、これは。
「私がせっかく考えたプラン、一言で却下なの……」
ちょっと寂しそうに言ったら、はるかは簡単に陥落した。
「しょんぼりさせたいわけじゃ、」
そう言って屋敷内までついてきた。
お化け屋敷のなかで、はるかは途中で座り込んでしまった。端っこだったので、そのまま抱きしめると、私の袖にしがみついてきた。
(か、可愛い……?)
「結構、情けない?」
そう言ってやったら、
「なんで児嶋さん、こんなものが好きなんですか」
と呟く。
「楽しいから」
「私が怖がるのも楽しいとかじゃ、ないですよね」
目を細めて、疑いの目を向けてくる。私は素直に答えた。
「今日はそれが楽しい」
怖い目をして睨んでくるので、抱きしめるのをやめる。はるかが泣きそうな目をして私の腕をつかまえた。本当に楽しくなってきた。
いつもの勢いはどこにいった?
「先に行くとか、最悪の人間がすることですから」
はるかの家に戻ると、はるかはベッドの上のクッションを並べ直し、座って、やっと
「落ち着いた」
と言った。
「次は私がどこ行くかプラン練ります」
自衛なのか復讐なのか。
「でも、はじめのとこで慣れたのか、ほかのお化け屋敷はあまり怖がってなかったんじゃない? 慣れたんじゃない?」
「一番最初のは、あれが怖かったんですよ、ずっと真後を無言でついてきてた女の子」
「そんなのいたっけ?」
「ほら、後ろから顔覗き込まれたじゃないですか」
「どのへんで?」
「ずっとですよ。入り口入ってから出口の直前の垂れ幕のとこまで、」
「…………」
そんなについてきてたら、覚えていそうなものだけど。はるかの方ばかり見ていたからかな。はるか可愛かったし。ほんとにはるか可愛かったし。
「ピッタリついて、…………」
はるかは言うのをやめた。
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