虫 ~派遣先に入って来た後輩が怖い~

銀色小鳩

文字の大きさ
上 下
18 / 53
番外編

遊園地デート

しおりを挟む
「ちょっと、デートっぽいこと、してみる……?」
 そう言って遊園地に誘ったのは、暑がりのはるかが、部屋の中でぐったりと突っ伏したまま、ほとんど動かなくなったからだった。
 はるかは、
「デート? デートですかぁ! 児嶋さん、行きたいんですよね?」
 目をキラキラさせた。
 子供みたいだ、と思う。
 夏バテ対策でもあるから、プールか、お化け屋敷がいいだろう。お化け屋敷の充実した遊園地を選んだ。
 プールは、行くなら可愛い水着で行きたいし。可愛い水着を着るなら、もう少しダイエットしてからにしたいし。
 心づくしの私のデートプランに、当日、はるかはけちをつけた。 
「オバケ屋敷はきらいです」
「ええっ!? はるかが?」
「合理的じゃないものにお金を使って、その事業を発展させるということなんですよ?」
 キリッとした横顔。……怖いのか?
「この『恐怖の回廊』、行かないとして、次どこに行きたいですか?」
 顔を寄せて、はるかはマップを覗きこむ。
「あ、時間的にね、『病院の遺体置き場』だと、時間埋められるみたい。そしたらその次の『夜の林間学校』にあまり並ばないで行けるんだけど」
 はるかはにっこりと笑い、甘えるように、私の目を覗きこんだ。
「とりあえず、ハンバーガーでも食べて、次行くとこを考えませんか? 私は『小人たちのマーチ』に行きたいです。すっごい可愛いみたいです!」
「あ、それはね、ここで行こうと思ってるんだけど、どう?」
 私は書き出してきていたメモを、はるかに見せた。夕方の4時からの回なら、他のイベントがあるため、小人たちのマーチは並ばなくても入れる。
「ナンデスカ、コレ……」
 メモを見て、怖い声を出す。
「こういう回り方できたらいいかなって。はるかの行きたいとこあったら、言って?」
「オバケ屋敷ばっかりじゃないですか……」
 罠にかかった動物のような恨みがましい目つきで見られた。
「だって、ここ、お化け屋敷が凄いから、選んだんだよ?」
 はるかは目を丸くし、マップをもう一度眺め、そして、愕然として肩を落とした。
「メニューがさっきの小人と、メリーゴーランド以外、ほとんどオバケ屋敷とか……! ありえない。ありえない、この遊園地!」
 私ははるかの手を引いて、自然と『病院の遺体置き場』へと誘導した。
「この遊園地、どうしたらホラー嫌いの一般客にも受けて儲かるのかを、考えた方がいいですよ。子供連れを呼び込むなら、オバケ屋敷だけじゃだめだし、カップルを呼び込むならジェットコースターとか、ドキドキ系のものと観覧車を入れたほうがいいし、え、何、何に並んでるんですか」
 並んでいる途中で、はるかは、外で待っていると言いだした。
「そんなに怖いの? すぐ終わるよ。私もいるし、大丈夫だって」
「遊園地は早めに切り上げて、映画いきません? 怖い怖くないの問題じゃないんですよね」
「何が問題なの?」
 聞き返すと、はるかは答えにつまった。
「なんでお金払って怖い思いしなきゃなんないんですかぁぁ……! 意味がわかりませんよ」
「それでいったら、せっかく買った入園券、もったいないよ」
 はるかはさらに返答につまった。
「……入園券を無駄にしてでも、早く、こんなアトラクションは意味がないと、遊園地側に伝えるべきです」
 ――バカバカしい。結局怖いだけだ、これは。
「私がせっかく考えたプラン、一言で却下なの……」
 ちょっと寂しそうに言ったら、はるかは簡単に陥落した。
「しょんぼりさせたいわけじゃ、」
 そう言って屋敷内までついてきた。
 お化け屋敷のなかで、はるかは途中で座り込んでしまった。端っこだったので、そのまま抱きしめると、私の袖にしがみついてきた。
(か、可愛い……?)
「結構、情けない?」
 そう言ってやったら、
「なんで児嶋さん、こんなものが好きなんですか」
 と呟く。
「楽しいから」
「私が怖がるのも楽しいとかじゃ、ないですよね」
 目を細めて、疑いの目を向けてくる。私は素直に答えた。
「今日はそれが楽しい」
 怖い目をして睨んでくるので、抱きしめるのをやめる。はるかが泣きそうな目をして私の腕をつかまえた。本当に楽しくなってきた。
 いつもの勢いはどこにいった?
「先に行くとか、最悪の人間がすることですから」
 
 
 はるかの家に戻ると、はるかはベッドの上のクッションを並べ直し、座って、やっと
「落ち着いた」
 と言った。
「次は私がどこ行くかプラン練ります」
 自衛なのか復讐なのか。
「でも、はじめのとこで慣れたのか、ほかのお化け屋敷はあまり怖がってなかったんじゃない? 慣れたんじゃない?」
「一番最初のは、あれが怖かったんですよ、ずっと真後を無言でついてきてた女の子」
「そんなのいたっけ?」
「ほら、後ろから顔覗き込まれたじゃないですか」
「どのへんで?」
「ずっとですよ。入り口入ってから出口の直前の垂れ幕のとこまで、」
「…………」
 そんなについてきてたら、覚えていそうなものだけど。はるかの方ばかり見ていたからかな。はるか可愛かったし。ほんとにはるか可愛かったし。
「ピッタリついて、…………」
 はるかは言うのをやめた。
「映画デートしなおしましょう。コメディ借りてあります」  
しおりを挟む
アルファポリスさんは、誰がどこまで読んでるかが全くわからないので、「果実」のほうも読んでるよ! 続き書いたら読むよ! という方がいれば、お気に入り登録をおねがいします。励みになります。
感想 1

あなたにおすすめの小説

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

身体だけの関係です‐原田巴について‐

みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子) 彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。 ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。 その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。 毎日19時ごろ更新予定 「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。 良ければそちらもお読みください。 身体だけの関係です‐三崎早月について‐ https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて

千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、娘の幼稚園の親子イベントで娘の友達と一緒にいた千春と出会う。 ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。 ハッピーエンドになると思うのでご安心ください。

処理中です...